福島定食ができるまで(4)清水薬草店

取材2日目の朝、喜多方に来たからには「朝ラーメン」を食べなければということで、地元でも有名な「坂内食堂」さんにお伺いした。

平日の朝の8時すぎだというのに店の中には出勤前らしき男性たちが夢中になって麺を啜っていた。「喜多方ラーメン」は醤油味ベースが一般的だが、その味付けや風味なども店舗によって様々。そして「喜多方ラーメン」が他のラーメンと違う一番の特徴は、麺が「平打ち熟成多加水麺」だということだ。

坂内食堂の麺は縮れていて、横幅がある太麺。スープもあっさりとして、朝からでもするすると胃袋に入ってしまった。

さて、朝からお腹いっぱいになり、定食開発取材では初となる薬局「清水薬草店」さんに向かった。

「なぜ、福島に来て薬局なのか?」と思うが、それには会津藩から続く歴史がある。会津若松市にある「御薬園」は、二代藩主保科正経が大名庭に「薬草園」を設けたことから始まる。貧しい領民を疫病から救い、病気の予防や治療のために開かれた薬草園では、薬草の栽培と共に研究が始まり、中でも「おたねにんじん(会津人参)」は幕府より奨励があったことから、島根、長野と共に広く民間に奨励されてきた。その後、会津藩の財政を支える高価な商品として主に香港へと輸出されてきたが、韓国、中国産の普及によって価格も低迷。長く続いてきた会津人参の歴史も後継者不足や価格の下落などの問題で栽培を諦める農家が増えた。そんな中、おたねにんじんの歴史を絶やしてはならないという思いで、清水薬草店さんは自ら会津人参の栽培を始めたという。

「おたねにんじんは収穫までに6年かかるんです」そう話してくれたのは、薬剤師の清水純子さん。「おたねにんじん」とは朝鮮人参または会津人参の別名で、徳川幕府から種を授かったことから「御種人参(おたねにんじん)」と呼ばれるそうになったそうだ。そして気になるのはその年月。まず土作りに1年かかり、栽培に5年かかるのだそう。それ故、成長過程の段階でネズミに食べられてしまったりと栽培にも根気がいる。

なかなか続けることが難しく、会津人参農協という加工場が解散するとなった時、名乗りを上げたのが清水さん。會津人参栽培研究会を地元のおたねにんじん栽培農家と共に立ち上げた。漢方薬の加工販売を長年続けてきた清水さんにとって、おたねにんじんがなくなるのは考えられないことだったそうだ。

おたねにんじんの効能は主に疲労回復や滋養強壮、冷え性の改善にもなり、漢方薬として欠かせないもの。しかし、医薬品として流通する際の相場は決まっており、おたねにんじんを続けていくには、食品として注目されるかが今後の課題だという。よく韓国料理では参鶏湯に入っているのが有名だが、他にも天ぷらにしたりお茶にして飲んだりと使い方は様々。その中でも、おたねにんじんには保温効果もあるため、ハーブティーにして飲むと体がじんわりと温かくなる。

清水薬草店さんでは、おたねにんじんをはじめ、ハトムギやショウガ、サンショウやアカジソをブレンドした身体を温める効能のお茶など、症状にあったお茶を作っている。その野草のほとんどが昔は福島県内でも賄えたが、今では収穫する人が少なくなり、そのまま産地が消滅してしまうことが増えているそうだ。そしてその一つに、原発事故により立ち入ることができなくなった地域もある。

時代、環境の変化を乗り越え、人々の手で守り繋がれてきたおたねにんじんは、今新しい活路を開こうとしている。昔から人々に元気を補うとされてきたおたねにんじんを今度は食べることで応援していきたい。身体の不調は血の巡りが滞っているのが要因とされ、その改善を促してくれるのがおたねにんじんの効能だ。「福島定食」では、このおたねにんじんを使ったブレンドティーを提供する。日本人の身体に合わせて古くから調合されてきた漢方文化をぜひ飲んで体験して欲しい。

 
清水薬草店
福島県喜多方市三丁目4835 MAP
清水薬草店HP


「福島定食」ができるまで
D&DEPARTMENT PROJECTが、47都道府県それぞれにある、その土地に長く続く「個性」「らしさ」を、デザイン的観点から選びだして紹介するデザイントラベルガイド『d design travel』。30県目の節目となる、今回の目的地は「福島県」。d47食堂では、『d design travel』の発行毎にテーマとなる県の定食を提供しています。今回の旅は、「福島定食」を完成させるため、福島県でたくさんの場所や人を訪ねました。現地を訪ねたd47食堂スタッフによるレポートをお届けします。(全10回予定)


 
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