無水鍋の誕生
今から約100年前のこと、大正10年(1921年)に広島の田島倉造商店(現在の広島アルミニウム工業株式会社)によって製造開始された「ミササ印の羽釜」は、アルミニウム特有の火の通りの良さが評判となり、かまどと組み合わせて広く使われていました。その後第二次世界大戦を経て、人々の暮らしは変わっていきます。戦後のガスコンロ普及を受け、かまどと比べて火力が弱いガス台でもおいしくご飯を炊ける羽釜づくりを目指し、開発に2年かけて1953年に完成されたのが「無水鍋」でした。
炊飯用に開発された鍋でしたが、密閉性に優れていることにより、水を加えずとも、野菜に含まれている水分だけで調理することも可能と判明。素材の栄養価が下がりにくい調理方法から、最初の商品名は「キング印無水栄養鍋」と名付けられ、フタには王様のマークが刻印されました。写真は発売当初の無水鍋です。
つづく産業
無水鍋は鋳物製品です。純度の高いアルミニウム合金を700度以上の熱で溶かし、溶解状態のまま汲み上げて、専用の金型に流し込みます。固まったら型から取り出し、不要となる部分を取り除き、研磨して仕上げます。
昭和30年代、無水鍋づくりで培われた砂型鋳造の技術の高さに着目した東洋工業(現在のマツダ株式会社)との取引が始まり、自動車部品産業に参入。いまや国内に9拠点、海外に4拠点を有し、最先端技術を備える部品メーカーに発展しました。しかし広島アルミニウム工業にとって、ものづくりの原点はあくまでも無水鍋。工場では現在も、熟練の職人さん達が鍋づくりをおこなっています。
誕生当時と現在の無水鍋とを見比べると、その外観はあまり変わっていません。装飾や色が加わることなく、デザインはシンプルなままです。しかし、本体底面に特殊な加工を施してIH調理器でも使用できるようになっているなど、生活の変化に合わせた改良がされています。
お手入れ方法
使用後は水気が残らないよう、火にかけて水分を飛ばします。料理していて鍋の中が焦げ付いてしまった場合は、金属たわしでゴシゴシとこすり落としてOK。少量の水を入れて温めてあげると、焦げが落ちやすいです。ここで気をつけたいのは、洗剤に何を使うかです。焦げ付きには重曹が便利ですが、アルミ製品に使うと化学反応を起こして黒く変色させてしまうため、無水鍋への使用は避けましょう。クレンザーや中性洗剤は問題なく使用できます。
つづく暮らし
無水鍋の特長は、何といっても火の通りの速いこと。アルミニウムは鉄やステンレスと比べて熱伝導率が高いため、より弱い火力でも、短時間でムラなく素材に火が通ります。強火にする必要はありません。また、無水鍋は鍋底が厚いつくりで蓄熱性に優れており、火を消した後の余熱でも調理できるほど。そして特筆すべきは、軽さゆえの扱いやすさです。同サイズのステンレス製、鉄製の鍋と比べた時に、鍋自体の重量は約1/3です。
気軽に使える無水鍋は、急いで食事を支度したい時の強い味方でもあります。帰宅したらパッと無水鍋を取り出し、2分ほど火にかけて予熱。その間に野菜をざくさくとカットし、無水鍋の中に入れます。入れる野菜によっては、水を1cmだけ入れたり、蒸し皿を使うこともあります。ちょっと別の作業をしている間に蒸しあがり、熱々のところをトングで取り分けます。
無水調理でうまみが逃げないというのは本当で、野菜を美味しく味わえます。無水鍋で温野菜を作るようになってからというもの、凝ったソースやドレッシングを添える必要を感じなくなってしまい、むしろ使うお野菜を厳選するようになりました。食べ方は、その日の気分によって柚子胡椒でいただいたり、オリーブオイルやごま油をちょろっとたらしたところに塩を振るだけで、一品完成です。
他の鍋との大きな違いは、フタの形状。フラットで上につまみが付いていないので、裏返せばフタそのものを、フライパンのように使うことができます。お気に入りは、このフタに具材を並べて焼き目を付けたところに、水煮トマトを崩したものとチーズをのせ、本体をフタがわりにかぶせる料理。鍋の中で熱が回って、トマトの水分で蒸し焼きとなり、チーズはとろり。オーブンのような使い方ができるのです。これは料理研究家の有元葉子さんが出されている「無水鍋料理」という本に載っていた作り方ですが、無水鍋の販売元「株式会社HALムスイ」の公式ホームページでも、参考になるレシピが数多く紹介されています。
無水鍋を電子レンジに入れることはできませんが、その他の熱源は使用できます。直火のほかに、ヒーターやストーブに載せたり、そのままオーブンに入れての調理が可能です。寒い時期に美味しいおやつ、焼き芋も無水鍋で作れます。鍋の底にアルミホイルを敷いて、さつまいもを置いたら、焚き火やストーブの上に。時々フタを開けておいもを転がします。菜箸などで軽く押してみて柔らかくなっていたら、火を止めてフタをしたまま放置。自然の甘さだけで美味しい、ホクホク焼き芋のできあがりです。
使うときのコツ
フタをすると、中の様子が見えません。そして小さな火力でもしっかり熱が伝わるので、火にかけたまま放置しないよう要注意。コトコトという音が鳴りだしたら沸騰の合図ですので、火力を弱めるか、火を消します。
非金属のつまみや取手が上に付いていない無水鍋は、洗いやすいし、重ねて収納できて便利。その代わり、鍋つかみは必須です。本体もフタも、全体がとても熱くなります。タオルなどでは熱を通してしまって持つことができません。無水鍋の取手を掴むのには、つまみやすい形状の鍋つかみがオススメ。我が家ではミトン型ではなく、下の写真にある鍋つかみを無水鍋に使っています。
これが美味しさの秘密でもあるのですが、本体とフタがぴったりかみ合わさるため密閉性が高く、鍋の内部に蒸気がこもります。フタを開ける時は、吹き出す蒸気に注意。本体とフタの取手が重ならないよう、わざとずらしておくと取手が掴みやすく、様子を見ながらフタを開けられます。あらかじめスペースを開けて鍋敷きを用意しておけば、高温になっているフタをすぐに置けて安心です。
容量2.4リットルの20cmタイプではお米が4合まで炊け、2~3人前ぐらいの鍋料理も楽しめます。お米が6合半まで炊ける24cmタイプでは、4.0リットルと容量に余裕があり、我が家では燻製を作ったり、ケーキを焼くなどオーブンとして活用するほか、煮込み料理でも活躍しています。
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