料理に合わせて使う楽しみ、食べる楽しみに出会える平茶わん
「お茶碗は深型で、ご飯をのせて使うもの」と思っているかたは多いのではないでしょうか。
そんなイメージを覆すのが白山陶器の平茶わん。平たく口の広い形で、使いやすさはもちろん、よそったご飯や料理と器の柄を一緒に楽しめるように設計されました。1992年に発売され、1993年度にはグッドデザイン賞を、2004年にはロングライフデザイン賞を受賞しています。
↑蓄積された釉薬のデータを元に、現在まで300種類以上の色柄が作られている
戦後日本の生活を見つめ、誠実にものづくりと向き合ったデザイナー
この平茶わんをデザインしたのが、陶磁器デザイナーとして名高い森 正洋(もり まさひろ)。「G型醤油さし」他、一連の食器で第1回グッドデザイン賞受賞をはじめ、数々の国際的なデザイン賞を受賞し、人々から愛され続ける製品を世に送り続けた、日本を代表するプロダクトデザイナーです。
↑1958年にデザインされ、60年以上愛され続けているG型醤油さし
つづく産業
G型醤油さしをはじめ、森正洋のデザインした器たちは白山陶器株式会社で作られています。彼は1956年に同社に入社、社員デザイナーとして約20年間を過ごし、2005年11月に亡くなるまで顧問デザイナーを務めました。
白山陶器株式会社は1779年に創業し、「なにより使いやすく、生活の中になじむものである」ことを原点に、長崎県の波佐見町で器づくりを行なっている陶磁器メーカー。デザインから成型、絵付、施釉、焼成まで全ての工程を自社内において一貫生産しています。使い勝手がよく、飽きのこないデザインで、時代を超えて多くの人に長く愛用されている器を作り続けています。
つづく仲間
森は1978年に白山陶器株式会社を退社後、森正洋産業デザイン研究所を設立。
それ以外にも、森は愛知県立芸術大学の教授をはじめ、様々な場所で講師としてデザインを教えていました。広く後進の育成に励み、現在も森に師事していたデザイナーは数多くいます。
現代の食卓を具現化した平茶わん
通常、めし茶碗は中に入れたご飯が冷めにくいように深型にデザインされているものが多いです。このイメージを打ち破った口径が大きい平茶わんですが、これは冷暖房が完備されている空間が保証されている、現代の生活だからこそ成立しているのです。
1992年に松屋銀座のデザインギャラリーで開かれた「森正洋めし茶わん」展。この時が平茶わんが世に出ていく最初の機会でした。
3週間の会期でしたが、デザインギャラリーの想像をはるかに超えるほど大盛況だったとか。当時、百貨店で販売されているめし碗の平均価格は800円前後でしたが、この平茶わんは2500円(現在は3,300円)。たとえ値段が高くても、自分の生活の中で使っていく楽しみを見出した人々が多くいたことが分かります。
この平茶わんが生まれた背景を、一世を風靡した同展覧会を手がけたライフスタイルコーディネーターの山田節子さんの言葉(『森 正洋の言葉。デザインの言葉。』)から抜粋いたします。
”先生に「どうしてこの形に?」と伺うと、「椀型、くらわんか型、平形の三種類の原型を三年間持ち歩き、行く先々で若い人たちに”どの茶碗で食べたい?”と尋ねたんだ。不思議なんだが、一番めし碗らしくない平型で八〇%以上が食べたいというんだよ」と先生。「何でだと思う?」と聞かれ、「今は飽食の時代で、ごはんを沢山食べることより、いろんなものをちょっとずつ食べます。口が広がっている器に少しごはんを盛るほうがおいしそうに盛れるからでしょうか」と答えると、先生は「そうなんだね、みんなにもそれがわかるんだね」と。(p.147)”
平茶わんの魅力
①よそう料理を問わない、自由な発想を生む器
一般的なお茶碗の直径が12、13cmなのに対し、約15cmもある平茶わん。ご飯だけでなく、煮物やサラダ、フルーツなどのデザートにも使えます。その時の気分に合わせて、多種多様な使い方を楽しめます。
②内側のデザインも楽しめる
外側の絵柄だけでなく、食事中もデザインを楽しめるのも魅力の一つ。
余白を楽しめる器です。
③一つずつ異なる模様
白山陶器の職人が手作業で行っている絵付けの作業。
一本の線を引くのもキッチリした線ではなく、こまやかなニュアンスが伝わるように、見本をよく見て行っているそう。手作業だからこそ、シンプルなのにユーモアと温かみを感じさせます。
↑裏側のぽってりとした「も」の字にも愛着が湧く
お気に入りのポイント
ご飯が美味しく見えるって本当なの?と半信半疑でしたが、使ってみるとその良さをすぐに実感。森さんのデザインが食卓に彩りを添えてくれるので、あるのとないのとではかなり空間の印象が変わります。
今までは汁気の多いものや丼もの、混ぜご飯などには大ぶりのものを使っていましたが、平茶わんを見たときにこれにお茶漬けを入れて食べてみたい!と強く思いました。平形なのでかきこみやすいのも良いポイントです。また、個人的な実感として、料理を美しく盛り付けたいので、ご飯の入れ過ぎも防いでくれるような気もします。(笑)
よそう料理だけでなく置いたときの空間も豊かにしてくれる、毎日使いたい、生活に寄り添った器です。
森正洋デザイン・平茶わんの商品ページ
【引用】
森正洋を語り・伝える会(2012)『森 正洋の言葉。デザインの言葉。』 株式会社美術出版社.