141:ナガオカの仕事より[コンペの行方]

愛知県蒲郡市主催の「蒲郡BENCH ART PROJECT 学生チャレンジコンペ2024」の審査委員長をさせて頂いたこのコンペ。他の審査委員全員で選んだ最優秀作品賞「たゆたうの日陰」(川口弘誠さん 大谷和之さんの作品)は、あえて地面に座り、その上に揺らぐタープがあり「木陰」のような状態を「ベンチ」とした案。このコンペの最大の特徴は選ばれた案は実際に作られ設置されるということ。全世界から応募のある人気のコンペに育ってきているその今年の案が難航していました。あることがきっかけで決定からのその後が気になり問い合わせたところ、実際に風などを考えるとプラン通りになかなかならない、ということでした。そこで急遽、審査委員4人全員が集まり、蒲郡市から説明を頂くことになりました。審査委員は建築家の浅井裕雄さん(裕建築計画 代表)、高野眞吾さん(彫刻家・名古屋短期大学准教授)、大角真子さん(スケッチジャーナリスト・たくさんのいろんなものと生きるおもしろ社 代表)です。今回のことを受けて「コンペの審査に関わるということ」は、選ばれたものに何かしら関わり続けることだと実感しました。まして選ばれた案が「実際に設置される」ということなので、その行方はずっと見守らなくてはなりません。そういうことから今回、この状況を審査委員全員が「集まろう」となったことはとても感動的でしたし、「審査の責任」をあらためて考えることにもなりました。おそらく、選ばれた案について学生ができることは限られていて、その他の雑多で責任が伴うことはほぼ全て、主催側の蒲郡市役所の職員がやっていると考えると、とても大変なことです。応募した学生にも、審査した我々にも、何かしらの責任というか、その後の行方にしっかり関わることが必要とわかっているコンペ。そこを役場の皆さんにフォローし続けさせるのは主催とはいえ少し違うと思ったのでした。

集まった審査委員4名に対して、とても紳士的で丁寧にこれまでの経緯を説明してくださった市役所の職員の皆さんにも僕は感動しました。そして、このコンペがとても「愛情を持って運営しようとする意識」を強く感じました。僕はこのコンペでタイトルについた言葉の一つ一つに「定義」が必要だと感じました。まず「学生」とは何か。どこまでを期待して、何をしなくてもいいか。ここは「社会人」「プロ」とは違う何かがあるわけで「学生」と付けた以上、「学生らしい」という期待点が魅力となり、そこをのびのびと「大人」がサポートしなくては「学生」とは付けられません。また「チャレンジ」とは何をすることなのか、どこまでをやっていいのか、そこも大きなポイントです。「できるかどうかわからないけれど、やってみろ!!」というのが「チャレンジ」なら、主催側にそこへの「対応部隊」が必要です。ここを役場の職員が何でもかんでもフォローしていては、職員が疲弊して結果、続かなくなります。もちろん「BENCH」の定義や「ART」の定義も必要でしょう。何をもって「ART」なのかをしっかり共有しないと「ART」に関わるすべての人に迷惑がかかる可能性があります。

話の焦点は「暴風時にどうするか」ということが大きくありました。折れないような材料や構造。いざとなったらタープ部分を外して飛んで行かないようにするとしたら、いったい誰がどんな状況でそれを判断して出動するのか・・・・。市ととして「様々に協力を打診したが、協力は得られなかった」とのことで、ここでも結局、職員がやることに仮になっていました。ここだけを考えても、このコンペには「実際に設置された作品に関してのサポーター」は絶対に必要ということになります。

引き続き、このことは審査委員全員が見守ったり協力できることはし続けようと話して解散となりました。これからこの作品が実際に設置され、ずっとその場所にあり続けるわけで、このチャレンジコンペ自体がとても学生の可能性について注目しているものなので、そこを含めてみんなで関心を持つことが大切だと思いました。選ぶ責任、選ばれる責任、コンペを主催する責任、コンペを資金などでサポートする責任などはありますが、その「責任」に怯えず、みんなで自分ごととして整え続ける。大変なことですが、大切なことだと考えることができました。

合わせて風が抜けやすいタープを探し検証する市役所職員の皆さん。風で飛ばされないようにどんどんパイプが結果として太くなってしまうことに対して「この案の何がポイントとしているのか、考えた学生に確認する必要があり、それが “ 軽やかに舞う ” ならば、そこに着地しなくては意味がなくなる」(浅井さん)。ある強風が来たらタープが切れるなどの限界値の考えも必要とのこと。これら検討視点の着地は「作品」であり「ART」であること。つまり「美しい」ことに着地しなくては意味がない。そのための検討は続く。