売薬文化から生まれた麦芽飴「島川あめ店」

高岡市から富山市へと移動し、私たちは呉羽山の東側、呉東へと進みました。市内には路面電車が走り、何と無く存在している富山ならではの交通ルールに、不慣れなドライビング。事前に余裕を持ったスケジュールを立てているのにも関わらず、思わぬアクシデントや現地で突然の出会いがあったりと、とにかく定食取材は必ず何かが起こるのがお約束。計画通りに行かないこともしばしば。

到着時間が遅くなってしまったのにも関わらず、笑顔で賑やかに迎えてくれたのは、美味しくてからだに優しい飴を作り続けて350年の、島川あめ店。
水あめは、砂糖を使わず澱粉と麦芽のみで炊き上げられ、江戸時代からその作り方を変えずに、今も作り続けられています。

麦芽水飴は、富山の売薬文化とも深い結びつきがあり、現在のようにカプセルや飲みやすい薬が無かったため、あめに包んで飲んだり、服用時のつなぎとして必要とされてきたそうです。

水あめは、固まりやすいので作業時間は、朝4時から午前中に行われます。

原材料は、澱粉と麦芽と米のみ。五つの釜で何度も濾して不純物を取り除き、高温で炊き上げることによって、水あめになります。一晩寝かせ、丸2日かけて出来上がります。その量は、一斗缶でわずか約8本ほど。本当に手間のかかる工程を、数十年続けている14代目店主の島川晋さん。

あめは、同じ材料、同じ分量で作っても気温や湿度など、その日の様子で同じものは作れないんです。毎回、自身の感覚や匙加減が必要で、特に透明なあめに仕上げるのが一番難しいと。夏場は、工場内は毎日サウナ状態ですよとニコニコしながらおっしゃっていますが、それを大変なこと、わざわざやること、と思ってはいない。その目尻の下がった表情から、感じ取れます。あめも生きいて、ずっと大切にしてきたもの。

現在では、電気式の物などで場内の温度を上げない機材であめを製造する所が多いようです。工場内にある5つの釜と銅製の2つの釜、そして、あめを練る機械。本当に大切にされ、手入れをし使い続けられていることが、島川さんの製造工程全てに使われる道具や機械達の方から、私に話しかけてくる。そう思わずにはいられませんでした。

島川さんの奥様や、お仕事されている方達は、皆さんとにかく賑やかで、取材していて楽しい。植物がお好きな方や、山に行く時は麦芽水あめを、非常食や疲労回復のために、必ずリュックに入れていきますと山登りが趣味の方。この土地とあめが本当に好きな方達です。

麦芽水あめを、スプーンで巻き取り口にしてみると優しい甘さ、癖がなく、すぅーと身体にとけこんでいきます。あ、喉が渇かない。そうか、これは山にちょうどいい。私も次回そうしよう。トーストしたパンにバターと水あめをつけて。ふわりと甘くじんわりと美味しい。

その他にも、コーヒー紅茶などの甘味や、ブリの照り焼きや煮物などに使うとみりんが必要無くなるとも教えていただきました。すぐに私も、お料理に使ってみたい。なかなか、麦芽みずあめと聞いて、キッチンにいつもある物ではないなと思っていましたが、お話を聞けば聞くほど、身体にも良いし、使いやすく家庭でも取り入れやすい。

塩はどれにしようか悩むけれど、お砂糖で考えたことは無かったなと改めて、私の料理のさしすせそを見直してみようと思いました。

それと、白い砂糖は、吸収が早い分、急激に血糖値を上げ、その反動でまたすぐに下がってしまいます。一方、水あめは、ゆるやかに吸収され消化されるので、身体に負担をかけません。

全てが優しい、島川さんが作るもの、島川あめ店に関わる人達。手のひらに一粒もらった、麦芽キャラメル。ぱくっと口にすれば、ほんのり柔らかくて、不思議と温かい。素朴で懐かしい。じーんとなるのは、なぜだろうか。

円やかでただただ優しい。そして、美味しい。ただただ、それにつきるのです。

取材も後半に差しかかり、私の中で膨らむ富山。どんな定食になるかは、まだ腹八分目。

しかし、どこで食べても本当に美味しい米。どこで飲んでも本当に美味しい水。日本の食べるの基本が素晴らしいこと。立山連峰、報恩講、暦、北前船、富山湾、山居村、農閑期、はぜる、じなじな、きときと。少しずつ私の中でキーワードのストックが増えていきます。

自分のことだけではなく、誰かを思って暮らすこと。必要なのは、全てでは無い。大切なものをちゃんと残して繋げる暮らし方。旅は、時々私にそうやって、宿題を残してくれるのです。

明日は、取材最終日。新潟県と長野県に隣接する、朝日町から始まります。