時間をかけて、手間を惜しまず、自然の流れを。
【かつお節】
待ちに待ったこの日。南の端、枕崎市へ。
私たちは、かつお節職人「宮下誠さん」の製造を拝見させて頂いた。
d47食堂で使わせて頂いているかつお節は、全て宮下さんが作ったものだ。オープン当初から変わる事無く、食堂の出汁を支えて下さっている。
鹿児島に取材に行く事が決まって一番に、宮下さんに挨拶に行ける事に喜びを感じた。
朝7時半に作業場へ伺うと、既に作業が始まっていた。
宮下さんご夫婦と息子さんお二人、ご家族4人で行う。頭、腹皮を落とし、内蔵をとり、三枚に捌く。ここまでを誠さん、息子さんで阿吽の呼吸で行う。最後「節」に切り落とすのは誠さんの仕事。
この「節」をお母さんが籠に並べていく。流れるような、見事な作業風景に、ただただ圧倒された。
インド洋で育った鰹が、黒潮にのって枕崎市にやってくる。昔、冷蔵庫が無い時代の保存法として「鰹節」の製造が盛んになった。今では、海流の変化で鰹が枕崎市に来ることがなくなり、鹿児島市で水揚げされ、冷凍保管された鰹を使っているのが現状。
宮下さんのかつお節をd47食堂に卸してくださるのは、かつお節問屋タイコウ。タイコウで扱う、宮下さんの鰹節は全て「一本釣り鰹」のものだ。鰹は「一本釣り」と「巻き網」の2種の方法で漁が行われる。「巻き網」で穫られた鰹は、網の中で暴れ苦しむうちに旨味成分が減少してしまうが、「一本釣り」ではストレスを最小限に抑えられ、出汁をとるとその味の違いは一目(一味?)瞭然。
捌く作業が済んだ後は、茹で、骨を抜き、燻し。
燻した鰹節は形を整え、カビを付け、天日で干す作業を繰り返す。
言葉でまとめると簡単になってしまうが、一行程ずつ、神経の行き届いた作業だ。鰹の状態から鰹節になるまで、半年以上はかかる。
「時間をかけないと、なかなか良いものはできない。」と誠さんが教えてくださった。
「鰹は黒潮にのってゆっくりやってくる、自然に目の前に来た魚を穫って、目の前の魚を捌く。自然の流れを大切にしなきゃいけない。」という言葉に、誠さんの作業姿を振り返り、納得した。
(真ん中:宮下誠さん)
【養豚】
薩摩半島からフェリーに乗り1時間、大隅半島に到着。
鹿屋市の「ふくどめ小牧場」に伺った。
鹿屋市で生まれ育った福留ご一家が営む「牧場」兼「精肉店」兼「加工所」兼「飲食店」。
「昔は、島から豚が届いて、各家庭で自分たちで育てた豚を食べていた。」農業も盛んな鹿屋市では“自給自足”が身近なことだった。
ふくどめ小牧場では、豚一頭を7、8割はロース、バラの生肉として販売。加工しにくい部位を、ソーセージやハムに加工して食べやすいように、自分たちで育てた豚を大切に、余す所無く、消費者に届けている。
毎週決まった曜日に豚の解体を見学でき、地域の子供達にとっての食育にもなる。私自身、解体を見たことが無く、豚肉を消費している。消費者として“見ておくべきこと”、“知っておくべきこと”を、ふくどめ小牧場で教えてくれている。
「家業を継いだら生き物が相手だから自由に行き来できなくなるから、若いうちに海外を見てきなさい」というお父さん・公明さんの言葉を背に、長男の俊明さん、次男の洋一さん、長女の智子さんは、みな海外へ留学。
その後、長男の俊明さんは養豚を、次男の洋一さんはマイスターの資格を取り、加工を、智子さんはお店を切り盛りされている。
今は、洋一さんが留学先のドイツで出会ったサドルバックという豚を日本で初めて飼育に挑戦しじっくりと育てている。
養豚場へ豚を見に行くと、広明さんが手を叩くと、豚が鳴き声を上げながら近寄ってきた。
放牧する場所には草が茂っていて欅の木が所々に立っている。欅は木陰になるし落葉が糞と混じり堆肥にもなるので、最適なのだそう。気持ちよい環境だ。
【黒酢】
最終日の最終地点。
鹿屋市から北上し霧島市福山町「坂元醸造」を訪ねた。
坂元醸造の黒酢製造責任者・藏元忠明さんに黒酢畑を案内して頂いた。
約200年も前に沈壽官窯で製造された壷が、5万2千も広がる光景は、まさに「黒酢畑」。その一つ一つを毎日観察する。「酢の顔色を伺う」と藏元さんはおっしゃる。
黒酢の原料は“米”と“水”だけ。
壷に米麹、蒸し米、地下水、を入れ、ひたすら熟成させて出来上がる。
仕込み→糖化→アルコール発酵→酢酸発酵→熟成の過程があり、短くても一年かかる。
一つの壷の蓋を開けると、一面を粒状のものが覆っている。振り麹が菌糸を広げて膨らみ、蓋の役割をしている状態だ。
ここからさらに酢酸発酵が進むと、酢酸菌が液面に広がり、最終的には、「くろず」と「もろみ」の状態になる。そして、そこからさらに熟成させると、風味が変わってくる。
熟成年数の違う黒酢を飲み比べさせていただいた。1年未満ものは、フレッシュな味で酸味も強い。2年以上のものは、深みが増し、香りもまろやかに。3年以上のものは、より深い味わいとなり、独特の香り。
藏元さんは、「人によって感じ方が違うので、自分に合うもの,好きなものを選ぶとよい」とおっしゃっていた。
夏の暑い日も、冬の寒い日も、休むことなく職人のみなさんに見守られながら育つ黒酢。
雪が降らず、年間を通して温暖な気候であるという、ここ福山町ならではの自然条件があるからこそできる、黒酢は自然の産物だ。
鹿児島で出会った人々、想い、見せていただいたもの、食べたもの、すべてを注ぎ込んで、鹿児島を感じていただけるような定食を作ろうと心に深く刻み、定食取材を終えた。