すし特集タブロイド「NIPPON SUSHI TOURISM」発刊しました!

鮨、鮓、寿司、さまざまに表現される「すし」。握りずしをはじめ、日本中に広がるさまざまな個性を持つその土地らしいご当地すし文化のさわりをご紹介。
*すし特集タブロイド「NIPPON SUSHI TOURISM」は、d47 MUSEUM企画展「NIPPON UMAMI TOURISM」の連動企画として発刊。本記事はすし特集タブロイドからの抜粋です。

書き手:相馬夕輝(D&DEPARTMENT ディレクター)
D&DEPARTMENT 飲食事業部(つづくをたべる)のディレクター。大阪店・東京店店長を経て、現在は全国の食のロングライフデザインをリサーチし、定食開発や、展覧会・勉強会を通じて、食文化を次世代につないでいる。

 


出典 小泉清三郎著『家庭 鮨のつけかた』より 吉野鮨本店所蔵 図版は「すしラボ」より

すしはどこからやってきた?

すしの起源をさかのぼると、魚の塩辛のようなものとして「鮨(中国語の読み:キ)」という字が登場し、そこから塩と飯(米)で魚を漬ける漬物として「鮓(中国語の読み:サ)」という言葉が登場。滋賀県の郷土料理ふなずしに使われる熟鮓(なれずし)という料理法が、中国の古い文献に登場している。
興味深いのは、中国では魚に塩と米を合わせる発酵食品が徐々に減っていき、一方で、中国から製法が伝わった日本では、魚と米の関係が歴史とともに深まっていったことだろう。

人類最古の部類の調味料「酢」

和食の基本調味料の「さしすせそ」と言えば、砂糖(さ)、塩(し)、酢(す)、醤油(せ)、味噌(そ)。実に5つの内3つが発酵調味料となる。日本では、鎌倉時代から室町時代にかけて、これら発酵調味料が出揃い、各地の郷土料理に大きな影響を与えてきた。
中でも、人類最古の部類の調味料である酢は、穀類や果物を発酵させた酒から、酢酸菌によってさらに発酵を進ませて生まれる調味料。米から日本酒ができ、米酢になるように、ブドウを発酵させてワインになり、ワインビネガーとなる。日本に限らず世界中に酢は存在している。
今、食卓にふつうにある調味料たちは、先人たちによる発見と研究、時には失敗も繰り返しながら、生きるために食べ物を長く保存する術を磨き、おいしく食べるための創意工夫の連続で形づくられてきた。

似て非なる「熟鮓」と「早ずし」

すしとは、そもそも、魚を長く保存するために生まれた料理法で、大きく2つに分けられる。1つは、酢を使わないすし。先にも紹介したが、飯と魚を熟成発酵させて、独特な風味ある酸味を生み出して食べる熟鮓である。滋賀県のふなずしは熟鮓の起源的な料理でその代表格。産卵のため琵琶湖から川を遡上して水田にやって来たフナを、農家が捕り、米と合わせて長期熟成させる。独特なうまみと酸味が織りなす味わいで、かつては献上品だったほど貴重な食品。


図版は 「すしラボ」より 

もう1つは、酢を使う早ずし。江戸で生まれた握りずしの江戸前寿司や、魚や野菜を混ぜ合わせてつくるばら寿司、大阪で発祥した箱寿司や、奈良の郷土料理としても広く知られる柿の葉寿司など、すしと言われてすぐ思い浮かぶものの多くは、この酢を使ったすし。


図版は『d design travel NARA』(D&DEPARTMENT PROJECT刊)より

これらの2つの料理法から生まれる酸味は、実は発酵過程で働く菌に違いがある。酢は酢酸菌が働いて酢酸発酵するのに対して、熟鮓は乳酸菌が働き乳酸発酵している。
酸っぱいことに違いはないけれど、乳酸発酵の方がやや軽やかな酸味だ。酢を使ったすしと、酢を使わずに魚と米とで発酵させたすし。この2つが日本のすしを二分していて、熟鮓が起源となり、手軽にすぐ食べられるようにと、酢を使ったすし文化、早ずしが後から生まれた歴史を持つ。
ご飯を炊き、新鮮な魚が手に入ったら、お酢をパパッと振りかけて、魚を酸っぱくおいしく食べられる。早ずしのことを昔はすしもどきと呼んだ時代もあったそうだ。熟鮓も早ずしも同じすしという言葉を持つが、似て非なるすしなのである。

都道府県の熟鮓の沼

多種多様な日本のすし文化を少しのぞいてみよう。まずは歴史の深い乳酸発酵による熟鮓の世界から。熟鮓にも実は、大きく分けて2種類ある。
一つは、飯を漬け床にし、飯がほぼ発酵分解されたもので「ホンナレ」と呼ぶ。
もうひとつは「ナマナレ」で、発酵期間が比較的短く、飯の部分も食べるもの。ナマナレの代表は、北海道から日本海側の食文化として知られる、米と米こうじを混ぜて発酵させた「いずし」だ。例えば、北海道では、その土地で捕れたサケやニシンを使った、サケの飯寿司や、ニシンの飯寿司。東北では、秋田のハタハタを使ったはたはたずし、石川のブリとカブラを使ったかぶらずし、福井のへしこのなれずしなど、その土地で捕れる魚と野菜を合わせたナマナレ文化がある。熟鮓の世界に一度足を踏み入れると、これはなかなか抜け出せない。

風土を生かす自由な早ずし。
握らない! 酢を使わない! 米すら使わない?

街を歩けば、ファストフードがあふれる現代。食文化はどうなる?と老婆心ながら日本のこれからの郷土の食を心配する気持ちになるのだが、すしを知れば知るほど、決してファストフード化すること自体が悪いことではないと分かる。
そう気づかせてくれるのが、早ずしの世界だろう。酢飯(シャリ)の上に、新鮮な海の幸が鎮座する江戸前寿司は、もはや世界のスタンダード。熟鮓と同じ基本構造「魚と米を酸っぱくして食べる」はそのままに再構築を経て、江戸前寿司となっている。近年、世界を席巻するガストロノミーレストランは、文化を分解・再構築してできた江戸前寿司と同様のプロセスを持っているように思える。
しかし、江戸前寿司は、日本のすし文化のごく一部でしかない。具材の組み合わせや形状によって、さまざまな個性を持つ早ずしがたくさん存在する。

寿司桶に酢飯と具材を合わせ、成形せず盛り付ける岡山の備前ばらずし。さらに、釡飯に誤ってどぶろく(発酵が進んでやや酢に近くなったどぶろくだったとされる)が加わったことで、偶然おいしくでき上がったとされる、備前ばらずしの元祖とどめせ。他にも酒の入るすしには、鹿児島の酒ずしがある。清酒をつくる過程で灰汁を加えて搾る灰持酒(あくもちざけ)を飯にまぶし、重石をして半日ほど置く。一度は口にしたい魅惑のすしだ。

押しずしには他にも、大阪発祥でサバを使ったバッテラや、旬の魚を酢で締めて入れる三重のこけらずし、祝いの席などで一度に大勢に振舞うためにつくられた山口の岩国寿司など。地域によって色彩豊かな押しずしが存在する。

さらに、魚をまるまる使った丸ずしや、巻きずし、稲荷ずしなど、すしの形は変幻自在。ちなみに、お米ではなく、おからを使ったすしもあり、愛媛のいずみやや、香川のおからずしがある。また、米酢の代わりに柑橘を使う高知のゆず果汁(ゆず酢)の田舎ずし。日本人の食の創造力は、本当に生きる力にあふれ、日本の魅力を、その土地の魅力を映し出してくれる。

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日本のすし文化を伝えるウェブメディア「すしラボ」


 「すしラボ」トップページより

愛知県は発酵醸造文化の集積地。岡崎の八丁味噌、半田のたまり醤油や赤酢、碧南(へきなん)の味醂(みりん)や白醤油、県内全域には日本酒の酒蔵もあり、これほど発酵醸造が盛んな地域は国内広しと言えど多くはない。
現在、食酢のトップシェアをもつミツカンは、1845年ごろ日本酒の酒粕を熟成させた赤酢を開発し、1800年代に生まれた江戸前寿司に、そのコク深い赤酢が使われるようになると飛躍、すしの歴史に大きな影響を与えてきた。
半田にある「ミツカンミュージアム」やウェブメディア「すしラボ」を通して、酢の魅力を伝えるだけでなく、すしの歴史や、日本各地のすし文化を、総合的に伝えてくれる。
ここからは「すしラボ」内の数あるコンテンツから、ピックアップしてご紹介。ぜひ、すしと酢の奥深さに触れてほしい。

 

すしからSUSHIへ

2013年、和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、すしは今や和食の看板料理、日本を代表する食事として世界に知られています。歴史を見れば、明治以降のカリフォルニアへの日系移民によって握りずしが伝えられ、生の魚を食べる文化が世界へ旅立ちます。韓国では日本統治時代に伝わった巻きずし文化がキムパプにつながり、今では韓国の国民食になりました。その後、ヨーロッパを回転ずしが席巻し、日系移民が食べるすしは、今では全世界で日常食のひとつとなり、カリフォルニアロールのみならず、すしは今やSUSHIとして浸透していきました。

全文はこちらから→すしラボ内 歴史「すしからSUSHIへ」

 

すし進化論

すしは古代アジアの発酵食品として誕生し、奈良・平安時代には大陸のおすしの製法が日本に渡り、やがて日本独自のごちそうとして進化。発酵デザイナー・小倉ヒラクさんの独自の視点を織り交ぜた、古代から現代に至るすしの進化をご紹介。

連載全6回はこちらから→すしラボ内 コラム「すし進化論」


図版は 「すしラボ」より

 

酢っごいキッズ「おすおすしのうた」

日本の宝、おすしの文化とおすしを支える酢の発酵の仕組みを表現したアニメーション。覚えやすいフレーズと楽しい振り付けのダンスが楽しめます。プロデュースしたのは発酵デザイナー・小倉ヒラクさん。お子さまと一緒に歌って踊って「おすし」のこと、「お酢」のことを学びましょう。

動画はこちらから→すしラボ内 楽しむ「おすおすしのうた」

 

レシピ「スモークサーモンの棒ずし」


図版は「すしラボ」より 
調理時間:約30 分
*米に水分を含ませる時間、炊飯時間は調理時間に含まれません。

材料(6人分):
米3合、水540ml
スモークサーモン24枚
青ジソ15 枚(せん切り)
レモンはお好みで

A
ミツカン「三ツ判山吹」大さじ9(135 ml)
砂糖大さじ3
塩小さじ1と1/2

【1】米はといでざるにあげ、30分~1時間おいて米に水分を含ませる。
分量の水を加えて、普通に炊く。

【2】Aはできれば火を通す。弱火で調味料が溶けるまで、煮立たせないように加熱。
【3】大きめのボウルに炊き上がったご飯【1】をあけ、〈A〉を全体にかけてそのまま1分おく。うちわなどであおぎながらしゃもじで切るようにほぐし、粘りを出さないように混ぜ、粗熱を取り、6等分にする。
【4】まな板にラップを横長に敷き、スモークサーモン8枚を斜めにずらしつつ、長方形になるように重ねる。
【5】1/6のすし飯をのせ、1/3の青ジソ、1/6のすし飯をのせる。
【6】ラップごと押さえながら巻き、両端をねじって形を落ち着かせる。残りも同様につくる。ラップごと切り分け、お好みでレモンを添える。

約400種のおすしのレシピこちらから→すしラボ内 つくる

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すし特集タブロイド「NIPPON SUSHI TOURISM」
2024年7月31日より、d47 MUSEUM、d47食堂をはじめ、国内のD&DEPARTMENT各店、ネットショップ、お酢の旅路が「酢っごい展」(ミツカンミュージアム内MIMホール)にて、先着順で無料配布。
なくなり次第、配布終了。

発行日:2024年7月31日
制作協力:ミツカン
発行:D&DEPARTMENT PROJECT

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日本各地の郷土料理とその文化を伝える活動から、食のLONG LIFE DESIGNを考える企画展

LONG LIFE DESIGN 3 NIPPON UMAMI TOURISM
植生と文化をまるごと味わう
風土に還るうまみのデザイン

d47 MUSEUM では2012年の開館以来、工芸・観光・食文化など、さまざまなテーマで47都道府県の個性を紹介してきました。
今回の展覧会テーマは「うまみ」です。日本発祥で、今や世界共通語となった「UMAMI」。味覚としてのうまみだけでなく、それが生まれた背景も含めて語るべきものととらえ、生きる知恵として各地に受け継がれてきた、それぞれの風土に繋がる47の「うまみ」を通して、各地の食の風景を感じていただく企画展です。

会期:2024/4/26(金)~ 9/15(日)
時間:12:00~20:00 (最終入場 19:30)
場所:d47 MUSEUM(渋谷ヒカリエ8F)

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