2021年の2月までの会期で、展覧会がスタートしています。「デザイン」と聞くと、昔はデザイナーの名前がやたら前に出ていたり、奇抜で、生活道具とかでありながら、使いづらかったり、トレンドを背負いすぎて、すぐに飽きてしまったりと、短命なものが多かったように思います。そんな時代を経て、このコロナの世の中にもなり、ものに向き合う、時間の使い方が変わりました。そこに浮き彫りになっていったのが「新しいデザイン像」ではないかと、僕は思います。今回の展覧会を考えるにあたり、大きなきっかけを頂いたのが富山県南砺市で開催された「民藝夏期学校」。たまたま富山にご縁があり、楽しい友人も増えたことで通っていた先である富山で「民藝」の合宿があると聞き、思い切って参加しました。僕はこういう知らない人たちと過ごすのが、とにかく苦手ですが、富山に近しい感じも芽生えていたことと、よくよく聞いてみると、この富山県南砺市は柳宗悦が「美の法門」を書きあげるためにしばらく滞在したり、民藝作家である棟方志功が疎開していた土地。業界的には「民藝発祥の地」と言われていて、ならば参加しない訳にはいかない・・・・と、参加したわけですが、そこで柳宗悦の研究をしている松井健さんの講義を聞き、もう、落ちていくように民藝に興味を持ちました。そして、カーサブルータスの柳宗理特集によって、いつの間にか「用の美」(機能性が高いものは美しい)というプロダクトデザイン論にすり替わってしまった本来からすることの誤認識にも気付くことができて、「美しいものを作るには、心が美しくなければ作り出せないし、そうした美を“美しいなぁ”と思うこともできない」という本来の思想に触れ、これを現代に照らし合わせたら、どんなものがそれに当たるのか、集めてみたくなりました。僕の歴史の中では、2008年に松屋銀座で企画、開催した「DESIGN BUSSAN NIPPON」の企画視点である「今、日本中の物産は、どれくらいデザインで進化しているのか」を集めてみたいと思った衝動とほぼ、一緒でした。それから12年後の2020年。民藝の考えを参考に「直観」でものを47の日本から選び、並べてから、それがどう作られたのかを調べるという、結果からの分析的なやり方で、「感覚的になんだか知らないけれど、美しいなぁ」と思うものをまず集め、それがなんなのかを後から調べていくという変わった方法で展覧会を作っていきました。
話は松井健さんに戻します。僕はこの展覧会について何度か松井さんに意見をもらいに住んでいらっしゃる沖縄にお邪魔しました。先生はとにかく丁寧に、ゆっくりと説明をしてくださいました。夏期学校の開眼、そして、著書の面白さ、誤解していたことが解けて、なおもその柳宗悦の考える美しいものへの考察が、今の時代、これからのものづくりに関わる全ての人の参考になる。これを参考にすることで出来上がるデザインこそ、これからのデザインなんだと確信し、展覧会の記念講演をお願いしました。それが18日に行われます。18時30分から渋谷ヒカリエの8階です。
最後に本を紹介させてください。その松井健さんの著書です。まずは「民藝の擁護(ようご)」サブタイトルにある「基点としての柳宗悦」とあります。僕的に簡単にいうと「みんなが誤解している柳宗悦について、しっかり再確認したい」という本だと思います。これがものすごく面白いです。デザインやクリエイションに関わる人は、読んだ方がいいし、読後にものづくりの姿勢が変わります。
そして、もう一冊は「民藝の機微(きび)」サブタイトルは「美の生まれるところ」です。僕の中では、この2冊は繋がっていて、この紹介の順で読むと、ますます新しいものを作り出すための考え方を学べます。美しいものがどうして生まれているのか。生まれるのか。例えば、自然の中に美の形を求めていく様子や、「模様」に対する考え。砥部焼などの筆使いからの模様は、実際、とても生み出すのに大変。「私達は自然をよき模様以上に美しく見ることは出来ない」(本文中) これ、どう思いますか。笑 深いです。楽しいです。
↓松井健さんのトークも開催する展覧会の情報はこちら
LONG LIFE DESIGN 2 祈りのデザイン展 -47都道府県の民藝的な現代デザイン-