d design travel編集長と志摩市大王町波切にある、かつおの天ぱく まるてん有限会社 の「鰹いぶし小屋」にお邪魔しました。
まるてん有限会社は「天ぱく」で知られる鰹節メーカーで、現在は天白幸明さんが代表を努めています。
「天ぱく」のいぶし小屋は、三重は志摩市波切、目の前には志摩の海が一望できる海沿いにあります。車から降りると磯の匂いが鼻を通り抜け、波の音も心地よく聞こえてきます。かつては伊勢神宮への献上物でもある「かつお節」の一大産地でもあった波切もいまや残りわずか。その中でも天白さんは昔ながらの製法「手火山製法」で今もなお、この波切で鰹節を作り続けています。
こちらが、いぶし小屋の入り口。グラフィックデザインはすべて『赤福の伊勢だより』でもお馴染みの版画家の徳力富吉郎氏。波切に来てしまうと先入観が邪魔をしてしまう為、徳力氏は波切に一切来ず、数ヶ月にわたり山にこもり製作されたそうです。版画だからこそだせる力強くも愛らしいこのデザインは現在も「天ぱく」のシンボルとして使われ続けています。
(ちなみに、こちらの暖簾は波切の海風にも負けぬよう一般的なものよりも分厚い帆布の生地を使用。)
鰹節は4つの工程を経て、完成します。
①切る
一匹の魚を3枚おろし(魚を三つの部位にわけ切断します。)
②煮る
生の魚は腐ってしまうので、水分を飛ばすために1時間~1時間半ほど煮ていきます。
(これらの①と②の工程は、現在は他の所で行っています。)
③蒸す
この作業からいぶし小屋で見学することができます。
「天ぱく」の最大の魅力ともいえるのが、この蒸すという工程で用いられている「手火山製法」という技法です。毎日1時間から1時間半蒸す作業を約1ヶ月間行っていきます。この技法は魚を一本も無駄にすることのない古くから伝わる伝統製法。たくさんの煙で毎日涙を流しながら燻しているといいます。またここ、いぶし小屋は伊勢湾台風の際、大きな被害にあったといいますが、このいぶし小屋だけは神様に守られて奇跡的に残ったそう。そんな神聖ないぶし小屋で「天ぱく」のかつお節は毎日作られています。
水分が飛びきった鰹がこちら。ツヤっとしていて美しい。
ちなみに、こちらの燻製の作業で使われる薪は波切のウバメガシを使用。ウバメガシは、木の中でも雑草のような立ち位置で定期的に間伐する必要がある木です。自然の循環を壊すことなく、むしろ手助けをする。昔ながらの知恵で培われた天白さんのものづくりにはひとつひとつ感銘します。
④発酵
最後に発酵、いわゆるカビ付けをおこなっていきます。こちらの工程は、非公開なので直接みることはできませんが、できあがった鰹は真っ青になっています。この工程を5ヶ月かけておこなっていきます。
元々この波切の地は、伊勢神宮に献上物の一つである鰹節が盛んな地域でした。しかし、真珠の養殖などの影響で鰹がどんどん取れなくなったこともあり、いまや残すは「天ぱく」を含めた3軒だけだといいます。
その後は、鰹節と伊勢神宮の関係性について奈良時代より時代を遡り学んでいきます。古文献を読み尽くしたという天白さんと一緒に波切の鰹節作りを紐解いていきます。
これは、「御食つ国鰹節」(美味しい国、豊かな食材を都へ供給する特別な国)、「魚切里」(波切)、「神人共食」(ホスピタリティ)を表します。この三つのワードはポイント。
こちらの相撲取りのような表は、江戸時代中期の鰹節コンテストの表です。「行司」のところには“志摩 波切節”と書かれており、行司とは審査員を意味する言葉。そこに天白さんのご先祖のお名前が記されてることを見てしまった天白さんは、こんなに昔から審査員をするくらいに美味しい鰹節を作り続けた波切の鰹節をなくしてはだめだと、決意し今に至ったそう。天白さんがなぜ鰹節を作り続けるのか、ここに全てが詰まっています。
歴史について学びながら、鰹節でとったお出汁を頂きます。このコップは天白さんご自身で書かれたもので、波切への愛を感じます。
そして最後は、伊賀焼の『土楽』の黒鍋を使って炊いたご飯に鰹節をたっぷり乗せていただきます。土鍋で炊かれた粒のたった白米に「天ぱく」の美味しい鰹節が素朴ながらにも何回でもおかわりしたくなるほど。鰹節の美味しい食べ方をお母さんからも教わり、家でも実践しなくては!とうずうず。
天白さんをはじめ、三重のものづくりには伊勢神宮との密な関係があることをひしひしと感じます。「天ぱく」の鰹節づくりも伊勢神宮への献上が源流となっています。ただ、美味しい鰹節を食べるだけでなく、なぜ波切で鰹節を作っているのか、その起源から知ることはとても健やかなこと。それらを知ることはとても三重らしいことなんだと新しい気づきのある1日でした。
『d design travel三重』は発刊までもう間もなく!(詳しい発刊情報はD&DEPARTMENTウェブサイトで公開されます)三重店でも、三重号の刊行に合わせたイベントを計画中。お楽しみに!
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