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東京離島のロングライフデザイン2 青ヶ島の青酎・あおちゅう
d design travel 特別号 東京離島より
発酵デザイナー 小倉ヒラクが案内する
火山島のおたのしみ
青ヶ島のあおちゅう
伊豆諸島最南端、八丈島の南、約70キロメートルに位置する、人口わずか170人ほどの青ヶ島には日本の焼酎文化のルーツを感じさせる「あおちゅう」という酒があります。
50年前には数か月に一度連絡船が来るだけ、という隔絶された青ヶ島。水源がないので稲作もできず、麦とサツマイモを細々と自作して食いつないできました。「あおちゅう」はそんな厳しい制限のなかで生まれた発酵文化です。
奥山 晃さん。青ヶ島酒造の杜氏のひとり。お母さんの直子さんの後を継いで昔ながらのあおちゅうを醸している。現代的な醸造も学び、あおちゅう文化を担うキーパーソン。農業や牛飼い、建設業にも関わる働きもの。僕は晃さんのもとであおちゅう醸造を体験させてもらいました。
青ヶ島の火山活動は今でも続いている。「ひんぎゃ」と呼ばれる噴気孔からは、蒸気が吹き出している。
火口のなかにさらに火山がある特異な地形。人が住んでいるのは高台のごく一部のみ。
日本でも屈指の絶海の孤島では、明治以降の近代的な醸造技術が持ち込まれず、東アジアの蒸留酒の起源が刻印された、非常におおらかな醸造現場を見ることができます。仕込みの時期は秋過ぎ、サツマイモの収穫とともに始まります。寒い時期に栽培して備蓄しておいた大麦を蒸し、そこに火山岩の森に生える、オオタニワタリという熱帯植物をかぶせます。すると葉についた黒いカビが麦に移り、川原の小石のようなテクスチャーの、真黒い麹ができます。そこに砕いたサツマイモと水を加えて野生の酵母でもろみを醸します。近代以降の一般的な芋焼酎は、麦でなく米の麹をつかって甘酒状の麹液をつくり、そこにサツマイモを加える二段仕込み。しかし、あおちゅうは全ての原料を混ぜて一気に発酵させる一段仕込み。しかも青ヶ島には水源がないので、取水場にためて濾過した雨水を使います(昔は水瓶にためたものを直接使用)。麦と野生の菌で醸すにもかかわらず、旺盛に発酵するあおちゅうの元気なもろみ。それを蒸留すると高アルコールの焼酎ができます。わずかな耕作地を二毛作にし、寒い時期に麦、暖かい時期にイモを育てる。発酵に使う微生物も島内から。原料も微生物も自給自足という、ローカル発酵文化のアーキタイプが小さな火山島に残っているのです。
サツマイモの収穫風景。寒い時期に麹用の大麦を育て、暖かい時期にもろみ用のイモを育てる。
製麹の様子。バラした麦に黒いカビをつけて温度と湿度をコントロールしていく。
なんともおおらかな、あおちゅう。日本の蒸留酒文化の伝統である薩摩焼酎や琉球泡盛とは違う、非常に原初的な製法、もっといえばお母さんの手づくりスタイルと言えます。その歴史で辿ってみると、江戸時代、青ヶ島のおとなり八丈島に流刑にされた薩摩商人、丹宗庄右衛門(たんそうしょうえもん)が中国大陸から渡来したサツマイモを使った醸造法を持ち込んだのが始まり。それが青ヶ島にも伝来し、米がない環境でもできるホームブルーイングとして各家庭に普及します。比較的アクセスしやすい八丈島では明治以降、本土と同じく近代的な焼酎製造にアップデートされ往年の醸造法は姿を消しました。しかし、僻地の青ヶ島ではかつてのホームブルーイングの文化が残ったのです。青ヶ島の焼酎醸造所は、代々自家醸造の文化を守ってきた家族たちが出資しあってできた組合方式。現在も数名の醸造家の各々が好みの製法で、独特の酸味と花のように香る島の焼酎を醸し続けています。
オオタニワタリの葉を大麦にかぶせ、コウジカビを穀物に移す。
川原の小石のような、黒い麦麹。本土の芋焼酎では通常米麹を使う。
蒸留して最初に出てくる濃縮アルコール「初垂れ(はなたれ)」は、青ヶ島でのみ提供している。
なお、島には焼酎専業の醸造家はいません。みんな漁師だったり、畑をしたり、牛を飼ったり、建設や整備の仕事をしたりといくつもの生業を掛け持ちしながら、その合間にあおちゅうを作っているのです。人の少ない離島では、一人が何役もこなさないと経済や文化が維持できない。お酒作りもまた商売であり、文化の継承であり、そして一日の疲れを癒やす日々の楽しみなのです。火山の熱でふかしたサツマイモにカツオの塩辛をつけて、あおちゅうをクピッと一杯。打ち寄せる波の音、きらめく星の瞬き。これぞ島のおたのしみ……!
小倉ヒラク
発酵デザイナー。「見えない発酵たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちと発酵・微生物をテーマにしたプロジェクトを展開。
期間限定発売
青ヶ島の焼酎「青酎・あおちゅう」
ネットショップ発売期間:2020/12/31 まで
トラベルガイドでご紹介した、青ヶ島の焼酎「青酎・あおちゅう」を、ネットショップと一部店舗にて期間限定で発売します。天然発酵が織りなす杜氏ごとの多彩な味をお楽しみください。(2020/12 販売は終了いたしました)
青酎池の沢
杜氏:荒井清
麦白麹で仕込んだ芋焼酎を4年熟成。甘い香りと青葉のような香り
700ml¥3,350
青酎25度
杜氏:荒井清
麦白麹で仕込んだ麦焼酎を6年以上熟成。どっしりとコクのある味
700ml¥1,950
青酎35度
杜氏:荒井清
ローストナッツのような香ばしさと薬酒の風味。重厚な味わい
700ml¥2,900
青酎PREMIUM
杜氏:荒井清
10年熟成芋焼酎と7年熟成麦焼酎をブレンド。バランスの良い味
700ml¥7,050
恋ヶ奥
杜氏:広江清二
原料の麦に、直火で炒った麦を加えるため、香ばしさが特徴
700ml¥3,600
あおちゅう広江順子
杜氏:広江清二
野生の菌で発酵する自然麹仕込み。10年以上の長期熟成
700ml¥4,000
300ml¥1,750
あおちゅう広江マツ
杜氏:広江マツ
炒った麦を加え発酵させた自然麹仕込み。母マツさんの味を継承
700ml¥4,000
300ml¥1,750
あおちゅう広江末博
杜氏:広江末博
毎年つくる原酒を継ぎ足しながら長期熟成したまろやかな味
700ml¥4,000
300ml¥1,750
あおちゅう奥山直子
杜氏:奥山晃
国産麦と島産サツマイモの自然麹仕込み。母直子さんの味を継承
700ml¥4,000
300ml¥1,750
あおちゅう菊池正3年
杜氏:菊池正
サツマイモをふんだんに使って仕込む3年熟成。甘味が強い
700ml¥4,000
300ml¥1,750
オンラインで、店頭で
体験してください
東京離島のものづくりを体感する
青ヶ島の焼酎「青酎・あおちゅう」の期間限定販売会
期間:11/26(木)~12月末まで(※年末の営業日程は店舗によって異なります)
開催店舗: d47食堂 / dたべる研究所 / 発酵デパートメント
伊豆諸島最南端の火山島・青ヶ島で野生の麹菌をつかった焼酎「青酎・あおちゅう」は、天然発酵が織りなす杜氏ごとの多彩な味が楽しめます。店頭では、飲み比べもできる販売会を開催します。期間中は、島の産品と魅力を語るオンライントークイベントも配信。東京にある離島のものづくりや自然や文化などを、ロングライフデザインの視点で紹介します。
発酵デザイナー小倉ヒラクさんに聞く
野生の力で醸す青ヶ島の焼酎「青酎・あおちゅう」の魅力
ライブ配信日時:12/15(火)20:00〜21:00
無料配信オンライントーク。d47食堂、dたべる研究所のディレクター相馬夕輝が聞き手となり、発酵デザイナー小倉ヒラクさんをゲストに、現地を訪問した時のエピソード、製造過程や発酵の仕組み、それぞれの杜氏のテイスティングについてお話しを伺います。ライブ配信日以降は、見逃し配信でいつでも視聴可能です。

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東京にある離島のものづくりと観光を、
ロングライフデザインの視点で考えます。
その土地に長く続く「個性」「らしさ」を、デザイン的観点から選びだし紹介する観光ガイドブック d design travel編集部による『d design travel 特別号 東京離島 TOKYO ISLANDS』を作成しました。

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