d47食堂では、毎月または隔月でコーヒーが変わる。もちろんコーヒー豆は、これまでd design travel 誌の取材で編集部がご縁をつないでくださった、日本各地の選りすぐりの自家焙煎珈琲店から。
だからこそ、「こんな味に違いない」というd47食堂コーヒー担当の私の憶測ではなく、できる限り実際に現地まで行き、それぞれのお店でのコーヒーの味、焙煎家やお店のストーリー、その土地らしさを知ってから、“いかに彼らの表現したいコーヒーに近づけるか”を大切に、コーヒーを淹れるようにしている。
今月は、8月3日からd47 MUSEUMにて開催される 第19回企画展「これからの暮らしかた―Off-Grid Life―」と連動して、出展者の1人である群馬・horizon laboの岩野響くんのコーヒー豆をアイスコーヒーとしてご提供させて頂く予定。
と、いうことで、7月初めにhorizon laboさんのお店に、ご挨拶も兼ねて伺ってきました。
東京からは、電車にゆられること約3時間!!桐生に近づくほどに、車窓からは緑が多いのどかな景色が広がり、d47食堂の内田店長とともにワクワクと胸を高鳴らせながら向かった。
この日は天気にも恵まれ、初夏を感じるような日差しと涼やかな風が心地よかった。
初めての桐生という町をめいっぱい感じようと、桐生駅から徒歩でお店に向かった。なんとも気持ちよいほどに、カンカン照りの日差しを浴び、「足腰にくるね~!」と汗をかきながらのぼる急斜面な坂道。夏休みに田舎のおばあちゃん家に行くときのような感覚だった。
坂を上りきり、下り坂をすこし降りたところに、horizon laboのお店がある。
ここは、岩野 響(いわの ひびき)くんがコーヒーを焙煎するお店とともに、ご両親2人が営む『リップル洋品店』という洋服屋さんもある。ちなみに、下の階は、お住まいだ。
風が気持ちよく通る高台からは、眼下に桐生を見下ろし、その先の山々を越えて、かすかにスカイツリーが見える。
11時の開店前にお伺いしたのだが、もう2、3人のお客様がいらしていて、このお店の注目度の高さを改めて感じた。
初めてお会いする響くんはとても礼儀正しく、15歳とは思えない落ち着きのある少年だった。お母さまも笑顔が素敵で、開店前の忙しい時にも関わらず、にっこりと私たちを迎えてくださった。
horizon laboは、“アスペルガー症候群”という自身の障がいと向き合う15歳の岩野響くんが、「ぼくができることから ぼくにしかできないことへ」という想いから、大好きな珈琲と向き合い、その研究発表としてコーヒー豆の販売をされているお店。元々は、カレー作りにはまり、スパイスの調合から“隠し味”としてのコーヒーの奥深さに魅了され、ついには自身でコーヒー豆の焙煎も始められたそう。
毎月1~7日が営業日で、コーヒー豆の販売のみ。それでも、早いうちにコーヒー豆が完売してしまうこともしばしばだという。
「今月は、たくさん焼いたので、7日までもつと思います」
その言葉がとても頼もしいと同時に、なんだか畏敬の念を感じずにはいれなかった。こんなにも小さい規模で、一人で焙煎して、来てくれた人が喜んでくれるようにと配慮までされていて。全く年下の少年とは思えなかった。
ご両親もとても素敵な方で、お二人も染めから縫製まで自身で手掛けられ洋服屋さんを営む。リップル洋品店にある洋服は、全て一点もので、少しずつ色合いが違い、どれとして同じ色はない。
日本社会では、とかく「みんなができるのに、できないやつはダメだ」という風潮があるが、やっぱり人それぞれ「できること」と「できないこと」がある。私などの世代でも、「できないこと」をどうにか克服することを求められてきて、「できるように乗り越えてきた」からこそ、何か“大切なもの”を忘れてきたのかもしれないなーと思った。
響くんのご両親のように、彼の個性を尊重し「できること」を大切に育ててくれる彼らの温かさが、勝手にジーンと胸にきてしまった。
先日は、ご挨拶に!と、d47食堂にも遊びにきてくださった。
この日は、家族5人でご来店くださり、下の2人の弟くんたちとも初対面。みんな仲が良くて、将来はこんな家庭をもちたいと思わせてくれる岩野一家。
「こんな都会の真ん中でひーくんのコーヒーを淹れてもらえるなんて、嬉しいね!」とお母様が言ってくださったが、恐縮至極な心境です。笑
8月のコーヒー豆も店舗での販売はもうすでに終了しているそうですが、d47食堂では、8月はアイスコーヒーとして提供予定。ぜひ一度、響くんのコーヒーを味わいに、渋谷ヒカリエまでいらしてください。