スタッフの商品日記 056 スキトオ

透き通る陶器(スキトウ)=スキトオ
特徴は何と言ってもこの薄さ。最も薄い部分は厚さ1mm以下で作られています。そのため麦茶などの色の濃いものを入れると、白いカップがほんのり色づいて見え、視覚的にも楽しむことができます。それ故、「透き(スキ)通る陶(トウ)器」から”スキトオ”という名前がつけられました。飲み物を入れて使うたびに、中身によってその表情が変わる、新しい楽しみ方ができるカップです。

100年以上つづく丸直製陶所のものづくり
スキトオは岐阜県土岐市にある丸直製陶所で作られています。岐阜県の焼き物といえば美濃焼きが有名ですが、その中でもなんと土岐市は陶磁器の生産量日本一。そんな土地に工場を構える丸直製陶所は1900年頃に創業されました。
創業当時はヨーロッパで薄い磁器が好まれていた事や、輸出の際に重さで関税をかけられていた時代背景により、今のような薄くて軽い商品が誕生しました。これらの陶器は”エッグシェル(卵の殻)”と呼ばれ、今でも職人さんによって1つ1つ手作業で作られています。

戦後は貿易でヨーロッパや中東に向けた陶器の輸出の需要が高まり、”エッグシェル”専用の窯元が70軒以上あったとされていますが、現在は国内で2軒のみ。理由は、安価で大量生産ができる中国製品の出現があったためです。そのため、日本の市場はみるみるうちに小さくなっていきました。そんな苦しい状況下にありながらも、丸直製陶所は高い技術力が国内・国外からも評価され、現在も残っているのです。

また、丸直製陶所は銅板転写の技術も国内屈指。銅板転写とは素焼きの磁器に柄の印刷された和紙のようなものを水と刷毛で丁寧に貼り付け、その模様を転写させることを言います。
1点づつ職人さんが貼り付けているため、柄のつなぎ目やかすれ具合にも味わいがあります。

リスペクトが連鎖して誕生した、D&DEPARTMENTだけのスキトオ
スキトオが誕生したのには2つのコップの存在がありました。東京の木村ガラスの「コンパクト」と、北海道の高橋工芸の「KAMIグラス」です。

3種のグラスセット
この3つのグラスは各メーカーさんのデザイン力・技術力のリスペクトから生まれました。誕生秘話を、ナガオカケンメイは「もうひとつのデザイン ナガオカケンメイの仕事」の中でこう語っています。

”極薄グラスの火付け役でもある木村硝子。薄くて素晴らしくデザインの美しい究極のコップ「コンパクト」をデザインした木村硝子の木村武史社長と、旭川の高橋工芸・高橋秀寿さんを知る人が、高橋さんの腕を見込み、木村社長に「これと同じ薄さ、形を木で作ってみてもいいですか?」と、たずねます。「出来るものなら、やってみろ」との返事。やりとりも粋で感動しますが、実際にその信じられない薄い木のグラスを高橋さんは実現。そして誕生し大ヒットしたのが「Kami Grass」。
(中略)そこで僕も高橋工芸に許可を得て真似をします。この2つのグラスを持って木村硝子へ行き、「これと同じ薄さ、形の焼きもののグラスを作ってもいいですか?」と。「出来るものならやってみろ」と、またしても木村社長。明治時代から極薄の輸出ものの陶器を作っている岐阜県の美濃焼、丸直製陶所の奥田将高さんを訪ね、依頼。試行錯誤の末に実現したものがこの「スキトオ」。透き通る陶器という意味でネーミングし、これもヒット中。(p222-223)”

素材や産地は違いますが、これらは薄くてデザインの美しい1つのコップへのリスペクトから誕生したもの。そこで、従来は銅板転写で柄がついている丸直製陶所の製品を、より薄さが際立つようなデザインとして、D&DEPARTMENTだけの真っ白なカップが誕生しました。

つづく仲間
今のような”エッグシェル”のカップが岐阜県の土岐市に伝来したのは、明治の初期にヨーロッパの商人が土岐市に買い付けと、国内の陶器製造の工場の下見に来たことが始まりです。当時の日本の職人はどんぶり等の大きくて分厚いものを作っていました。しかし、ヨーロッパの商人が持っていた薄くて装飾の施されたカップ&ソーサーを見て高い技術力に深く感動し、薄づくりの焼きものをつくり始めたといいます。
この薄い状態で焼き上げるのが非常に難しく、当時の職人が何年もかけて考案しました。それはトチと呼ばれる円錐形の台をつくりその上に碗を伏せて乗せ、焼いて縮む時に変形しないようにしました。この焼き方を伏せ焼きといい、現代も伝承されています。

そのような歴史背景の中、戦前から100年以上続いている丸直製陶所は家族で営まれています。現在は6代目の奥田将高(おくだまさたか)さん。創業当初から長い間は主にヨーロッパへの輸出用でしか販売しておらず、商品が国内に出回ることはありませんでした。これまでの日本では見たことがない、薄い陶器は扱いにくいという風潮が市場内であったためです。しかし、奥田さんは国内の家庭でも十分使えるんじゃないかとずっと考えられていたそう。丁度その頃にナガオカが奥田さんの元を訪ねたことで、一般向けの販売を始められました。

(右から6代目の奥田将高(おくだ まさたか)さん、先代の奥田直樹(おくだ なおき)さん、先代の奥様でいらっしゃる奥田浩子(おくだ ひろこ)さん、将高さんの妹でいらっしゃる白川康子(しらかわ やすこ)さん)

製作を続けていく上でいつも想われていることは、「とにかくお客様に喜んでもらうものを作る」と奥田さんは言います。培ってきた高い技術力と、一つ一つ丁寧に焼き上げられた職人の技で生まれた薄さと軽さは、更に飲み物を美味しく感じられるエッセンスになっています。

お手入れについて
高温でしっかりと焼き上げているため、見た目よりも丈夫。熱い飲み物を入れたり、電子レンジを使用したりしてもOKです。カップが熱くなるため、ご使用の際はお気をつけください。また、ひび割れの原因になるため、食洗機の使用はなるべく避けてください。もし割れてしまった場合は、金継ぎをするのがおすすめです。白い美しいカップに漆や金粉が模様を描き、また新しい魅力が誕生します。

お気に入りのポイント
私が岐阜県出身で、同郷で作られている商品ということもあり、スキトオを初めてみた瞬間から何か特別なものを感じていました。今まで使っていたコップはガラス製のものがほとんどだったのですが、丸っこいフォルムや真っ白でシンプルなデザイン性にとても惹かれ、購入しました。使用してまず感動したのは飲み口の軽さ。製造工程の中で伏せてから焼き上げるため、飲み口の部分が少し厚め(それでも1.5mmという薄さ!)になっているのと、飲み口から下部にかけてほんの少し曲線を描いている形状のため、飲みやすく、口当たりが軽く感じます。また、良い意味で陶器のコップの様には見えない真っ白でシンプルなデザインのため、コーヒーやお茶、オレンジジュース等の入れるものによって見え方が変わるスキトオの表情を楽しんでいます。最初はその薄さから恐る恐る使っていましたが、今はそれも一つのモノを無下に扱わず、大切に使っていくことの重要さを教えてくれているような気がします。これからも長く使い続けていきたい、そんな商品です。

スキトオ カップの商品ページ

【引用】
ナガオカケンメイ(2018)『もうひとつのデザイン ナガオカケンメイの仕事』 D&DEPARTMENT PROJECT.