レポート「あぐいのあかすしす」ができました

「赤酢」はどんなお酢?

みなさんは「赤酢」ってどんなものかご存知ですか。「赤シャリ」という言葉のほうが知っている方も多いでしょうか。赤シャリは、江戸前ずしの伝統的な酢めしとして、私も聞いたことがありました。そのシャリに使われているのが赤酢なのだそうです。では、赤酢は何からできたお酢で、なぜ赤っぽいのでしょうか。そして肝心の味わいは? また、今回なぜ阿久比で作ったのか?ひとつひとつ紐解いていきたいと思います。

まずスーパーでお酢の売り場を見ると、多いのは

・穀物酢(主原料:小麦・酒粕・米・コーンなど)
・米酢(主原料:お米)
・黒酢(主原料:玄米)
・りんご酢(主原料:りんご)
・バルサミコ酢(主原料:ぶどう)

赤酢はあまり見かけませんよね。赤酢は「酒かす」からできていて、赤茶色や琥珀色なのが特徴です。白い酒粕を茶色くなるまで熟成させてから作るので、濃い琥珀色になり、ごはんに混ぜるとほんのり赤く色付くため「赤酢」とも呼ばれ、その酢めしを「赤シャリ」と言うようになったそうです。


右が赤シャリの色合い(Photo by Yuri Natsuaki)

舐めてみると、穀物酢や米酢より酸味がキツくなく、あまりツンとしません。旨みが広がり深みもあって、後味はわずかにフルーティ。江戸っ子は、こんなに美味しいお酢で握りずしを食べていたんですね。

でも戦後は、白いものへの憧れや、日本酒の需要低下による酒粕の減少もあり、赤酢は減少。現代では、本格派な江戸前ずしの店で味わえるもの、というイメージになってしまったそうです。

 

実は、知多半島が発祥の地!

そんな赤酢ですが、実はd news aichi aguiがある知多半島では「この地で発祥した伝統調味料」として、まだ一部の人には知られています。そのため、私たちのお店で開発した新名物「あぐいなり」は、赤酢を使っているのがいちばん核になるこだわりです。

 

阿久比のいなりずし「あぐいなり」について

さて、d news aichi aguiは2021年の開店時から、町につづく物語を残すため「あぐいなり」といういなりずしを開発し、新名物として広める活動に取り組んでいます。きっかけは知多半島の児童文学作家・新美南吉の作品『ごんぎつね』。教科書に載っているお話として有名ですが、その舞台が阿久比町の「権現山」と言われています。

そこでキツネの「ごん」のしっぽに見立てた特製のいなりずし「あぐいなり」を作り、イベント時などに販売してきました。

お米は町のブランド米「れんげちゃん」。田んぼにれんげを咲かせ、土にすき込むことで、化学肥料不使用、農薬は最低限にできる安心でおいしいお米です。そして、赤酢をつかった酢めしは、酸味が苦手でもおいしい、と店のお客さまやお子さんにも喜ばれています。でもこの地域の素晴らしい宝物である権現山、れんげちゃん、赤酢は、地元でも広く知られていません。特に赤酢は今や希少で、販売店も少なく、この地域でも家庭のおすしは安価な量販品の穀物酢を使う人がほとんど。そのため、「家庭でぜひ赤酢のおすしやあぐいなりを作ってほしい!」という思いで、今回のすし酢を作ることにしました。

 

赤酢の「すし酢」を、阿久比で作ろう

d news aichi aguiがある阿久比町は、ナガオカケンメイが3歳から18歳まで過ごした地元。せっかく「あぐいなり」を知ってもらうための「すし酢」をオリジナルで作るなら、なるべく阿久比産がいいよね、ということで町内唯一のお酢の蔵「株式会社三井酢店」と開発することにしました。1934年の創業以来90年にわたり、赤酢を醸し続ける、知多半島でも数少ない存在です。


緑に囲まれ空気のきれいな環境

現在、赤酢の製造を担う方からも、こういったお話しを伺いました。

「この地域は、醸造に適した温暖な気候です。古くから醸造が盛んな地域であり、醸造に関する伝統的な技法が受け継がれています。酒蔵も多くあり、酒粕が手に入りやすい環境にありました。弊社の創業者は赤酢をつくる技術を持っていたため、弊社でも作り始め、今に至ります。一般的に使われることの多い米酢と異なる、コク深い豊かな風味を持つ赤酢は、特長のあるお酢としてニーズがあるのです」


酒や酢などの醸造家が信仰する「松尾大社」のお札が掲げられた神棚

そんな三井酢店が基本としているのは「からだにやさしい商品(もの)づくり」。不必要な食品添加物を使わないというモットーに、私たちは共感できました。また、地域への思いも、私たちと重なるところが。

「弊社で他の商品に使用している主な醤油、みりん、料理酒は、近隣の地域にある会社で造られたものです。その他の原材料も愛知県産のものを使用することがあります。けれどもOEMが中心の会社であるため、今回のように”阿久比らしい商品”は、依頼がないと作ることが少ないのが現状です」

ならば、ぜひ一緒に阿久比で赤酢のすし酢を作りましょう、と企画が始まりました。

 

「あぐいのあかすしす」が出来るまで

11月某日、わたしたちは阿久比町内にある三井酢店の工場へ行ってきました。ついに出来上がった「あぐいのあかすしす」の製造工程の見学と、より深くこの地域のものづくりを知るための取材です。清潔で管理が行き届いている工場を見学させていただきながら、改めて赤酢のすし酢ができるまでのお話を聞きました。


この日、見学可能だった米酢の熟成タンクも覗かせてもらいました。

今回使った酒かすは、この地域の伝統と同じく、3年以上熟成したもの。赤酢は、熟成して茶色くなった酒かすに水を加え、そこに含まれた旨みたっぷりの酒を絞り出します。その酒に酢酸菌を加えて発酵させたあと、3ヶ月以上熟成させます。すると芳醇な赤酢が出来上がるのです。ちなみに酒粕は、お米由来の栄養や、麹菌の発酵による旨みが残った副産物。熟成させると天然のアミノ酸が増えて、旨みやコクが増すそうです。「あぐいのあかすしす」は、その赤酢に、国産の粗糖と、国産の塩だけを加えて加熱し、味を整えて出来上がります。(粗糖:上白糖より精製度合いが低く、さとうきびのミネラルなどが残っていて、コクも感じられるお砂糖)

「あぐいのあかすしす」は素材が3つとシンプルゆえに、配合はこれぞというバランスに辿り着くまでが難しく、10回以上はご飯を炊き、酢飯を作って試作してくださったと言います。赤酢を作り続けてきた三井酢店でも、赤酢を使ったすし酢の開発は、90年の歴史のなかでもおそらく初めてなのだとか。

黒に近い赤茶色に仕上がった「あぐいのあかすしす」は、舐めてみると旨味と甘味のあとにコクを感じ、酸味はほとんど感じないほどほのかで、黒酢のようにやわらか。後味はりんご酢やバルサミコ酢のようにフルーティ。ソースのように複雑で豊かな風味も感じます。

同社の開発担当であり管理栄養士の坂口楓さんは「一般的なすし酢は、化学調味料でおいしさを感じるものも多いなか、今回は赤酢(粕酢)と粗糖と塩だけで、厚みがあって、コクと深みのある味わいになりました。部署内でも高い評価を得ていて、自信をもっておすすめできる1本です」と笑顔で語ってくださいました。

 

おうちで「あぐいなり」を作ろう

サンプルをいただき、私もさっそく試作にチャレンジ。自宅で炊き立てご飯1合に大さじ3杯を混ぜてたところ、ツンとしないやわらかな香りが立ち、むせることなく幸せな湯気に包まれました。(お店であぐいなりを作るときと同じ香り!)

酢めしが冷めたら、甘辛く煮たおあげに詰めて……あぐいなりの完成です!お店では通常、酢飯に具材を何も入れないのですが、ご家庭では自由に、お好みの具材を入れて楽しんでみるのもいかがでしょうか?赤酢のすし酢はまろやかなので、具材のおいしさが活きるため「おすしに合う」と言われているんです。これをきっかけに、町にいろんなあぐいなりが登場するといいなと楽しみにしていますので、ぜひお試しください。


阿久比のいなりずし「あぐいなり」の作り方
レシピはこちら>

d news aichi aguiでは、このすし酢やあぐいなりが広がることで、知多半島の赤酢のストーリーから、地元の作家・新美南吉の素晴らしさ、権現山のこと、そして阿久比の魅力まで、少しでも地元の宝物を残すことにつながれば、と願っています。

 


あぐいのあかすしす
愛知県知多郡阿久比町内でつくられた赤酢に、粗糖、塩のみを、絶妙なバランスで配合。酒かすを熟成・発酵させてつくる赤酢のコクのある甘さとやさしい酸味、まろやかな旨味が特徴です。

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いなりずしはもちろん、ちらしずし、手巻きずし、握りずしなど、さまざまなおすしに、ぜひご活用ください。ドレッシングなど料理にも応用できるので、レシピやおすすめの使い方もご紹介します。

レシピはこちら>「あぐいのあかすしす」でつくるレシピ