放課後トーク vol.1
2022年7月8日(金)の19:30より、東京店にて「放課後トーク」記念すべき1回目を開催しました。長い耐震工事が終わりに近づき、7月から久しぶりに東京店の入り口を見ることができました。そして、再開した金曜日の営業で、もっと気軽に立ち寄れるきっかけをつくれないだろうか、来てくれた方同士が繋がれる場をつくれないだろうか…。そして、いまいちど、D&DEPARTMENTの活動を創ってくれたキーパーソンの方に、直接お話をお聞きしたい。そんな思いで、はじまったのが放課後トークです。
1回目のゲストは野口品物準備室の野口忠典さんをお招きし、D&DEPARTMENTショップディレクターの黒江美穂が聞き手として、日本のデザイン物産についてお話ししていただきました。当日は、飛び入り参加してくれた方、一人で参加してくれた方、仕事帰りに来てくれた方、お子様を連れて来てくれた方、さらには、ひとり問屋の日野明子さんや手工業デザイナーの大治将典さんらも来てくれました。ゲストの野口さんだけでなく、参加してくれた方がお話に混ざることも。年齢も仕事も違う。けれども、金曜日の夜に東京店に集まる。そんな景色がうまれた瞬間でした。
ゲスト:野口忠典さん(野口品物準備室)
2007年から約10年間、D&DEPARTMENTに参加し、NIPPON VISION DESIGN BUSSAN等の企画バイヤーを担当。渋谷にヒカリエができてからは、d47 MUSEUM の企画やd design travel storeの店長を担う。現在は、野口品物準備室を立ち上げ、百貨店の催事の企画や地域の作り手の流通アドバイザーの役割を担う。「モノを選ぶ楽しさを伝えたい」そんな思いで、作り手と売り場の間を繋いでくれている方です。
NIPPON VISION / DESIGN BUSSANとは
企業の原点商品を見直す「60VISION」。一方で地域の伝統工芸品など、ものづくりの原点となるものを見直し、販売していくことはできないだろうか。そんなナガオカからの問いにより、始まったのが「NIPPON VISION」です。
2007年当時は、47都道府県を一堂に見せる展示の仕方をはじめ、日本のものづくりそのものに注目が集まるような社会情勢ではない時代でした。ミッドセンチュリーモダン、イームズがもてはやされてた時代から、次は北欧ブーム。日本のモノづくりはおろか、民藝すら注目されていませんでした。その後は国の政策として、ジャパンブランドがはじまり、「和」を売り出したものづくりを海外へ輸入するような流れが起きていきます。そんな時代背景の中ではじまったのが、この「NIPPON VISION」です。
「シンプルに、モノを探すのが大変でした」と野口さん。
ひとり問屋の日野明子さんの協力も得ながら、なんとかかき集めていたそうです。「DESIGN BUSSAN NIPPON」では、都道府県の伝統工芸品の原点となる商品と、原点を継承し進化したデザインがある本、食べ物、プロジェクトを探し、展示し、販売しました。1泊2日で回れるデザイン旅も掲載。今のdの活動を代表するd47 MUSEUMやd design travelといったプロジェクトの根源的な立ち位置となるのが、DESIGN BUSSAN NIPPONなのです。
「作り手さんとの電話で、何回『ABCDのDのD&DEPARTMENTです。』と説明したことか…(笑)怒られたこともよく覚えています。でもそこでの内容は、今でも気をつけていかなきゃなって思うことばかりです。」
▲当時を振り返る野口さんと、黒江さん。
その土地らしいモノづくりの向かう先は
「20年経って、整いましたよね」と野口さん。「見せ方、商品デザイン、パッケージ、お客さんへの伝え方は、作り手の方も考えることがベーシックになりました。生活者にとって、楽しみやすくなっただろうなと。」2007年以降は、それまでHPをもっていない作り手さんが多い中で、HPの開設をはじめ、メーカーさんが自分のブランドを持ち始めました。「どの産地で作っているか」よりも、「誰がデザインしたのか」が重視されるブランディングが多くなり、その頃から問屋の存在意義も問われ始めたのです。
「デザイナーもメーカーも伝えたり、言わなければならないことが増えました。モノを一生懸命作るだけではなく、伝えることにもリソースが割かれるので、モノづくりがおろそかにならないかは心配ですよね。」と大治さん。
そういう流れの中にいる今だからこそ、産地問屋(地域の作り手からモノを集め、梱包し、卸す)さんが必要だと野口さんは言います。「産地問屋さんが地域の作り手さんの世話を焼いて、企画して、こういうモノをつくろうとなれば、消費地にいいものが届くはずです。個人的には気持ちのある産地問屋さんを応援したいと思います。」
かつての産地問屋さんには、納品後の検品等、クオリティの確認どころを担い、売るための企画をしたり、作り手や売り場の困りごとを聞き、受け止める役割がありました。しかし、昨今は問屋を介さず、メーカーさんがブランドを持って売る事例があるため、問屋の役割が変わってきているのです。
産地問屋がいないと、職人の仕事が均等に回っていかないし、産地は成り立たないこともあります。生活者には見えにくい、問屋の役割。役割が変わったことで、できなくなったこと、逆にファクトリーブランドで成功した事例も出た2面性があるそうです。
▲現在産地問屋さんを担う日野明子さん
「作り手と売り場の裏で暗躍する面白さを知ってしまったんですよね。この店には、これ。あの店には、あれ。という具合に、モノをばらけさせることで、1つのモノの見え方や売れ方が変わってくるから問屋はやめられないです。」
モノを選ぶ楽しさを
私個人が一番印象に残ったことは、野口さんの「モノを選ぶ楽しさ」についてです。ネットで簡単に情報が集まり、モノが買える現代。けれども野口さんは、自分で買って、たまには失敗もしてほしいと言います。自分のお金で買って、使ってみて、はじめて感じられることがあります。そういう小さな積み重ねが、自分の感性やモノをみる目を鍛えることに繋がるそうです。さらには、“ふつう”に生活をしてみること。料理をして、食器を使って、食べる。そういう“ふつう”は、生活の中にあるモノの良し悪しに気づかせてくれるそうです。毎日のことだからこそ、ふつうの生活の一瞬一瞬を大切にしたくなりました。
デザイン物産に関わる書籍
デザイン物産展ニッポン
デザイン物産 2014
次回は、2022年8月5日(金)。テーマは「銭湯と街」です。
一般社団法人「せんとうとまち」の栗生はるかさん、江口晋太朗さんをゲストにお招きして、銭湯が持つ文化的な価値や、地域コミュニティの基軸としての可能性など、銭湯が繋ぐ街の風景や文化についてお話しいただきます。ぜひお気軽にお越しください。
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