圧倒的に手触りの良いセーター。
このセーターの開発のきっかけは、ある会合でニットデザイナーの渋谷渉(わたる)さんが着ていたセーターの極上ぶりに、D&DEPARTMENTのファッションディレクター・重松久恵が気付いたことでした。
一目見ただけでも伝わってくる上質感。渋谷さんが着ていたセーターに触らせてもらうと、想像以上にしなやかで、ふわっとした弾力があり、重松はその圧倒的な手触りの良さに驚いたといいます。そのセーターは渋谷さん自身が素材を指定し、デザインされたものでした。
この出会いがきっかけとなり、渋谷さんと一緒に、オリジナルのセーターづくりがスタートしました。
ニットデザイナー 渋谷渉さんのこと
渋谷さんのおじいさんはニット工場を、お父さんは撚糸工場を経営していました。渋谷さんも祖母からパターンや縫製を教えてもらい、中学生の頃には、すでに自分の服をつくっていたそうです。実際にニットの仕事をしようと思ったのは25歳頃。ご自身のブランドを立ち上げましたが、2011年の東日本大震災をきっかけに、考えが変わったと言います。
「そのころは毎日、睡眠を削って、自分のやりたいことや、立ち上げたブランドを育てるために頑張っていましたが、それは自分の欲であって、被災された人たちにはなんの役にも立っていないことに気付きました。頑張って寝ずに働いているなら、この頑張りを他の人のために使いたい、と思うようになったんです。この頃から、日本の繊維産業を残していくことを、自分の活動の軸にするようになりました」と渋谷さん。
糸の素材や風合いの研究開発をしていくなかで、感触が良くて、好きで使い続けていた、南米ウルグアイの羊毛に興味をもった渋谷さん。情報が少なかったウルグアイの羊毛について、どんな人たちがどんな想いで生産しているのか、羊たちの育つ環境から知ろうと、ウルグアイに1か月滞在。現地の牧童(ガウチョ)と一緒に、牧場で働きました。
大草原の中、のびのびとストレスなく放牧されているウルグアイの羊たち。馬に乗ったガウチョたちが、1万2000頭もの羊たちを目的の牧草地に移動させ、日々、羊たちの健康を見守り、出産をサポートし、年に1回、毛を刈ります。足元がおぼつかない子羊たちはゆっくり歩かせ、生まれたばかりの幼い羊は、ガウチョが膝に載せて移動させることも。
日々、生まれる羊もいれば、死ぬ羊もいます。
「死んでしまった動物は、皮をはいで、革製品をつくります。残った肉も全て使い、骨は長い時間をかけて土に還ります。豚は残飯をきれいに食べてくれ、大きく育ったら、人間が食べます。ここではすべてが循環していて、すべてが役割を持っていました。一緒に働いていたガウチョたちが、命をムダにしているところは一度も見たことがありません。ウルグアイの牧場では、日常の中に生と死があり、循環する自然の中にいる。日本ではあまり感じたことのない感覚でした」(渋谷さん)。
素材のこと
ウルグアイのウールの大きな特徴は、毛の柔らかさと、弾力のあるふくらみ。柔らかさは原料の毛の細さに由来します。ふっくらとした弾力は、羊の毛のクリンプ(天然パーマのようなカール)によって生まれます。
「僕、200頭くらいの羊から毛を採集して調べているんですが、中でも、ウルグアイのメリノ種の羊の毛は、毛のクリンプが均一で、とてもはっきりしているんです。それが今回のセーターの編み地の弾力につながっています」。
渋谷さんは「d 501 CREW NECK WOOL SWEATER」のために、15.5マイクロメートル(*)の細い毛を選びました。ちなみに、人の毛髪の太さが約80マイクロメートル。高級素材のカシミヤ(山羊)の毛が、約14.5マイクロメートルの細さ。今回のセーターに使ったウルグアイの羊毛は、カシミヤとほぼ同じです。
「細い毛をつくるには、2つ方法がある」と渋谷さん。
一つは、羊を飢えさせて毛を細くする方法。もう一つは、細い毛を持って生まれた羊を選別し、人口受精によって毛の細い羊を誕生させる方法。ウルグアイの羊は、長い年月をかけて、人口受精で毛を細くしています。放牧され、健康的に育っているので、元気のよい細い毛が生まれ、その点も、品質の良さにつながっています。
*1マイクロメートルは、1/1000ミリメートル
つづく産業
渋谷さんには、日本の繊維工場を残したい、という強い想いがあり、日頃から国内の工場に通って職人の方たちと一緒にニットの開発をしています。
今回、染めから紡績までを担当した深喜毛織は、高級素材が得意で「カシミアのフカキ」と言われる実力派の工場。深喜毛織がつくりあげた毛糸を編んでセーターにしているのは、ニットオカザキ。ホールガーメント(無縫製)のニット製造に特化した高い技術をもつ工場です。ニットの風合いの決め手となる、仕上げと洗いは、石川染工。
すべて、渋谷さんの信頼する作り手です。
綿の状態で染めていきます。下の写真は原料に水を加えているところ。
いろいろな毛を混ぜ合わせる「調合」の工程。
工場の職人と。後列の左から3人目が渋谷さん。
コンピュータの画面内は、ニットの設計図。渋谷さんの考えた仕様書や紙でつくったパターンを元に、職人が設計図を起こします。
「工場に行くと、必ず職人の方々と一緒にご飯を食べて、熱い話をいろいろしています(笑)。職人の方たちは、僕にはできないことをできる、高い技術をもった人たち。いつも彼らから、僕の依頼は難しい、と言われてしまうんです。目指すものはとてもシンプルなのですが、実現させるには難しいことが多いんです。今回のセーターも、ホールガーメントでここまでしっかりと洗いをかけて、風合いを生みだしたりして、とても難しいものだったのですが、形にしてくださいました」(渋谷さん)。
ホールガーメントのニットは、機械で一気に編んでいるので、工業製品のようにも見えがちだけど、「実は、農業のように、自然を相手にしている感じ」と渋谷さんは言います。
日本で販売されている衣類製品の中で、国産品は、たった2%。渋谷さんは、国内の繊維産業の高い技術を残していくことや、職人さんと細やかなやりとりをしながらものづくりをするために、国内の工場を選んで生産しています。
お手入れ
[日々のお手入れ]
1日着たあとは、洋服用のブラシでホコリを落とし、表面を整えます。着ているときの摩擦で、ホコリと繊維が絡みあって毛玉が生まれるので、ブラッシングし繊維の絡みをほぐすことで毛玉の発生を予防できます。ブラッシングした後は、2~3日、平干しして湿気を飛ばしつつ、休ませると長持ちします。
できてしまった毛玉は、引っ張らずに、毛玉取りブラシか、小さなハサミで取り除きましょう。毛玉を取り続けると、セーターが痩せてきてしまうので、毛玉がなるべくできないようにすることがポイントです。
[特別なお手入れ]
シーズン中に汗や汚れが気になったり、シーズンオフが近づいたら、洗濯のタイミング。ドライクリーニング、もしくは手洗いがおすすめです。
手洗いの場合は、水か30度以下のぬるま湯に中性洗剤を溶かし、軽く押し洗いをした後、水ですすぎます。洗いも、すすぎもそれぞれ数分間で十分。その後、ネットに入れて洗濯機で30秒ほど脱水し、形を整えて日陰で平干しします。
表面が擦れるような強い揉み洗いや、タンブラー乾燥は、縮みの原因になるため厳禁です。脱水後のシワが気になったら、セーターの形を整え、アイロンを浮かせながらスチームを当てると消えます。
お気に入りのポイント
なんといっても、手で触れたときのふわっと柔らかな感触がたまりません。着る前、ニットを手にとった瞬間から、もう小さな嬉しさが始まっています。
チクチク感が苦手なので、ニット製品は着られないものが多いのですが、この「d 501 CREW NECK WOOL SWEATER」は、素肌にあたる部分もチクチク感は一切なし。とにかく軽く、柔らかいので、一日中着ていても疲れません(Sサイズで、約240g)。
ウールは繊維の中でも抜群に湿気を吸う力があり、体が蒸れにくいという点も、着心地の良さにつながっています。上質な風合いがあるセーターなのに、スウェットのような感覚でラクに着ることができます。
着る人の体型に沿うホールガーメントだから、身長155cmの私は、S・Mサイズ共に体に馴染み、かなり迷いました。小柄なため、ロングスカートのときにセーターの前裾だけウエストに入れることもあることを考えて、Sサイズを着ています。
このセーターはユニセックスのS・M・Lサイズ展開。つい女性は、SかMサイズ、と思いがちですが、身幅をたっぷりとったカジュアルなシルエットだから、すこし体が泳ぐくらいのサイズを選ぶと、このセーターの編み地のしなやかな美しさが際立つと思います。背の高い女性スタッフは、Lサイズがよく似合い、バランスよく着こなしていました。サイズに迷ったら、D&DEPARTMENT PROJECT各店の店頭で、ぜひ全サイズ、気軽にお試しください。
D&DEPARTMENT TOKYOのインスタライブで、渋谷渉さんのインタビューとともに、身長の違う男女スタッフが着用した動画もありますので、ご参考ください。
「d オリジナルニットの魅力」vol.1~vol.3
Instagram(@d_d_tokyo)IGTVアーカイブはこちら
d 501 CREW NECK WOOL SWEATER グレー 商品ページはこちら
d 501 CREW NECK WOOL SWEATER ブラック 商品ページはこちら