ドメーヌ・ショオがある新潟市西蒲区の海側エリア、その一体の土壌は砂質でできている。まるで砂場に葡萄の木が植えられているように見える不思議な光景は、新潟の中でも、この周辺の土地ならでは。
葡萄は水捌けの良い土地を好む。石灰質や傾斜地が好まれるのも、土中の水が停滞せずに流れてくれることで、やや水分が枯渇した状況を生み、その分、葡萄はしっかりと地中深くに水分を求めて根を張ろうとし、結果、それが葡萄の力強さに繋がっていく。生食用の葡萄は水々しいが、ワイン用の葡萄はむしろその水分が多くないことで、じっくりと時間をかけて育ち、凝縮感のある味わいに育ち、それがおいしいワインへと醸されていく。
今年は、そんなドメーヌ・ショオの葡萄を使うことは多くはできなかった。ぶどうを育てながら生き、ワインを醸しながら生きることは、毎年、毎タンクが実験の繰り返しのようで、一律に結果を導き出せるわけではなく、そう簡単なことではない。また、収量もさることながら、タイミングも大事だ。今回は、ワイナリーの目の前にある、箱庭と呼ばれる畑から、プティベルドーとカベルネフランを少量ずついただき、日本酒の発酵酵母のスターターである酒母のように、全体の発酵酵母を元気にするような役割として少量利用させていただきつつ、それ以外は、新潟市南区のカベルネソービニヨンと、山形のスチューベンとマスカットベリーAがちょうど納品されたタイミングとなり、それらを混醸して仕込むことにした。
混醸とは名の如く、一緒に醸すことで、生葡萄を一緒にタンクに入れて、そこで同時に一緒に醸していくことである。発酵が進むスピードも、それぞれ異なるので、一つのタンクで複雑に発酵が進んでいく。それが吉となるか、凶となるか、もちろんその年度毎でも、品種が同じと言えども、変わっていくこともあり、先に実験と書いたが、ワインをつくるのは、永遠に実験をし続けていくことのように思える。そして、それが楽しい人にとっては天職となる。不思議でロマンチックな世界に、魅了されたら、ドメーヌ・ショオの小林さんのように、この地で生きることはどこまでも辿り着かないゴールを目指して走り続けるほかなくなり、それがまた、醸造家という生き物をおもしろくしていく。ワインをいただく僕たちも、その年々のいろんな変化を、今年は暑いね、なんて言いながらも毎年の夏を楽しむように、味わっていくのだ。
実は、小林さんにオリジナルで仕込ませてほしいとお願いをしたら、やってみましょう、と即答をいただいた。そこから、どういうワインをつくる?という話は、したような、していないような……しかし、葡萄がいつどう届くのかは、計画できるようでできない仕事。明日1トン届くから、といきなり生産者から連絡がくることもあるという。収穫時期はそのくらい、ピンポイントに変わり続けていく。結果、「いきあたりばったり」でいこうということだけは決まった。しかし、ドメーヌ・ショオでつくられるスチューベンを使ったワインがとにかく好きだったこともあり、できればスチューベンを使いたいな、という希望だけは伝えていた。結果、偶然にも、スチューベンはもちろん、いろんな種類の葡萄が同時に揃ったこともあり、まさに「いきあたりばったり」に、その時届いて一緒に混醸できるものを、入れ込んでいくことにした。
まずは、それぞれの葡萄を絞り、その絞ったジュースを、配合を変えながら、混ぜ合わせて飲んでみる。ワインではないが、その骨格のようなものは、葡萄ジュースを混ぜて味わってみることでも、なんとなく感じることができた。それは新鮮な驚きがあった。もちろん、発酵したら、その通りにはいかない。しかし、方向性だけは垣間見ることができる。
スチューベンを、今回のワインの骨格として主たるボリュームを設定し、他は少しずつバランスを見ながら決めていった。あとは、一か八か。いきあたりばったりで、一か八か……そんなことでいいのか?(笑)でも、1年に1回しか仕込まないワインづくりだ。これはずっとそういう気持ちで望むものでもあるし、毎年これに向き合っていく覚悟はあるので、どうあっても、最後は自分が飲めばいいからと思いながら、さあ、おいしいものができあがってくれ~!と願いを込めて、タンクの蓋を閉じた。
発酵期間を経て、「そろそろ瓶詰めするよ」と連絡が入った。菌の力に任せた発酵期間。もちろんその間の温度管理や酸素の管理は、小林さんの感覚で大切に見守っていただいた。待つ時間も、大事な仕事と言える。このブログを書き上げている今、実はまだ味見をしていない。しかし、瓶の中に見える赤い世界は、まさにドメーヌ・ショオの赤ワインそのもの。スクリューキャップも、なんだかキュートで、ピチピチしていて、さらりと喉を通過しながら、複雑な味が後からぐいっと押し寄せてくるに違いないとピンク色にした。きっと、そうに違いない。
この記事は、敢えて飲む前に書くようにした。飲んでから感想を書いてよって思われそうだけれど、それは、ぜひこのワインを買っていただいた方と同じタイミングで、僕も一緒に驚きたいと思っている。売る側の僕も、買う側のあなたも、お互いに栓を開けるまで知らない世界。いきあたりばったりで、一か八かで生まれるものは、そうやってドキドキしながら味わいたい。ドメーヌ・ショオさんのワインは、いつもそういうドキドキをくれる。ワインづくりはおもしろい。ドキドキするワインを、一緒に楽しみましょう。
また来年は、一体どうなるのか、それはまだ誰も知らない。ドキドキ。
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