D&DEPARTMENT DININGの創業当時から続く「d&ドライカレー」。その味は、創業者であるナガオカケンメイが感銘を受けた「カフェ・ハイチ」のドライカレーをもとに、隠し味に味噌を入れるなど歴代料理長の手によりオリジナリティを高め、いつしか看板メニューとなりました。
人気メニュー30品のレシピ掲載した『D&DEPARTMENT DINING BOOK』(2007年12月、主婦の友社より出版)当時の「d&ドライカレー」
現在は、「D&DEPARTMENT DINING TOYAMA」、「d京都食堂」、「d news aichi agui内カフェ」の3店舗で提供しているのですが、実はもう1店舗、d&ドライカレーを楽しめる店が、山形県鶴岡市にあります。2008年まで4年間、D&DEPARTMENT DININGの料理長を務めた沼田健一さんが営む「Blackbird Market」です。(2024年8月現在)
沼田さんは、D&DEPARTMENT DININGでメニュー開発やレシピ本の製作に携わった後、故郷である茨城県に戻り、水戸市で「Trattoria Blackbird」をオープン。食事を出す“トラットリア”と立ち飲みの“バール”を組み合わせた店は、県内外のひとに愛されながら、2017年に閉店しましたが、
2017年、惜しまれながら幕を閉じた水戸市「Trattoria Blackbird」。
その後、山形県鶴岡市に移住。ゆったりした空間で食事を楽しんでもらいたい、店の外でもおいしく味わってほしいと、ランチやテイクアウトを中心に営業する「Blackbird Market」を改めてオープンさせました。
2018年山形県鶴岡市にオープン。現在d&ドライカレーを提供している「Blackbird Market」。
沼田さんは、「山形で店をやるならお米を使いたい。それなら、カレーだろう」と構想を膨らませるなかで、d&ドライカレーを“そのままの形で出す”ことを思いついたそうです。
「最初は、d&ドライカレーをベースにした、それっぽいものをやろうかなと思っていたんです。でも、オリジナルに対するリスペクトを大事にするのがD&DEPARTMENTだと思うので、だったら、そのまんまの形で出させてもらおう。それしかないと。僕が働いていた時、食部門のディレクターが『dで開発したレシピを卒業生が自分の店で出せるようなシステムを作りたい』って、言ってた気がするんですよね。」
そして、D&DEPARTMENTに「d&ドライカレーをメニューとして出すかわり、ひと皿ずつロイヤリティを払いたい」と沼田さんから申し出があったのです。
もちろん社内では驚きと大きな喜びを持って受け入れられ、奥沢から遠く離れた山形の地でも、d&ドライカレーが提供されています。レトルト発売を機に、さっそく味見してもらいながら、2000年代のD&DEPARTMENT DINING、d&ドライカレーの味の変化について、沼田さんにインタビューを行いました。
アップデートされ続ける d&ドライカレーの味
レトルトを試食して
相馬|早速作ってくれたんですね。
沼田|見た目は、本当にそのまんま。うちで出しているカレーと、色も濃度も変わらないですが、味は優しいですね。うちは、レシピ本と全く同じレシピで作ってるんですけど、それと比べると、よりシンプルな味。元々僕がいたときは、ウスターソースやケチャップが入っていて、もっと洋食的な感じでした。その点以外は、まさしくd&ドライカレーです。
相馬|D&DEPARTMENT DININGからdたべる研究所にリニューアルした時に、d47食堂的なアレンジとして、八丁味噌を加えてみたんだけど、味噌感が強すぎて。レトルト化するにあたって、元のベースに戻しつつ、みりんやケチャップの使い方を少しシンプルにしました。
調味料のアップデート
相馬|前任のひとからd&ドライカレーを引き継いだと思うんだけど、沼田くん自身が、こういう風にアップデートしようってことはあった?
D&DEPARTMENT DININGで働いていた当時の沼田さん。
沼田|当時大阪店に何度か“留学”をさせてもらって。当時料理長だったヒロマサくんは、調味料に対する意識も含め、半歩も一歩も先を行ってた。おいしい調味料を使おう、要らないものは入れないようにしよう、ってことを、すでに取り組んでいたんです。
D&DEPARTMENT DINING OSAKA
沼田|それで東京店も、ちゃんとつくっている醤油、酒、みりん、味噌を使うことにしようと。そうしたら、味もはっきり変わった。いい意味で、まろやかになったのは、覚えてます。僕がいた4年間は、d&ドライカレーだけじゃなく、全体のメニューをそういう方向に変えていこうって時代だったんだと思います。
D&DEPARTMENT DINING TOKYO
d&ドライカレーに表れる地域性
相馬|当時東京店と大阪店で、ちょっと味が違った気がするんだけど、あえて別々にしようって意識があったの?
沼田|大阪店に行くまでは、向こうがどういう風に出しているかも知らなかったんですよね。レシピを見せてもらったら、全然違っていた。当時は店舗同士の交流も積極的になって、レシピ本を作るのにずれを無くそうとすり合わせをした記憶があります。大阪店の料理長とは同い年なんで、いろいろ一緒にやれたんです。
人気メニュー30品のレシピ掲載した『D&DEPARTMENT DINING BOOK』(2007年12月、主婦の友社より出版)
相馬|沼田くんが今出しているd&ドライカレーがどんなものか、気になるなあ。
沼田|たぶん、僕が食べてた時代の味。ただ、使っている味噌や調味料は、この地域のもので、豚は庄内豚を使ってます。ローカル性もありながら、目指してきたのは“あの頃の味”。今のd&ドライカレーがこれだとすると、うちのd&ドライカレーも、少し寄せていっていいのかもな。
相馬|それはまた楽しみですね。うちも、それぞれの店で出しているd&ドライカレーは、店内でつくっていて。富山は富山の味噌を使うから少し甘かったり、地域性が出る。食材は店のある地域で集めた方が絶対いいですからね。料理人や地域、食材によって少しずつ味が違うのは、いいことかもしれない。それも楽しい。
d&ドライカレーのつくりかた
お店のようなd&ドライカレーを作ってみたい方は、必要な材料や作り方を記したレシピを、こちらからご覧いただけます。
沼田さんによると、「アーモンドスライス」と「卵」をしっかり用意するのがポイント!少し手間をかけるのも、また楽しいはず。20年の想いが詰まったd&ドライカレー、みなさんもぜひ味わってみてください。