『山田製油の始まり』
山田製油の創業は、1934(昭和9)年。現社長の山田康一さんは三代目。創業者の山田豊さんは元々虚弱だったことから、玄米生食のマクロビで体質を改善をされたとのこと。桜沢如一氏(マクロビの提唱者)の「世のため、人のために食品を作ってみないか」という助言からごま油の一番搾りは始まった。添加物など体に悪いものは一切使用しないというのが山田製油のルール。
4月中旬、京都店食堂スタッフ一行は南丹市に向けて出発した。賑やかな京都の街から離れ行き着いたこの場所、なんと地名が「胡麻」!22年前にごま栽培をするためにこの地に工場を設けたのは、名前がきっかけだったという。「胡麻」は山林に囲まれた静かな山間の里。
ガガガガ、グワングワン、機械音が聞こえる。我々の目的地、山田製油のごま油専門工場だ。
『ええもんつこうてうまいもんつくる』
d京都店の担当をしてもらっている営業部の中井さんに案内してもらい、工場に入ると、目の前に煉瓦造りの大きな焙煎機が見えてくる。同時に香ばしい甘い香りが身を包む。そこで出迎えてくださったのは、ごま油づくりを手がける寺坂さんと大月さんだ。
ここでは主に定番のごま油をはじめ黒ごま油、金ごま油、エキストラバージンごま油と4種類のごま油を日々搾油している。工程を見学させていただいた。制作工程は大きく、以下の3つに分かれている。
①焙煎:煎り上がった胡麻にお湯をかけて蒸らし、一番搾りのごま油のみを抽出し、油かすと分ける。
②湯洗い:抽出した油にお湯を入れて10分間攪拌する。この作業によって油と水がしっかり混ざって沈殿が遅くなり、澱(おり)という皮に含まれている旨味成分を油に閉じ込めることができる。
③静置:温度調整した蔵で二十日間寝かせ、ゆっくり時間をかけて油を沈澱させる。その後薪で火を焚くことで透き通った色のごま油に仕上がる。これが、山田製油独自のひと手間かけた「湯洗い製法」である。
創業当時から山田製油では、焙煎具合の調節は、天候や温度に応じて全て五感で判断してゆく。そこにマニュアルは存在しない。そのため、寺坂さんは普段からタバコ、酒、コーヒーは口にしないという。ねりごまとすりごまを担当するのは、曽我さん。ここでの焙煎を担当できるのは彼だけとのこと。色と仕上がりを目で見て、機械ではできない数秒単位の調節を経験で見極めて焙煎していく。
ねりごまは、石臼の二段引きをして、丸みのある柔らかさ、甘さを引き出している。この石臼が重要で、酸処理ではなく手磨きで作られた御影石で、さらには刃の形もオリジナルの特注品だという。現在ではこの石臼職人の後継者がおらず、宇治の抹茶をすり潰す機械を改良した石臼だった。
『作り続けるのは、ごまかしなしのごま油』
山田製油では、放射能を計測する機械も導入して、安全面には徹底的にこだわる。ここにも「ひと手間」がある。「どんなものかわからない健康食品を摂取するよりは、良いごま油を食べといたほうがよっぽど安全で体にいい。」ごま油は乾物ではなく生鮮食品。出来立てを出荷できるように、在庫を持たずに注文が入った分だけを作っている。
「へんこ」は直訳すると頑固という意味である。マクロビの理論をベースに「安心安全な良い素材を用いて、最高の製品を作る」代々の意思を徹底的に受け継いできた山田製油の姿勢は、へんこなまでの志そのものだと感じた。
スタッフ一向は工場をあとにして、山田製油本社に併設のレストラン「ピッコロモンド・ヤマダ」に伺い、イタリアンテイストのごま料理のフルコースをいただいた。前菜からメイン料理、デザートまで胡麻尽くし!そして、ごま油が食材を濃厚にさらに芳醇に引き立てている。「こんなイタリアン初めて!」思わず口々に感嘆の声が挙がる。胡麻とごま油の新しい境地を発見した我々である。
『人と人との繋がりでできている山田製油』
今回お話を伺う中で特に印象に残ったのは、山田製油さんならではの「人」を介した繋がりにまつわる数々のエピソードである。そしてその中心には、いつも皆さんが言う「うちの親父よりも、親父。義理、人情味に溢れた人」=山田社長が存在していた。
工場内にある小窓。中からは新緑が映え、暖かい日差しが無機質な機械を優しく照らしている。社長の「この土地ならではの季節の表情を楽しみながら作業してもらいたい」との思いがこめられている。スコッチウイスキーの小さな蒸留所を訪れた際、純粋なものづくりを楽しむ姿に感銘を受け、そこのドラム缶を使う製法や小窓の遊び心を取り入れたのだという。この工場に漂うどこか懐かしさのある温かな空気感は、へんこにこだわりながらも純粋なものづくりを楽しむ「人」を象徴しているように思えた。
芳醇でいて、スプーンですくって飲みたいほどさらさらと癖の無いごま油をいただく度に、生き生きと作業される皆さんの笑顔が浮かぶ。まさに「作り手の顔がわかる」ごま油と出会った私たち。今度は一人でも多くのお客様にd京都食堂で体現していただき、伝えていくミッションを楽しみたい。今日も南丹の胡麻の里で楽しみながら極上のごま油を作っておられる皆さんを思いながら。この笑顔を思い出したくて、ごま油を食べてみることも料理の楽しみの一つになりそうだ。
・山田製油
・ピッコロモンド・ヤマダ (Piccollo Mondo Yamada)
京都府京都市西京区桂巽町4-MAP
「山田製油定食」
会期 2021年6月3日(金) - 6月30日(木)
場所 d京都食堂
価格 1,600円(税込)
〈店舗情報〉
d京都食堂 Facebook / Instagram
住所 京都府京都市下京区高倉通仏光寺下ル新開町397 本山佛光寺内
電話 075-343-3217
営業時間 11:00-18:00
定休日 火・水