「田畑も原野も土肥え、海山の利ありて…海山川野の豊かな地である。」(常陸国風土記)
奈良時代に編纂された『常陸国風土記』で「常世国(とこよのくに)と呼ばれていた、茨城。海と山と川に囲まれて平地が多く、田畑の耕作もしやすかったため、どの地域で暮らしていても、食べ物に困ることは少なかったといいます。
今回d47食堂では、県都の水戸市を中心とする9市町村から成る「茨城県央地域」の豊かさを感じられるような定食を作るため、秋のはじめ頃に現地を訪れました。
城里町~レッドポアロー農家、木村さんを訪ねて~
渋谷から車で約二時間半。水戸インターを降りて最初に向かったのは城里町(しろさとまち)。明治時代からこの地で作られている伝統野菜のレッドポアロー(赤ねぎ)を栽培するレッドポアロー研究会会長 木村昊さんの畑を訪ねると、一面にねぎの葉が広がってました。
わたしたちが伺ったとき、台風19号が日本列島を襲い、茨城県の被害は甚大でした。城里町も例外ではなく、木村さんの畑も15cmほど浸水してしまったそう。畑のそばを通る道路は土埃が舞い、草木には地面から数cmのところに泥の跡が残っていました。
ひと昔前は、毎年洪水が起こるような地域だったため、このあたりは、河原によくあるような粘質の弱い砂が混じった土質だそう。
「レッドポアローは台風が過ぎ去ってから1週間で5cmほど伸びているんだよ」と、木村さんは教えてくれました。
レッドポアローが柔らかいのは、この土質があるからこそ。さらに、通常のねぎは3ヶ月足らずで収穫しますが、レッドポアローは15ヶ月かけて育てます。途中で植え替えを行うことで、甘みと柔らかさが強まるそうです。
育てるのに時間がかかるうえ、色味や太さに関して農協が定める厳しい規定があるため、レッドポアローを育てる農家は多くありません。また、葉の剪定の際に表面の赤色がついた皮を傷つけてしまうと、”レッドポアロー”として出荷できなくなるため、収穫から出荷まで手作業で行っており、手間がかかるといいます。
「自分では、これ(レッドポアロー)に勝るものはないと思ってる。」
そう胸を張って話す木村さん。その場で引き抜いてくれたレッドポアローは青空と畑の緑に赤色が映え、とても綺麗でした。レッドポアローの甘みと柔らかさ、色を生かせるのはどういった料理だろうと考えながら、木村さんの畑をあとにしました。
この地に生きる植物と人のたくましさに触れることができました。
笠間市~昔の面影を残す笠間いなり寿司~
次は笠間市へと向かいました・笠間市には日本三大稲荷神社として名のある笠間稲荷神社があります。昔、神社の周りにくるみの林があったことから、別名「胡桃下稲荷(くるみがしたいなり)」と呼ばれていました。そこから、この神社に奉納するいなり寿司にはくるみを入れるようになったといわれています。
笠間市のお店ではくるみ入りは定番で、そのほかにも地域でとれる栗や舞茸、そばやみょうがの入った色とりどりのいなり寿司が作られています。今回は「つの国や」と「きむらや」にお伺いしました。「きむらや」で頂いたいなり寿司は色とりどりで、目でも楽しませてもらいました。
d47食堂で提供している茨城県央定食でも、笠間市できのこを無農薬で栽培している飯村きのこ園の舞茸を使用させてもらっていますが、この日訪れた「つの国や」でも、飯村きのこ園のほか地元の生産者がつくる食材を積極的に使っていました。
普段馴染みのあるいなり寿司とは違った歯ごたえに、変わり種の薬味ときのこの香りが相まって、食べる手が止まりませんでした。神社に続く通りに、こうした笠間いなり寿司のお店が5、6件立ち並んでいました。いくつかのお店のいなりを食べ比べ、膨れたお腹をさすりながら門前通りを楽しみました。
茨城町~寄り合ってこさえる伝統料理~
茨城町(いばらきまち)へと向かいます。茨城の伝統食「つと豆腐」の生産・販売を行うひまわり工房の山口成子さんを訪ねると、快活な笑顔で迎えてくださいました。
40年ほど前にこの地域に嫁いできた山口さんは、先輩主婦の方々に「今から作るからねえ!」と呼ばれて、教わりながら一度に20~30丁もつと豆腐を作ったといいます。
元々豆腐を持ち運ぶための保存方法として、わらに詰めたことから始まったされていますが、その頃は冠婚葬祭のときに自宅で料理を振る舞うため、近所の主婦が3、4人で寄り合ってこさえるものだったそうです。
山口さんご自身も自宅で結婚式を行ったため、近所のお母さんたちがつと豆腐を振る舞ってくれたそうです。冠婚葬祭にまつわる行事を自宅で行わなくなった昨今では、そうしたおもてなし料理を作る機会も減ってしまいました。この近所でも、数年前にある方の自宅葬を行なった以来、寄り合ってつと豆腐を作る機会がないそうです。その結果、地域で受け継がれてきた伝統食の存在を知っている人も少なくなってしまいました。
山口さんがつと豆腐の生産・販売を行うようになったのは4年前。茨城大学の教授の依頼を受け、元々営んでいた味噌工場でつと豆腐作りを行うようになったそうです。
わらに包まれた豆腐は程よく水分が絞られ、歯ごたえが増して大豆の味が強くなり、甘辛いたれで煮込むことによりさらに旨味が増します。藁目のついた独特な見た目に反して、素朴な優しい味付けは、ふと思い出した時に食べたくなるような懐かしい味わいです。寄り合ってこさえるという営みも含めて、この先にも残していきたいと思う伝統料理でした。
つづきはこちら
「茨城県央定食」
※右下から時計回りに。
○ けんちん汁
県央地域の農家さんから届いた根菜と舞茸のけんちん汁。
○ 「吉田屋」の梅干し
茨城県産の梅「石川一号」を塩だけで漬けた無添加梅干し。
○ ほしいも3種食べ比べ
「紅はるか」の丸干しと平干し、「玉豊」の平干し。
○ カナガシラの丸干し(水揚げ状況に応じた地魚が届きます)
那珂湊で水揚げされた地魚。丸干しでふっくらと旨味が凝縮。
○ つと豆腐
豆腐を藁に詰めてから甘辛く煮る、茨城町に伝わる郷土食。
○ レッドポアローの甘酢漬
城里町の伝統野菜、赤ネギを甘酢漬けに。
○ 「だるま食品」のわら納豆
茨城産大豆を藁で包んで発酵させた、濃厚な味わいの納豆。
〈提供期間〉
会期 2019年11月13日(水) - 2019年12月10日(火)
場所 d47食堂(渋谷ヒカリエ8F)
価格 1,750円(税込)
茨城県央定食を作る旅
現地取材レポート
>> 茨城県央定食を作る旅 ⑴ 城里町・笠間市・茨城町編
>> 茨城県央定食を作る旅 ⑵ ひたちなか市・那珂市編
>> 茨城県央定食を作る旅 ⑶ ひたちなか市・水戸市・東海村編
「茨城県央を味わう食の旅」2020年1月25日(土)日帰り
茨城県の中央部に位置し、県都水戸市を含む9市町村からなる茨城県央地域は、海と山と肥沃な大地のある、豊かな自然に恵まれた食の宝庫。旬の地魚やほしいも、わらつと納豆など、それぞれの土地で気候や土壌を活かした、特色豊かな食文化を味わうことができます。今回のスペシャルツアーでは漁場から納豆、ほしいも産地まで、その土地らしさを感じる食と風土、文化を楽しみながら、d47食堂の料理人が「茨城県央定食」を開発するために巡った旅を追体験。茨城県央地域に息づく食文化を学び、味わい、体験する、茨城県央の魅力を濃縮したフードツーリズムに、一緒に出かけてみませんか?
開催レポート
>> “その土地らしさ”の魅力を辿る、茨城県央を味わう食の旅に行ってきました。〈 海の恵み編 〉
>> “その土地らしさ”の魅力を辿る、茨城県央を味わう食の旅に行ってきました。〈 土の恵み編 〉
>> “その土地らしさ”の魅力を辿る、茨城県央を味わう食の旅に行ってきました。〈 つくり手編 〉
主催:いばらき県央地域観光協議会
監修・ツアー催行:D&DEPARTMENT