d news aichi agui生産者ツアーレポート

知多半島は、県庁所在地である名古屋市から南に突き出た半島と、篠島・日間賀島などの島々の5市5町から成り立ち、伊勢湾と三河湾に囲まれた温暖でのんびりとした、自然豊かな場所です。

知多半島は、常滑焼に代表される窯業、知多木綿の伝統を引き継ぐ繊維業、お酢の世界ブランド「ミツカン」に代表されるような醸造業が盛んな地域でもあります。今回のレポートでは、実際に見学させていただいた場所を写真とともにご紹介します。

急須にふさわしい土があったから

常滑は産地として発展した


知多半島のモノづくりを語る上で欠かせない「常滑焼」。常滑焼の歴史は江戸時代までさかのぼり、伝統的な急須産地としてその名が知られています。

どんなシチュエーションで、どんな急須を使うとよいか。一口に急須といっても、実際に使ってみることが大事だと考えさせてくれたのが、いそべ商店の山田雅子さん。

まずは、急須を使う暮らしを体感する入り口となるような手ごろな急須から、作家ものと言われるような、これも常滑焼?というような個性的な急須まで教えてくださいました。

どんなお茶を飲むことが多いか、家族で飲むのか、来客用なのか、使い手がどんな風に使いたいかを知ることで、長く使ってもらう商品を提案できる、と実感できました。

山田さん自ら淹れてくださったお茶がとっても美味しかったです。

さて、「常滑焼」をご存じの方は、急須の印象が強くあるかもしれませんが、もちろん急須以外の焼き物も数多く作っています。わたし自身も、今回訪問させていただくまで、ほとんど知らずにいました。知らないというよりも、当たり前のように、日常に馴染んでいて、それが常滑焼だと気付かずにいたものもありました。

常滑焼作家の作風や土の個性を手に取り

使う楽しみを伝える「器と暮らしの道具morrina」

常滑焼のことをお聞きするなら、とお訪ねした「器と暮らしの道具morrina」。
こちらでは、常滑焼作家の作品を数多く扱っている場所で、店主の杉江寿史さんが、時代にともなう常滑焼の変化について教えてくださいました。中国大陸から伝わった急須が、日本の畳文化の中で、持ち手の付き方や、装飾が変化し、現代の暮らしに馴染むようになったことを聞かせていただきました。

杉江さんのお話を聞いて、長く続いていくためには、変化に合わせて柔軟にモノづくりをしていく姿勢が大切であること、そうした姿勢が常滑にあったらからこそ、現代まで急須文化が続いているのだと実感しました。また、先入観なくお客さんに手に取ってもらう工夫として、作り手の名前は聞かれたら応える、としているそうです。お客さんとのコミュニケーションの中から、日々の生活で、どのように器を使ってもらえるか、作家の方と使い手との間をつなぐことが、お店の役目という杉江さんの姿勢に、「伝え手」の心構えを学びました。

酸に強い土の特性を生かした貯蔵甕をつくりつづける

かつて米や酒を江戸に運ぶために使われ、海運で栄んだった当時、常滑では、各地からの需要を満たすために保存用の甕が数多く作られたそうです。現在常滑で唯一の甕製造メーカーである山源陶苑。創業時から変わらず作り続けている保存用の甕も常滑焼の一つです。甕にある2つの点々は、山源陶苑のもの、というロゴマークのようなもの。

創業当時から作り続けている甕は、カタチは変えず、釉薬の色を変えたものや素焼きのものなど用途に合わせたり、現代の暮らしに合わせたものにも挑戦しています。

伝統を更新する姿勢を大切にしている三代目の鯉江優次さん。2014年に、体験スペース、実際に販売している商品が使われているカフェスペース、ギャラリーを含むTOKONAME STOREをオープンし、手軽に常滑焼を手に取れる空間を整えて、伝える工夫をされていました。

すりつぶすひと手間が、素材の味を引き立てる

ヤマセ製陶所は、すり鉢一筋70年のメーカーさん。ごはん茶碗くらいの大きさから、直径50㎝を超える大きなものまでが揃います。家庭用で使われることはもちろん、日本料理のお店など、プロに愛される道具として、重宝されています。

すり鉢の肝は、目詰まりのしづらい"くし目"。食材をきちんとすり潰せるよう、絶妙な力加減で、すべて、手作業で入れています。

納得のいく"くし目"を入れるため、道具まで、手作りだということに、いいものをつくりたいという、作り手の想いを強く感じました。

近年では、おなじみの茶色のすり鉢以外にも、より暮らしに馴染みやすい色のものも作っており、日本だけでなく海外でも愛用されている方がいらっしゃるそうです。

特にこの、縁だけ色が付いているものは、フランスで人気だそう。

「すり鉢は素材の味を引き出してくれるし、ひと手間をかけることの大切さや日本の食文化を食卓から伝える道具」と、ヤマセ製陶所の三代目・杉江孝夫さんが魅力を語ってくださいました。

砥石は、道具を大切に長持ちさせる工夫

「これも焼き物なんですよ」、と教えてくださったのは、キング砥石の渡辺さん。

砥石は、天然砥石、合成砥石、研削砥石の3つの分類があり、キング砥石では、昭和15年から主に家庭用の合成砥石をつくっています。

砥石の原料となるのは、長石や磁器珪素。これに結合剤を加えて、成型していきます。焼き物とはいえ、砥石のカタチになる前は、サラサラの状態。これを油圧プレスで型どり、トンネル型の窯で2日間かけて焼き上げます。

油圧プレスで形にしたものがずらり。

焼きあがったものは、一つ、一つ丁寧に水で表面をならし、乾燥させて、完成。

最後は、ひとつひとつ確認しながら、手作業で梱包していきます。
今回、改めて「研ぐ」という行為は、道具を長く、大切に使う工夫の一つだと、実感しました。

焼き物の町で、長く愛されている濃い味わいの酒を

つくりつづける「澤田酒造」

代表銘柄は「白老」で古式伝統の味を創業から守り続けています。取り扱っているすべてのお酒を、木製の麹蓋を使って仕込むのは、おいしい酒をつくりたいという蔵人のこだわりです。

「焼き物職人が多いこの土地は、味の濃い食事が好まれる。だから、うちのお酒は、少量でも満足できて、濃い味付けにも負けないしっかりとした味わいが特長です」、と副社長の澤田英敏さん。日本全国にたくさんの酒蔵がありますが、その土地の食文化とともに味わうことが、大切な要素のひとつなのだと思います。

後編に続きます。