本書が誕生する最初のきっかけは、日野明子さんに誘われ、 2013年、D&DEPARTMENT OKINAWA by OKINAWA STANDARD において行われた「d勉強の会 モノをつくること-民藝と今のモノづくり」でお話しする機会をいただいたことでした。
依頼を受けた当初は嬉しかったのですが、次第に悩みました。沖縄という場所で「民藝とはなにか」を語るということは、単に、民藝ってこんなものですよ、と軽く決めつけることではないはずだ、と。むしろ、柳宗悦たちが沖縄を訪ねた際に発見したよろこびについて語ることを通じて、今の沖縄に見出されるよろこびのありかを探り、また、そのよろこびを損なう社会状況に対して柳たちが行った抗議が、いかに今の沖縄の状況とつながっているかを我が身のこととして振り返り、さらには、沖縄という土地で生まれた友情を、自分もまたお会いする人々と結ず。これが沖縄という場所で〈民藝〉を語るということではないだろうか、と考えました。結果としては、そんな僕の願いはしっかりと通じた、そんな満足感が今も残っています。
画像は高木崇雄さん撮影。左:窯出しに通う、小代焼・ふもと窯(熊本県)、右:岩手・小笠原鋳造所の南部鉄器「フィッシュパン」
本書は、その翌年、D&DEPARTMENT FUKUOKAで開催されたトークイベント「d SCHOOL わかりやすい民藝」を元に加筆、再構成を行ったものですが、考え方自体は変わりません。柳たちも悩みながら、迷いながら生きてきたことを知ってほしいのです。柳たちをあがめ奉る存在としてではなく、僕らの友として親しく迎え入れることが、本当の意味で〈民藝〉を生きることではないか、と思うのです。
柳宗悦は『美と工藝』の序に「私は此の書をあふるる情愛を以(もっ)て此の世の無数の名も無き職人達の亡き霊に贈る」(注)と記しています。柳がものを生み出す人々に対して抱いた親しみと慈愛が伝わってくるようで、好きな一文です。僕も柳にならい、この書籍を、あふれる情愛とともに、共にこの世のよろこびと悲しみを生きる、すべての友に贈ります。そして、本書の制作にあたりご協力いただいたみなさまに、心よりの感謝を捧げます。
2020年 高木崇雄
(書籍『わかりやすい民藝』 「おわりに」より)
注:『柳宗悦全集』第8巻 筑摩書房 1980年
[著者プロフィール]
工芸店・工藝風向店主。1974年、高知生まれ、福岡育ち。京都大学経済学部卒業。会社員生活を経て、2004年、福岡市内に工芸店「工藝風向」開店。九州大学大学院芸術工学府にて、柳宗悦と民藝運動を対象に近代工芸史を研究、博士課程単位取得退学。日本民藝協会常任理事。新潮社「青花の会」編集委員。
「d design travel」シリーズで、「◯◯県の"民藝"」を連載中。
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