語り継がれる保存食「凍みこんにゃく」

「田畑も原野も土肥え、海山の利ありて…海山川野の豊かな土地である。」(常陸国風土記)


奈良時代に編纂された『常陸国風土記』にて、「常世国(とこよのくに)」と呼ばれていた茨城。
海と山と川に囲まれて平地が多く田畑の耕作もしやすかったため、どの地域で暮らしていても食べ物に困ることは少なかったといいます。

『d design travel』29県目として、その茨城県へ伺いました。
d47食堂では2年前、県都水戸市を含む中央部の県央地域を取材し、ひと足先に「県央定食」を作りました。今回は茨城全域を巡り、関東の食を支えてきた豊富な資源と土地の恵みを存分に体験することができました。

受け継がれていく保存食「凍みこんにゃく」

県北部にある奥久慈地方は、かつてこんにゃく産地として名を馳せました。水戸藩がこんにゃく芋の栽培を推奨したため、こんにゃくが盛んに作られ、こんにゃく粉を考案したり、専売にするなど、一大産地となりました。

そんな中、ほかの地域への移動や長期保存のため生まれたのが、こんにゃく自体を乾燥させた”凍みこんにゃく”。薄くカットしたこんにゃくを寒厳期に藁の上で20日間ほどかけて天日に干し、乾燥させたものです。水で戻して煮しめや鍋に入れると、ジュワッと染み込んだ汁と独特な食感が楽しめる、茨城県北の伝統食材。

現在この凍みこんにゃくを作っているのは、奥久慈地方の限られた地域のみ。昭和初期までは、こんにゃく農家が冬場の農閑期に作っていたとされていますが、農家の減少や高齢化が進み、現在凍みこんにゃくを作っているのは3軒だけとなってしまったそうです。
今回はその中のひとつ、「袋田食品」へ工場見学に伺いました。

工場長の浅見義美さんが案内してくれたのは、普通のこんにゃくを作るのとは別ラインで構えている、凍みこんにゃく専用の工場。農家さんから届いたばかりのこんにゃく芋に迎えられ、凍みこんにゃくの作り方を説明していただきました。

この四角の箱を使ってひとつひとつ手作業で芋の皮をむいていきます。

歯のついたローラーに入れ、粗めにすりおろしていきます。驚くことに、凍みこんにゃくを作る過程で使用する機械は、このすりおろし機のみ。そのほかの行程はすべて手作業です。

生芋の繊維質が残るよう粗めにすりおろすことによって、凍みこんにゃく特有の歯ごたえが生まれるのだそうです。

こんにゃく粉から作ると、繊維質がなく滑らかな舌触りになるため、凍みこんにゃくには向いていないそうです。それが普通のこんにゃくとの製造ラインを分けている理由でした。
こんにゃくとして形ができたら、凍みこんにゃく専用のカット型を使って薄くスライスしていきます。

凍みこんにゃくづくりは寒厳期であることが重要で、12~2月頃になると畑に藁を敷き詰め、その上にこんにゃくを一枚一枚並べて干します。

そこへ水を撒くのですが、氷点下になる夜に凍り、日中の太陽の熱によって溶かされる。その温暖差を繰り返すことでこんにゃくが引き締まり、より歯ごたえのある凍みこんにゃくが作れるそうです。

山間部のため昼夜の温度差が激しいことと、雪があまり積もらず、冬場でも晴れの日が多いことから、この奥久慈地方でのみ凍みこんにゃくは作ることができるといわれています。

畑の半分には水で湿らせたこんにゃくが並び、翌日には、もう半分の畑にある乾いた藁面に、裏返して移動させます。
これを約2週間ほど繰り返し、毎日乾燥具合を確認しながら干していきます。その毎日の乾燥具合を見極めるのも熟練の技が必要だと言います。
ある程度の乾燥したら、隣のビニールハウスに移動し、カード型の大きさに切ると、凍みこんにゃくの出来上がりです。

袋田食品」は元々こんにゃく製造のみで、凍みこんにゃくはつくっていませんでした。
数年前、ここで最後の凍みこんにゃくづくりをしていた農家のおじいさんが袋田食品の社長に「この土地の伝統食だから、継承してくれないか」と頼み、3年ほど作り方を教えていただいて、凍みこんにゃくを工場で作り始めたそうです。
実際始めてみると、とにかく手間がかかる。ほぼ全工程を手作業で行うことに決めました。
どうして引き受けようと思ったのですか?と尋ねると、「これがこんにゃく屋の使命だからじゃないですかね」と笑顔でおっしゃっていました。

豊富にとれる食材と、土地の気候をうまく活用して生まれた「凍みこんにゃく」。
昨今、伝統料理や伝統食材の無くなっていく理由は様々ですが、その地でしか作れない、その地の利を生かした食は是非とも残ってほしいと強く思います。

今回の茨城定食では、けんちん汁の具材に凍みこんにゃくを使用しています。
独特な食感と汁の味が染みた凍みこんにゃくをお楽しみください。

「茨城定食」

※左下から時計回りに。

○ シラウオごはん
霞ヶ浦で漁獲されたシラウオの塩茹でを、
白米にのせるだけでもう十分。

○ ほしいも
「玉豊」の平干し、「紅はるか」の粉ふき平干し、
「紅はるか」の丸干し食べ比べ。

○ 蓮根の天ぷら
霞ヶ浦の豊富な水を活かして栽培される蓮根を、
ホクホクの天ぷらに。

○ つと豆腐
豆腐を藁苞で包んで作る「つと豆腐」。
出汁が浸みて美味しい。

○ けんちん汁
里芋、大根、人参、芋茎に加え、
県北の“凍みこんにゃく”を入れる。

○ 在来大豆の納豆
「菊水食品」がつくる在来大豆を使った納豆。
写真は須崎農園の「青御前」納豆。

〈提供期間〉
会期 2021年2月16日(火) - 2021年05月24日(月)予定
場所 d47食堂(渋谷ヒカリエ8F)
価格 1,800円(税込)

〈店舗情報〉
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住所 渋谷区渋谷2丁目21-1 ヒカリエ8F 【MAP
電話 03-6427-2303 定休水曜
店内利用・テイクアウト 12:00-20:00(L.O 19:30)

※営業時間に変更がある場合はSNSにて最新情報をお届けしておりますので、ご来店前にご確認ください。

※d47食堂では、お客様に安心してお過ごし頂けるよう、以下のような対策を取っております。
○間仕切りのない開放的な空間で換気を徹底
○席間の十分な確保
○入口にアルコール消毒を設置
○スタッフのマスク着用