鹿児島定食ができるまで ~1日目~

限られた取材時間の中で島に訪ねるべきか話し合う中、「鹿児島は、島があってこそ。島の影響を強く受けている。」と伺い、初日は奄美大島へ向かった。

 

奄美大島に着き車を走らせると道路脇には、ソテツやアダンの木、さとうきびなど、島らしい植物が風になびいていた。暖かいかと思っていた島の気温は、曇り空のその日は東京よりも寒かった。「気温はその日の風で変わるよ、2日前は暑かったんだけどね。」と島の人に聞いた。

 

まず向かったのは鶏飯の専門店「けいはん ひさ倉」。

白米の上に鶏のムネ肉、錦糸卵、干し椎茸、パパイヤ漬け、たんかんの皮、きざみのりを乗せ、鶏だしの汁をかけて食べる鶏飯は、かつて、薩摩の役人をもてなすために工夫された料理。昔はヒュース(ひよどり)などを材料にした炊き込みご飯だったとも言われている。

お腹が空いていた私は、茶碗を持ち上げ口の中にかき込んだ。さらりとした汁は、鶏の旨味がしっかりと出ていて、それぞれの具材の甘みと汁の塩気が一体化。
島には鶏飯専門店は何店舗かあるが、それは観光客向け。主には親戚の集まりの際にお母さんがつくる、それぞれの味が各家庭にあるのだそうだ。
白米の上に、自分好みで具材を乗せて食べる行為が手巻き寿司のような、ワクワクする楽しさが、鶏飯にも感じられた。

 

【奄美の夜は「なつかしゃ屋」】

そもそも私たちが奄美大島へ来たのは、イサ子先生に会いたいためだといっても過言ではない。
d desin travel誌の編集部が金井工芸の金井さんにご紹介して頂いたのがきっかけで訪れたことがあり、絶対にくるべきだと薦められた。
店主は、恵上イサ子さん。島の中学校で校長先生を務めておられ、引退した現在も「先生」と慕われていらっしゃる。


(右:イサ子先生)

(ハンダマご飯)

なつかしゃ屋では、奄美大島ならではの、鮮度の良い魚、トビンニャという貝や、島らっきょ、にがうり味噌、ハンダマご飯、ワンフネ(豚足と大根の煮物)といった料理を頂いた。

なかでも、「マダ汁」には驚いた。
「マダ=イカの墨」の汁。食べてみたいという私たちのわがままを聞き入れてくれ、昔の教え子に頼んで新鮮なイカを手に入れて、作ってくださった。

(マダ汁)

 

「高価なものを使わなくても、奄美の食材がお腹も心も満たしてくれる」
「長く学校に勤めいろんなこども達を見てきて、やっぱり食が大切なんだと思ったんだ。」
「奄美の美味しい食材を、語らいながらゆっくり食べたいと思えばここに来て欲しい」
と暖かい表情で先生はおっしゃった。

満腹で食べきれなかったハンダマのご飯とふくれ菓子をイサ子先生はラップに包み、手土産で持たせてくれた。

 

東京で暮らしている時間の流れが嘘のようにおもえる、島の時間。この空気をつくる島の人々の、おおらかな暖かさはどこからきているのか、残りの鹿児島取材の中で探っていく。

 

21:00、鹿児島本島へ向かう為フェリーへ乗り込んだ。