紅茶好きが淹れてくれる紅茶を
飲める場所が少ない日本。
はじめて「MUSICA」に伺ったのは、15年ほど前。大阪・堂島のビルの一角にあった「MUSICA」は、海外から輸入した紅茶箱が山のように積まれ、まるで異国に入り込んでしまった感覚。その世界観に憧れて、二代目の堀江敏樹さんにお会いしたのが、僕と「MUSICA」との出会いでした。
現在は、三代目の堀江勇真さんにバトンタッチし、拠点を堂島の地から創業の原点でもある兵庫県芦屋市に移転し、加工と販売を中心とした場所に替わりました。移転してから、勇真さんは祖父にあたる一代目が芦屋に開いた喫茶を、またいつか復活させたい、と話してくれていました。
そんなある日、芦屋の歴史的建造物でもある「旧宮塚町住宅」の活用提案が芦屋市に通り、喫茶を始めることができることになります。そこからは、あっという間。2019年7月9日、芦屋の地に喫茶「tea saloon MUSICA」が産声をあげました(しかも、その建物はMUSICAが創業した1952年と同じ年に建てられたという、これもなにかの巡り合わせ)。
初代が始めた喫茶、二代目が始めたティーポットでのサービスで本格的に紅茶を楽しめる紅茶専門店、それらをミックスし、さらに芦屋の地域とも根を張っていきたいという思いを込めて、地元の美味しいケーキや煎餅を選び、紹介しながら、紅茶と一緒に楽しんでいただくメニューがあります。
紅茶に合わせるスイーツにも注目。芦屋の「ELEPHANT RING」のバームクーヘンや、自家製スコーン、スリランカ製のジンジャークッキーなど。シンプルでどれも美味しい。
それはまさに次代に繋ぐ進化のように思えました。常々、勇真さんは僕に、日本では美味しい紅茶を飲める場所が少ないと話してくれます。
「紅茶好きが、店に立って淹れてないと伝わらない。淹れ方は難しくないけれど、紅茶を飲める場所がただ増えただけでは、紅茶が広まっているとも思えない。」とも。
「MUSICA」は多店舗展開はしない。そこに誰がどういう思いで立ってお茶を淹れているかを大切にするからこそ。そういえば、15年前に堀江敏樹さんにお話を伺った時も、近いお話だったことを思い出しました。
美味しい紅茶を出す、その至極真っ当なことを継ぐことは、心から紅茶を好きと思う人を育てること。難しいけれど、好きを継ぐということに尽きるだろう。
勇真さんの次女、堀江真彩子さんが、厨房で勇真さんと一緒に立たれていました。「今のお客さんは、親や祖父の時代からの方が多いので、私は紅茶の魅力を、次の若い世代に伝えていきたい。」
次の世代の“紅茶好き”が淹れる紅茶を、僕も長く応援していきたい。
※本ページは『d news No.2』に掲載された記事を一部再編集したものです。
●店舗情報
Tea Saloon MUSICA(Instagram)
住所 兵庫県芦屋市宮塚町12-24 旧宮塚町住宅
営業時間 11時~19時 定休日 日曜
TEL 0797-38-8677