2022年5月~8月にかけてD&DEPARTMENT東京店で開催中の展覧会「森と街をつなぐ 山のしごと」展にあわせ、「山のしごと」を通して、森と、私たちの暮らしや街のつながりについて考える勉強会を開催しました。
展覧会の共同主催である「東京チェンソーズ」より吉田尚樹さん、東京チェンソーズとともに里山整備に取り組んでいる「東向山簗田寺(とうこうざんりょうでんじ)」の副住職 齋藤紘良さんを講師に迎え、彼らが取り組む東京都町田市の里山整備の活動を通して、山のしごとと街づくりの関係性を紐解きました。後編では、梁田寺の里山整備から始まった協働プロジェクトの現状と展望についてご紹介します。
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里山整備で見えた、山のしごとと街の繋がり
プロジェクトの第一歩として、東京チェンソーズと梁田寺がまず取り組んだことは「道をつくること」でした。1950年~1960年代にかけて進行したエネルギー転換により、主要な燃料は石炭から石油、天然ガスに移行し、都市近郊で林業が衰退。梁田寺でも例に漏れず、木の伐採が行われなくなり、結果として、木が育ち過ぎてしまい、自分達で切ることができなくなってしまった現状がありました。
実際に梁田寺を訪ね、山を歩き感じた、樹種や樹齢、エリアごとの雰囲気の違い。吉田さんは、齋藤さんと山を歩き、対話しながら、これまで梁田寺で営まれてきたお寺を中心に人が集える活動に、どのように森の価値を付け加えていくかを考えたそうです。伐採した木の活用も構想にあったことから、重機が入れるよう「道づくり」から始動した本プロジェクト。現在は、100mほどの作業道が完成しており、これから運用が具体化されていきます。
道が入ることで森の景色が変わり、自分達の力で木を切り、山を活用していた以前の林業の様子が見えたと齋藤さん。道ができた現在は、養蜂や下草刈りをしながら、笹のお茶を作ったり、切った木でスピーカーの台を作ったり、いろいろ実践しながら実験中とのこと。
「もともと学びの場であったり、地域の人々が集まる場であったお寺の役割が、時代によって変わってしまった現代において、本来のお寺の姿で粛々と活動し、お寺を使ってコミュニティづくりに取り組んでいる点にもとても感銘を受けた。」と吉田さん。
「東京チェンソーズの活動からは哲学を感じるとともに、林業とはこうあるべき、こうあらねばならない、ということを越えようとしている印象を受け、そういう人たちとシンパシーを感じることが多いので、ジャンルは違えど考え方が近いと感じている。」と齋藤さん。
道づくりによって景色の変わった梁田寺の山の次のステップは、伐採した木を「使う」こと。実は、東京チェンソーズとの協働をきっかけに、これまで関わるきっかけのなかった、梁田寺の目の前に昔からある材木屋と距離が近くなり、伐採した木を製材してもらうなどの関わりが生まれたそう。地域で出た木はその土地で加工し、使う。忠生地域の里山から、地産地消の実現を目指します。
街の中の「森」に関心を向けるということ
今後描いている未来
50~100年先を見据える東京チェンソーズと、500年先を見据える梁田寺。吉田さんと齋藤さんのお話からは、互いに、長い時間軸を意識しながらものごとを捉える視点、考え方に共感するとともに、具体的に何ができるかはわからない中でも、一緒に協働することへの期待と面白さを感じていることが伝わってきました。
最後に、梁田寺と東京チェンソーズによる協働プロジェクトを通して見えてきた、今後の展望、描く未来についてお話を伺いました。
梁田寺に集う時間、山に滞在する時間、森との接点ができた今、そこをどんどん深掘りし、どうやったらその時間を増やせるかを考えていて、隣接する保育園の保護者や子育て世代、30、40年前に忠生地域に引っ越してきた住人など、幅広い世代の人々が、山を介して集まれるような景色をつくっていくことが、少し先に描く未来。
それらを作用させるにはいくつかの要素が必要で、森だけではなく、東京チェンソーズ、製材屋、設計士といったさまざまな分野の人々と関わりを持つことが重要で、道を入れる、ベンチを置く、東屋をつくる、といったインフラ的な要素を増やすとともに、関係人口や関わる時間を増やしていくことがまず一歩だと考えている。
町田にはまだ、いたるところに里山があるので、地域の中でも梁田寺の取り組みが広がることで、町田の里山リバイバルがどんどん進んでいくと面白い。
簗田寺 齋藤さん
東京チェンソーズの次のステップとしては、山に人を連れてきたいと考えている。町田の森の整備がきっかけとなり、山に足を運んでくれる人を増やす導線をつくっていきたい。
山や森が遠い存在になり、意識のハードルがあるのが都市の現状だが、林業に感じるハードルや垣根を“崩す”というより、“つなげて”いきたい。都市から山への道筋=檜原村への中継地点として、町田の活動が広がっていくことで、都市と山との距離が近くなると期待しているし、これからの世の中で必要なことだと考えている。
森との接点を忘れてしまうと、暮らしはどんどん息苦しくなっていくはず。生活と木が身近であった過去の暮らしに戻る必要はないけれども、森が水や空気をつくっているという当たり前のこと、原点に立ち返ることが大切で、新しいものをつくるというよりは、もう一度再インストールするイメージで活動している。都市での生活は、これらの大切なことを忘れてしまっていても生活できてしまう。だからこそ、DNA的にみんながもっているものを、もう一度イメージする。そのイメージに向かって進んでいくと、共通言語も増え、森や街を豊かにする活動も広がっていくと期待している。
東京チェンソーズ 吉田さん
今回の勉強会を通じて、「都市がD&DEPARTMENTだとしたら、山に向かう道の中継視点が梁田寺、そして檜原村へとつながる道ができると、一気に活動が活発になるのではと期待している」とお二人から心強いお言葉をいただきました。
遠い存在になってしまった街と山、森の関係性において、意識のバトンをつなげていく存在として、私たちD&DEPARTMENT TOKYOでは、引き続きみなさんと一緒に、森と、私たちの暮らしや街のつながりについて考え、体感できる機会をつくっていきます。
東京チェンソーズ × D&DEPARTMENT TOKYO
「森と街をつなぐ 山のしごと」展 → 詳しくはこちら
会期:2022年5月14日(土)~8月30日(火)12:00~18:00 水・木定休
5月~8月にかけて、3つのテーマで展示販売会や勉強会、森を訪ねるツアーを開催。豊かな森づくりが、自然環境や生態系だけでなく、私たちの暮らしや地域コミュニティをつくることにもつながっているということを、東京チェンソーズの「山のしごと」を通して、みなさんと一緒に学び、考えます。
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東京店のスタッフと東京チェンソーズのみなさんと一緒に、山や檜原村のあるあるなどをゆるりと語り、楽しく林業を学ぼう!というラジオです。毎月17日の山の神の日(山に入らない日)に、全6回配信!東京店のInstagramアカウントよりご視聴いただけます。
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