こんにちは。d47 MUSUEMインターンの吉田凌太です。
現在開催中、d47 MUSEUM第30回展覧会「ものにはまわりがある」展の関連イベントとして、東京・檜原村を拠点に活動する「東京チェンソーズ」の吉田尚樹さんを講師としてお招きし、東京チェンソーズの檜原村での取り組みについて学びながら、根株(木の根っこの部分)でカッティングボードをつくるワークショップを開催しました。
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東京の最西部に位置する檜原村。総面積のうち約93%が森林で占められています(東京都の森林占有率は約38%)。林業は村の基幹産業でしたが、高齢化による従業者不足や経済情勢の厳しさから、補助金制度なしで森林整備を行うことが困難になっています。
東京チェンソーズは「木を加工し販売する、森を作る、木の物語を伝える」といった3点に注力し、活動しています。林業の最大の特徴は、植え付けから収穫まで約70年もの期間を要することにあります。自分で植えた木を自分で収穫することはないからこそ、一本一本の木に愛着を持ち、次世代に継承できる森林を育てることが必要です。
これまで営まれてきた、木を植え育てる「森づくり」だけでなく、伐採した木を加工し付加価値を付けプロダクトに落とし込む「ものづくり」や、実際に山や街で森を感じてもらう「ことづくり」など、さまざまな角度から森の価値を捉え直し、最大化することに努めています。
檜原村の林業は江戸時代から始まりました。例年、春先に約3,000本の苗木の植え付け、夏には苗木周りに生える雑草の下刈り、秋冬には枝打ち・間伐が行われます。作業は地道で大変なことが多いですが、手入れを怠ると苗木の成長を阻害することに繋がります。吉田さんのお話では、特に間伐作業が大変なものの、下草が生える環境を作り、地下に水が浸透しやすい環境を作る上で欠かせない作業だと仰っていました。
次に、吉田さんが捉える林業の課題についてお話がありました。
第1の課題として、木1本のうち約30%しか活用されていないことを挙げられていました。建築材としての利活用が難しい部分は、市場に出回ることなく廃棄されます。葉や根などの規格外部分にも、違った魅力がたくさん詰まっているにも関わらず、廃棄されるのは重大な問題です。
第2の課題は、樹齢70年、直径30~40cm、長さ4mほどある木が1本3000円で販売されていることです。一年を通して多くの手間をかけているにも関わらず、その苦労に見合う対価には到底思えませんでした。「1本あたり30000円」と予想している参加者もおり、想像以上の格安価格に皆さん驚いていました。
約70年もの年月をかけて成長し、地道な作業によって支えられ、空気と水を潤してきた木材。木一本丸ごとにどう価値をつけるかだけでなく、世の中に流通していない美しいものを再発見し広げる。次世代に継承できる森林を作るには、色々な角度から林業の魅力を捉え直す必要がある、と吉田さんは話します。
今回のワークショップでは、檜原村から根株をたくさんご用意いただきました。まずは数十枚数用意された根株から、参加者の方々が気に入ったものを一枚選んでいきます。
それぞれの根株が異なる形や木目を持ち、中には石が挟まった跡が残っているものも。吉田さんいわく、檜は幹の部分より根の方が香りも強いらしく、檜の仄かな香りも楽しめました。東京チェンソーズのスタッフの方々からいただくアドバイスに耳を傾け、真剣に選んでいきます。
根株を選んだ後は粗さの異なる3種類の紙ヤスリを使用し、表面を磨きます。最初は粗めのヤスリを使用し全体的に磨き、徐々に表面が滑らかになったら次は細かめのヤスリで磨きます。
「ヤスリでしっかり磨けば、ニスを塗った際に綺麗に木目が出る」という吉田さんの助言に習い、参加者の皆さんも無心で、ひたすら磨いていました。中には汗を垂らし、魂込めてヤスリをかけている方もいらっしゃいました。
30分ほど磨き続け、満足する段階に到達したら、そこから最後の仕上げに入ります。表面についた粉塵を落とし、表面にオイルを塗ります。(他にも、ミツロウなどでも代用が可能です。)
オイルをまんべんなく塗ると、非常に鮮明な木目が表面に浮かび上がります。オイルを塗るまで分からなかった、根の細やかな繊維が力強く表れ、根の生命力の強さを感じました。繊維の断裂と修復を幾度と繰り返す根だからこそ、幹では醸し出せない複雑な木目を醸し出します。参加者の皆さんも、「とても力強くて美しい」という言葉を笑顔で繰り返していました。
また希望者には、「東京チェンソーズ」と記載された焼印もご用意いたしました。
実際に参加者の方々に使い道を伺うと、「インテリアとして活用したい」や「パンやチーズを置いて楽しみたい」などとおっしゃっていました。私はチーズやおつまみを楽しむ時に使いたいと思っています。
今回、参加してみたことで、林業に対する課題や問題点を認識し、今後の林業と私たちの生活がどのように融合するか期待を抱くようになりました。?
林業という言葉を聞いた際に、地味で、大変そうで、自分とはあまり関わりのない産業と話す方も数名いらっしゃいました。自分もこのワークショップに参加する前は、同じような認識を抱いていました。しかし今回の経験を経て、自然に触れ合う過程が私たちの心を豊かにし、林業にもその力が十分にあると感じました。森林は綺麗な水と空気を育み、我々の心を豊かにする、必要不可欠なもの。森林を守り、次世代に継承する行為を断つわけにはいきません。
今回のワークショップで、吉田さんが「街の中の森の在り方を模索する」と繰り返し仰っていたのがとても印象的でした。人間と自然を切り離したり、街と森を切り離すのではなく、街の中に森があり、森の中に街がある。そのような考えがとても素敵だなと感じました。70年かけて成長する木を守り、森林を育むためには、街と森がどのように共存し合うかを考えないといけません。今後の東京チェンソーズさんがどのように街と森の関わり方を構築するか楽しみで仕方ありません。自分も根や葉などの木材で作られた用品などを生活に取り入れ、周りの人に根株の美しさや力強さを伝えていこうと思います。