10周年を迎えた服の染め直しプロジェクト「d&RE WEAR」。 プロジェクトに欠かせない仲間を紹介します。

ファッション業界は、目まぐるしく流行が移り、消費サイクルも速いため、まだ着られる服の大量廃棄が大きな問題になっています。
D&DEPARTMENT はこの社会問題に対して、2014年11月、「ファッションにも、ロングライフデザインを」という思いから、廃棄された服を染め直して展示販売をしました。以後、年に数回、定期的な染め直しのプロジェクトとして「d&RE WEAR(ディ アンド リウェア)」を開催。参加者のみなさまから、これまでに8,000着以上の服をお預かりし、染め直しをしてお届けしています。

10周年を機にあらためて「d&RE WEAR」プロジェクトを進める上で欠かせない方々をご紹介します。

繊維リサイクル会社:ナカノ
家庭から手放される衣服の量は、1年で約70万t。

刺繍メーカー:笠盛
d&RE WEARのシンボル、ナンバー刺繍の担い手。

染色工場:川合染工場
1着1着の素材と形を見極めて、風合いよく染め上げる。

   


   

服を染め替えて着つづける「d&RE WEAR」は、2014年に始まりました。立ち上げ時には、東京・虎ノ門にコンセプトショップのスタイルでオープン(会期:2014年11月14日-24日)。古着や古布の回収施設の現場を再現した会場で、染め替えた服の展示販売を行いました。
2014年12月から全国のD&DEPARTMENT 店舗で、お客様から染め直しをしたい服の受付を開始。2021年、ネットショップでの郵送受付もスタート。年2~3回と、定期的に、機械染めと天然染めの染め直しを受付しています。

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家庭から手放される衣服の量は、1年で約70万t。
繊維リサイクル会社:ナカノ

90年以上前から繊維のリサイクルを行うナカノは、大手アパレルブランドや百貨店が行う衣類の店頭回収にも協力する会社。D&DEPARTMENT各店のリサイクルエコバッグの仕入れ先としても協力をいただいています。
同社リサイクル事業担当の藤田修司さんは、D&DEPARTMENTが染め直しのプロジェクト「d&RE WEAR」を立ち上げた際、展示会場に4t車2台分の古着を届けてくださった方。
「2014年当時、ファッション分野でリサイクルを考える企業はまだまだ少数派。会場には古着の中でも取引単価が一番安いものを持っていったんです。それが都心の一等地で作品のように照明を当ててもらって。子どもが晴れ舞台に立っている姿を見るような気持ちでした。古着たちが光って見えましたよ」(藤田さん)。
日本では30年前と今とでは衣類の購入量は横ばいですが、供給量は約1.8倍に増え、2021年には年間約36億着にも。毎年大量に新しい服が供給されています。そして日本の家庭から手放される衣服の量は年間約70万t。うち約46万tがゴミに。回収されてリユースやリサイクルされる衣類は34%にすぎません。(*)
「ナカノでは回収した古着をできるだけ生かすために、1着ずつ人の目で確認、最終的に280種に分けています。古着の約半分はリユース可能で、そのほとんどを日本人と体格が近く、暖かい地域の海外へ輸出。古着を受け取る地域の実情を踏まえて、しっかり仕分けるからこそリユースされやすくなります」(藤田さん)。
リユースできない衣類のうち春夏ものは水・油の吸収が良いため工場で使う「ウエス(油ふき)」に。リユースもウエスにもできない衣類や布団は、繊維をほぐし綿の状態に戻す「反毛材料」に。反毛は中綿になったり、フェルトに加工され車の断熱材や梱包資材、再生糸に加工されて軍手やリサイクルウールの服になっていきます。
「最近、衣類リサイクルに興味を持つプレイヤーが増えており、喜ばしいことだと思っています。ですが、グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)には注意する必要があります」と藤田さん。
ファッションの大量生産・大量消費・大量廃棄のサイクルを少しずつでも変えていくために、私たちは1着を長く着ること、そして手放すときはゴミにせずに衣類回収に出す、など、日々のファッションを楽しみながらもできることはいろいろとありそうです。

*データ出典:環境省ホームページ内「サステナブルファッション」

藤田修司[ナカノ取締役 リサイクル部統括]
2002年、ナカノに入社。ナカノは1934年、古着・古布を扱う故繊維問屋として橫浜で創業。「リサイクル」という言葉が日本に浸透する前からエコやリサイクルの分野で事業を続けている。家の近所に衣類回収場所がない家庭から問い合わせで、宅配便による古着回収も実施。詳細はこちら

   


   

d&RE WEARのシンボル、ナンバー刺繍の担い手。
刺繍メーカー:笠盛

毎年の数百名のお客様から1,200着ほどの服をお預かりし、染め直して、一着一着お返しする。D&DEPARTMENT が立ち上げた染め直しのプロジェクトd&RE WEARを始めるにあたり、高いハードルとなったのが、1点1点の服の区別でした。
画像での記録では、シンプルなシャツやトレーナーは見分けられません。一時的な管理タグを服に取り付けると、回転する染色釜の中で服地を傷めてしまう可能性も。そこで、アート作品のエディションナンバーのように、すべての服の裾に、1着ずつ固有のナンバーを刺繍することにしたのです。
染め直しプロジェクトの実現のカギとなるヨコ6×タテ1cmのナンバー刺繍は、高い技術力とチャレンジ精神を持ち、国内外のデザイナーからも指名されている刺繍メーカー・笠盛にお願いすることになりました。
「初めは1回だけかと思ったから、気軽に引き受けたんです。気がつけば10年に」と微笑む笠盛の会長・笠原康利さん。50年以上、家業の刺繍業にたずさわり、会長である今も巧みに刺繍機を操作。全国のD&DEPARTMENT店舗とネットショップで預かった全ての服にシリアルナンバーを刺繍してくださいます。
刺繍糸は、どんな服にも合う淡いグレー。刺繍の英数字は生地メーカーが反物の管理番号に使う書体をイメージ。そして、笠原さんに「左裾にお願いします」とだけお伝えしています。デザインもサイズも1点1点違う服に対し、具体的にどの位置に刺繍するのかは、笠原さんのセンスにお任せ。
「シャツなどは裾のカーブとのバランスで位置を決めています。同じ左裾でも、ここに刺繍があったらかわいいな、と思える位置を選んで刺繍をしているんです」。
笠原さんは服の見極めが早く、丁寧にさっとさばいて服を台にセットしたら、刺繍機の画面でシリアルナンバーを確認、スタートボタンを押すと、あっと言う間に刺繍が完成。
「ワンピースなどは前後が分かりにくいデザインもあるから慎重に。折り返しのあるパンツの裾には、裾を折り返してもシリアルナンバーが見えるような位置に」。
笠盛の刺繍工場には多くの若い方が働いていました。素材や天候、機械ごとにも左右される上糸と下糸のテンションやクセをミリ単位で調整し、細やかに見定めて美しく仕上げていきます。
笠盛の工場のある桐生市は、撚糸、刺繍、機織りとさまざまな職人が分業で織物の歴史を紡いできた産地。歴史と高い技術力のある笠盛には、海外で学んだ若手が入社を希望するなど活気があります。そんな中、2010年に革新的な糸のアクセサリーブランド「000(トリプル・オゥ)」も生まれました。当初は刺繍で球体をつくることは、熟練の技でもできないと言われていましたが、笠盛の職人の努力によって、美しい球体が実現。笠盛では、日々、新しいものが生まれ出てこようとしています。

笠原康利[笠盛 会長]
プログラマーを経て、25歳で家業の笠盛へ。創業140年を超える笠盛は、織物産地・群馬県桐生市にある刺繍メーカー。最先端の技術と、歴史に培われた技を活かす。予約制で工業見学も。毎年11月には笠盛のものづくりを見て、体験して、購入できる「カサモリパークフェスティバル」を開催。

   


   

1着1着の素材と形を見極めて、風合いよく染め上げる。
染色工場:川合染工場

「d&RE WEAR」の染め直しは、国内外のトップブランドから信頼も厚い、川合染工場に依頼。
この染色工場は、あるときはブランドからの依頼で染料が染みこまない撥水加工のエアバッグ生地を染めたり、「布端だけ染めたい」という要望に、たくさんの釣り具のおもりを使って生地の形を整えて染色したり。ブランドごとに好みが異なる「黒」に合わせ、ねらいどおりの「黒」を出すことも当たり前のように行う染色工場。
そんな高い技術をもつ染色工場で、年に2回、「d&RE WEAR」参加者のみなさんからお預かりした数百着の服を染めています。
染色の世界は実に繊細で、服の形や重さ、素材が違うだけで、染まり具合が変わります。そのため川合染工場では、「d&RE WEAR」で預かった服を1点1点確認。回転する染色釜の中で、服がねじれると染めムラや傷みにつながるため、染める前にパンツやワンピースなど丈の長い服や、袖やフードなどのパーツを手作業でしつけ糸で縫い留めて形を整えていきます。その後、服の重さや形ごとに分けて染色釜へ投入。美しく染めるだけではなく、服地が柔らかく風合いよく仕上がるよう、薬剤の調整にも手をかけ、機械の設定にもこだわっているそうです。
2014年、「d&RE WEAR」タート時に開催した展示会では、古着として回収された服を集めて川合染工場で染め直してもらい展示販売。会場でずらっとラックに吊された染め直し後の服の姿を見て、染める前の服の状態を知っていた代表の川合創記男さんは「手をかけた服は輝いているね、本当に良く見える」と感じたそうです。
川合さんは、時代に合わせて力強く戦略をたてる下町の工場経営者の顔と、研究者の顔を合わせもった方。江戸時代の染色方法に由来する「東炊き(あずまだき)」という技術を開発、大量生産の染色技法では失われがちな、生地の膨らみや豊かな風合いを生かして、新しい染色の価値をつくろうとしています。

川合創記男[川合染工場 代表]
大学卒業後に入社した染色ケミカル会社の配属でドイツに渡る。世界一の染色技術をもつ同国で本格的に染色技術を学び、研究。帰国後、家業の川合染工場を継承。独自の染色技術と丁寧な仕事から、国内外のトップデザイナーやブランドから信頼されつづけている。