東シナ海に面した広い海岸線と、山に恵まれた、阿久根市では
「漁業」と「柑橘農業」について触れた。
【うるめいわしの丸干し】
朝8時、阿久根漁港では、既に水揚げされた魚達がトロ箱におさまり並んでいた。この日水揚げされていたのは、うるめいわし、きびなご、いわし、あじ、さば。南の暖かい海で育った魚が、黒潮にのって鹿児島に到着する。ここ阿久根では、なかでも青魚がよく集まると伺った。
うるめいわしの漁は早朝4時から始まる。まだ餌を食べる前のお腹になにもたまっていない状態で穫ったうるめいわしは、脂身が少なく臭みもすくない。小魚なので骨も柔らかいため「丸干し」にして、1匹丸々あますところなく頂ける。
(右:下園正博さん)
この日案内して下さった「下園薩男商店」の三代目・下園さんは、丸干しの製造者。家業である干物製造業を継ぐ傍ら、衰退していく干物文化と、阿久根市に県外の人を呼び込み魅力を感じてもらえるよう、「イワシビル」を手がける。「イワシビル」では、1階にショップとカフェ(「旅する丸干し」など自社製品はもちろん、阿久根のうまい物を集めている)、2階に水産工場(見学可能)、3階にはホステルを構え、観光客が、より阿久根市に入り込みやすく受け入れてくれる。
ホステルに宿泊した人だけが食べられるという(土日のみ一般の方も可)朝食を特別に作っていただき、1階のカフェスペースでいただいた。
(手前:カタクチイワシ、奥:うるめいわし)
“カタクチイワシ”と“うるめいわし”の食べ比べをさせていただいた。カタクチイワシは内蔵にほんのり苦みがあるが食べ応えが抜群。うるめいわしは甘みが強く噛めば噛むほど旨味を感じた。
店内には下園さんはじめ、スタッフの皆さんが、アイデアを出し合い生まれた、“旅する丸干し”や、阿久根の特産品の加工商品がセンスよく並べられていて、誕生秘話を聞きながら巡ることができた。どうしたら若い人も干物に感心をもってくれるのだろうかと真剣に考え、かつ楽しみながら取り組んでいる下園さんの姿をみていると、『自分自身も干物を日常に取り入れていこう』という気持ちと、『d47食堂からも“丸干し”を発信していこう』という、楽しみが生まれた。
【ボンタン漬け】
創業1960年の泰平食品では、文旦(ぼんたん)漬けの製造をされている。
ぼんたんの実の大きさは人の顔ほどの大きさがあり、ずっしりと重い。
その大きさとは裏腹に、果実はグレープフルーツほどの割合、果皮(白いワタの部分)が4割を占めるほど多く、この果皮を砂糖漬けにした物が「文旦漬け」。
ちなみに、表皮からとれるぼんたんの油分は、全国で名の知れている「ボンタンアメ」の原材料になる。
1つのぼんたんから、①果物②ぼんたん漬③ボンタンアメ
と3つの活用法を生むところに、鹿児島の底力を感じる。
文旦のルーツは、その昔、中国の紗文旦氏から果実を譲り受け、阿久根の土地で育てはじめたことから「阿久根文旦」がこの土地に根付いた。
【つけあげ】
阿久根市から車で30分ほど南下し、「つけあげ」発祥の地、いちき串木野市へ。
鹿児島の名物「つけあげ」は「寺田屋」の寺田成弘さんに教わった。
「つけあげ」は、魚のすり身と豆腐などを一緒に練って揚げたもの。名前の由来は、沖縄(琉球)の「チキアギー」が伝わり言葉が変化したとか、魚のすり身をついて揚げるから「つけあげ」と呼ばれる、など諸説あり。
妹の加世さんからつきあげに関する話を伺っていると、兄の成弘さんが静かにすり身を練り始めた。刃の無い包丁でまな板の上で慣れた手つきですり身を板に押し付けていく。空気を抜かないと膨らんで破裂してしまうからだ。木枠にきれいに型どったすり身を切り分けながら、リズムよく揚げ油の中に落としてゆく。ぷかぷかと浮かぶつけあげを、やさしく返しながら、待つこと約4分。
揚げたてのつけあげが出来上がった。ふわっと甘く、やさしい味。冷めてきゅっと引き締まったつけあげも美味しいが、揚げたては格別だった。
南の国から流れ着いたものに興味をもって発展させる「なんでも試してみよう!」という探究心に、鹿児島ではたびたび触れる。