特別先行公開① 『d design travel IBARAKI』ちょっと長めの、編集長後記

みんなとつくる、“せかい” と “みらい”。

 そもそも茨城とは、『常陸国風土記』によると黒坂命が賊を討つため茨で城を築いたという話や、茨を使って退治したという話がある。しかしそれが “茨城らしい” かどうかは、まったくの別の話のようにも思えるが、決してそうでもないかもしれない。ある目的に向かって、身の回りのものを使い、あれこれ考える。山も海も街(東京)も近く、無いものが無くて、困らない。関東平野の真ん中という恵まれた立地が、さまざまな “研究の場” をつくり、つくばだけに限らず、農業や漁業、工業や芸術、観光や町おこし‥‥茨城は、 “文化の多様性” に対応しながら、それぞれ地域ごとに変化してきたのだ。

 大きく5つの地域に分けられる茨城。県によっては、その境界線を越え、助け合ったり、競い合ったりするのを見てきたが、そうした県民性は、地理的な条件に影響されることが多かった。茨城には “常磐線文化” という、鉄道がつくる独特な文化があり、常磐線が通っているから、行く、知っている、などの特有の常識があって、常磐線が通らない地域には、そもそも扉を開かない。というより、開けなかった。電車も高速道路もない地域が、 “陸の孤島” といわれるのは、そのためだろう。仮に、つくばと鹿嶋を繋ぐような路線ができると、さらに文化が調和され、面白くなる。
 栗やメロン、ビールや淡水パールなど、生産量日本一が多い茨城県。農地面積も日本一で、野菜類も豊富。また、オセロやラジオ体操などは、日本でも茨城が発祥。こんなにも得意分野が多いのは、少なからず “魅力のない県” (地域ブランド調査による『魅力度ランキング』で、2013年から7年連続最下位だった)に対して、県民みんなが、何かしらの使命感を持って暮らしてきたからのようにも思える。魅力がないのではなく、魅力があり過ぎて、特徴が出づらい、ということ。茨城県という土地には、自然の資源も豊富で、それらを維持し続ける土壌も広い。「まずやってみる」が当たり前で、都会的なセンスも持っている。地域おこし協力隊にみられる “応援エネルギー” も、絶え間なく続いていて、他に類を見ない成果物産出の連鎖反応に繋がっている。日本の “みらい” を考えた活動の場。科学や技術の最前線。茨城は、全ての人類にとってのベースキャンプでもあり、みんなが暮らすこの “せかい” をつくる、構成要素でもある。
 最後に、本誌制作に当たり、クラウドファンディングにご支援いただいた皆さん、ありがとうございました。この結果も、日本の美しい “みらい” のための歯車なのだと思います。

書籍 『d design travel IBARAKI 』 、 「ちょっと長めの、編集長後記」より


 

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