スタッフの商品日記 079 リングスツール

どの角度から見ても美しい、職人の高い技術が詰まったスツール
オブジェのような、置いているだけで様になるリングスツールは、1955年に山形県の家具メーカー、天童木工から発売されました。上でも横でも下からでも、どの角度から見ても美しいのは、座面と脚4本というシンプルな構造だからこそ職人の高い技術力が際立っているからです。その技術力が評価され、1966年にはグッドデザイン賞を受賞しています。座面は板座とビニールレザーの2種類です。

↑ビニールレザーは全部で5色(レッド、ホワイト、グリーン、ブラック、イエロー)展開

姿美だけでなく、機能性にも優れています。直径320mmの座面は薄いブナ材の板を、現在でも職人が一枚一枚重ね合わせています。厚い板のままではないため、より軽量(総重量:2.2kg)で片手でも軽々と持ち運ぶことができます。また中心に向かって座板に角度がついており、身体がすっぽりと収まるような工夫がされています。

↑座面の木目も美しい

↑片手でも持ち運びは簡単

つづく産業
このリングスツールは天童木工の加藤徳吉によって誕生しました。彼は天童木工の代名詞とも言える、重ね合わせた薄い単板を型にはさんで曲げる「成形合板」の道を決定づけた第一人者でもあります。

↑成形合板を生み出している機械

もともと加藤は建具や寺の境内にある小さな祠を作る職人でした。職人としての高い技術力に加え、積極的に仙台の商工省工芸指導所の展示会や講習会に参加するなど、新しい”ものづくり”に対する熱意が強かったようです。その熱意があったからこそ、いち早く高周波発振機(※1)に目をつけ、やがて主力技術の「成形合板」の可能性を今日まで広げて続けていることに繋がっていったのです。

※1 国鉄の初乗り運賃が0.5円という時代に25万円というとても高価なものだったが、当時取締役社長だった大山不二太郎は購入を決める。「工場長(加藤 徳吉)のオモチャとして買ってやった」という大山の言葉も残されている。

リングスツールの誕生
もともとリングスツールは、仕事場で職人たちが座るための腰かけ椅子として製作されました。そのため、華奢な脚でも安定感が出るように設計されています。中心の穴も、持ち手としての機能を果たします。使い勝手を重視したデザインだからこそ、ふとした時にストレスなく使うことができるのです。

↑当時の天童木工の工場内の様子。実際にリングスツールを使っていたことがわかる。

↑仕事内容によっては脚をカットした低めのものも使われていた。

天童木工の高い技術力
美しさと機能性を兼ね備えた製品が生まれるのは、高い技術力を培ってきた天童木工だからこそできるもの。その中のいくつかをご紹介します。

①丸天張り(◯天張り)
一般的なスツールは張り地を裏へ回して釘で留めるだけですが、リングスツールは溝幅が狭く、釘の頭が出てしまいます、そのため座の側面にわずか3mmの溝をつくり、そこへエアタッカーの機械を使って、ビニールの上から針を空圧で打ち込んでいます。その後、溝に沿ってコードを埋めて仕上げます。これは天童木工独自の技術で、1962年に実用新案権を取得、スツールを逆にしても裏面に張り地が回らず美しく見えます。

↑左:一般的なスツール。張り地を裏まで回し、釘で留めている。
 右:リングスツール(丸天張り)。裏面まで張り地が回っていない。

↑横から見た写真。白いビニール部分の下に溝があり、ここに釘を打ち込んでいる。

②座面と脚の接合
木製家具はどれほど脚を穴にきつく入れても時間が経てば緩んでしまうのが普通でしたが、このリングスツールには特許を取得した独自の技術を採用しています。一度組んだら絶対に抜けないといわれるほど強固に固定されています。

つづく暮らし
脚に使われているメープル(カエデ)はこけしの材料にも使われている木材で、磨くと独特の光沢が入ります。また、色が少しずつ飴色に変わっていくので、買った後の長い楽しみが待っています。

お気に入りのポイント
D&DEPARTMENTにはUSEDを含め様々なスツールが置いてありますが、群を抜いてこのリングスツールのデザインが好きです。ちょこんと置いているだけで可愛らしい。座り心地もなんでこんなに良いのだろうと思っていましたが、工場で働く職人が座るために作られた椅子と知って納得しました。脚の色もどんどん変わっていくので、最初には現れなかった深みが滲み出し、使い続ける楽しみがあります。日頃のメインの椅子としても使いやすいので、何脚も持っていたいスツールです。

リングスツールの商品ページ