木の器の魅力
はじめて高橋工芸の木皿を購入した時のことです。箱に同封されていた紙を読んでいて、使用上の注意事項にさしかかったところで『木は生きものです。』という一文が目に飛び込んできました。木が植物なのは分かっていましたが、このお皿の元は命あるものだったと認識したことで、ハッとしました。木の器を手に取るとなぜか和むし、他の素材の器には無い何かがある気がしていたのですが、その理由がわかった気がしたのです。
また、高橋工芸の器には、どのシリーズでも一貫して、無理のない自然な佇まいを感じます。その点も、木を製品づくりの材料として見るだけでなく、生きものとして扱っていらっしゃる姿勢を後から知って、しっくり合点がいきました。
高橋工芸のものづくり
木は種類によって、色や木目、硬さや吸水性が異なります。こうした木それぞれの特性を活かし、木の質感が感じられるテーブルウェアをつくっているのが、北海道旭川の高橋工芸です。
旭川の木材店では家具用の材しか手に入らないため、独自で木材を集めるしかありません。高橋工芸では、山に生えている状態から丸太で木を買い付け、加工業者に製材してもらっているとのこと。必要な数量が手に入らないこともあり、仕入れの苦労が尽きないそうです。
仕入れた木材は、製材されていてもすぐには使えません。まず一年以上かけて自然乾燥させる必要があります。乾燥具合はいくらベテランになっても大変気を遣うところ。年や季節によって湿度は異なり、その見極めを間違えると、割れや反り(そり)が出てしまいます。
角材から器になるまでの工程は、角を丸く削り、内側を削り、じゅうぶんに自然乾燥させてから、今度は人工乾燥。そして再び内側を削り、表面を仕上げ、塗装して完成。木製品づくりは、材料となる木が山で切られてから、製品として世に出るまでに、実に数年規模の単位で長い年月がかかるため、先を見越す段取り力が求められます。
つづく仲間
北海道は森林資源が豊かですが、その中でも旭川は家具の一大産地。家具会社が多くて、木工も盛んです。その旭川で1965年に創業した当時、高橋工芸では主に「ろくろ」を用いて、装飾を施したテーブルの脚づくりを手がけていました。次第に装飾家具の需要が減ってきた時代背景を受け、それまでに培った技術を活かし、1980年代からは器などのテーブルウェアをつくるようになりました。
1973年に旭川で設立された「旭川木のモノ組合」は、家具類の下請け加工を担ってきた職人さん達によって組織された団体です。この組合が目指すところは、旭川のクラフトの普及と振興。設立以来、技術開発の研究活動、後継者育成、同業種・異業種との交流会などをおこなってきました。高橋工芸の現社長、高橋秀寿(ひでとし)さんは、現在この組合の代表も務めており、クラフト展の開催など、地域に根ざした活動を続けていらっしゃいます。また、高橋さんは北海道の技術専門学校の職員に対する技術指導もおこなっています。
そして高橋さんは木製品の製造にとどまらず、上川郡上川町の林業にも関わっているのです。町の97%が森林でありながら、資源としては活用しきれていない現状があるそうで、有効活用に向けて働きかけているそうです。そのお話を伺って、木を見て森を見ないでもなく、森を見て木を見ないでもなく、文字通り木も森も山も見ている方なのだなと思いました。
Caraシリーズの誕生
きっかけは、旭川商工会議所による2007年のプロジェクト「旭川クラフト改造計画」。それは旭川で新しいクラフトをつくってブランド化する、という取り組みでした。そこで高橋工芸と出会い、共に製品開発することになったのが、プロダクトデザイナーの小野里奈さんです。
高橋さんから「北海道の木を使いたい」と聞いていた小野さんは、「北海道」をキーワードに器の形を考えていくうちに、「寒い冬でも、温かい料理をさらに暖かく包み込んでくれるような器」というイメージにたどり着きます。そして高橋工芸の持ち味である、木を薄く削り出す技術を活かせるような「やわらかい形」のデザインを考えていた時に、たまごの殻が持つしなやかでやわらかい曲線と結びついて生まれたのがCara(カラ)シリーズ。丸みのあるフォルムが、コロンとしたたまごを連想させます。実際に、たまごをトレースした曲線を用いてデザインされています。下の写真は2007年当時の試作品第一号です。
ネーミングのCaraは「殻」からきていますが、やわらかい雰囲気を表現するため、あえてKaraではなくCaraという表記にしたそうです。言われてみれば確かに、KとCで受ける印象が違う気がするものです。
素材には北海道の山林に自生する「シナノキ」が選ばれました。シナはとても柔らかく、水分も通しやすいため、あまり木工品には使われない木です。しかし色白で木目が目立たない、柔らかな印象を持つ素材なので、「たまごのような器」というイメージにぴったり合いました。
お気に入りのポイント
<Caraプレート>
木目が目立たず、シンプルなデザインなので、柄がある器と一緒に食卓に並べても、すんなり馴染みます。33cmタイプは大勢で集まった時などに。ガラスや陶磁器の大皿だと重さがあるので、棚から出し入れするのも力仕事でいちいち緊張しますが、シナノキの器は驚くほど軽量。Caraプレートならば大皿も軽やかに扱えます。
25cmタイプは1人前の料理を盛り付けるのにぴったり。縁の立ち上がりが絶妙で底の平らな面が広くとられているため、この上に小皿を載せてもよいし、いろんなおかずを少しずつ盛り付けるのも楽しいです。2-3人前のサラダやちらし寿司を盛り付けても映えます。
18cmタイプはパン皿として、またはケーキをいただく時にちょうどよいサイズです。私はまだ持っていないのですが、お取り皿として何枚か揃えたいと狙っています。
<Caraディッシュ>
プレートより深さがあるので、汁気があるお料理向け。24cmタイプには1人前のカレーライスやポトフなど。21cmタイプは煮込み料理の取り皿に、18cmタイプはサラダ皿として最適です。白っぽい色が美しいので、カレーのような料理を盛り付けてよいか心配だったのですが、色やにおいが染み込みにくい塗装のおかげで、安心して使えています。
<Caraボウル>
木の器は熱伝導率が低いので、温かい料理が入っていても手に持てます。深さがあるボウルタイプは、我が家ではスープやお粥をいただく時に重宝しています。15cmタイプはシリアルやスナックにもちょうど良く、写真の12cm タイプはお椀としても使えるサイズ感です。軽く、かつ落としてしまってもガラスや陶磁器よりは割れにくいので、お子様も安心してお使いいただけるかもしれません。
この他に、同シリーズではコロンとしたフォルムが愛らしいCaraコップ(Mサイズ、Sサイズ)もあります。縁の口当たりがやさしく、あたたかい飲み物が入っていても手で持てます。
お手入れ方法
使用後は洗剤をつけて洗います。洗った後は布巾などで水分を拭き取り、よく乾燥させます。水分が染み込まないよう、器の表面には食器用ウレタン塗装が施されていますが、この塗膜が割れる原因となるので、長時間の漬け置きは避けましょう。なお、食器洗浄器/乾燥機、電子レンジは使用できません。
繋ぐしごと
最後に、高橋工芸のカタログとホームページに掲げられている言葉が、高橋工芸の姿勢をとてもよく表していると感じたので、一部引用してご紹介させていただきます。
『北海道の山々から木を預かり器をつくる。
それは山と人とを繋ぐ仕事。
木を山から預かり人と繋げる。
そして、山を手入れし木を育てる。
~~中略~~
木の器をつくること、それは、山にも人にも大切な、
大きな視点と小さな視点を繋ぐ仕事です。』
私自身も使い手の一人として、命あるものでつくられているという視点を忘れずに、木が育った森や山のことも想いながら、この器を大切に使い続けていきたいと思っています。
Caraプレートの商品ページ
Caraディッシュの商品ページ
Caraボウルの商品ページ
Caraコップの商品ページ