メイプルツアーが教えてくれる「森と関わり続けること」

d design travel 埼玉号のキーマンとしてご紹介している、MAPLE BASEの井原愛子さんが、「メイプルエコツアー」を一般に向けて開催するということで、2月の秩父へ。

池袋からレッドアロー号に乗れば、1.5時間程で西武秩父駅に到着します。(時間さえ合えば、S-TRAINに乗ると、渋谷から東急東横線の主要駅を通り、元町中華街との間が一本。)

県内外から30名程の参加者の方と駅で集合。バスに乗って出発です。

車内では早速、NPO法人 秩父百年の森理事長の島崎武重郎さんによる、秩父の特徴や、樹液を採るカエデについての解説を聞きながら、山へ向かいます。

車内から見える景色。左手には尖った山々。

右手には、なだらかな山が見えます。このように異なる断層が合わさって崩れたガレ場は、水が豊富にあり、なおかつ水はけが良い場所となります。今回見学するカエデは、そんな川の水を好んではえる植物。(それぞれ品種によって、好む場所に特徴があるそう)

日本では28種類のカエデが分布しているとされ、世界的にみても品種の多さが特徴。そのなかでも秩父は、日本の真ん中に位置し、寒暖差が激しく、カエデが育ちやすい環境ということもあり、21もの種類が自生しています。

MAPLE BASEでは、その21種類が植えられている場所も。今回はイタヤカエデが樹液を出している場所を見学します。

早速ヘルメットをかぶり、いざ出発。

島崎さんの解説を聞きながら、傾斜を上っていきます。このエリアの木は全て品種などの分布を調べているそう。また、カエデからどのように樹液を採取するのが良いのか、穴のサイズから、高さ、深さなどを細かく研究。

樹液が採取されているカエデは、全てナンバリングで管理されています。
メープルは輸入がほとんど。国産のメープルはもちろん、それ自体の活用や、効果などもまだまだ開拓中。一つ一つ丁寧に、想像以上の調査と分析をデータ化していることを知りました。

タンクには樹液が貯まっています。穴から樹液が出ている木を見つけてもらい、カップに。

ポタポタと垂れる樹液を無駄にしないよう、次から次へと参加者がカップで受け取ります。

透き通る樹液をその場で飲んでみると、思っていたより甘ったるくない!スッキリ、ヒンヤリで、ほのかな甘みが後から感じる。これがメープルシロップになるのは驚きです。

しっかりと育った木に、直径15mm、深さは2cm程の穴が空いています。この穴は材木として製材する際には捨てられる位置。

樹液が取れるかどうかは、枝の広がりなどを見て確認するそう。1月上旬から穴を開け、3月初旬には終了します。20リットルのタンクは、平均すると3日間程でいっぱいになるそう。

3月上旬に採取をやめるのは「啓蟄(けいちつ)」の季節だから。「冬籠りの虫が這い出る」という春の季語。採取した樹液に虫が入ることを避け、この時期には採取を終わらせる。空けた穴から虫が入ると、木が虫によって喰われてしまうので、ホースを抜いた後にヒバを穴に入れる。その穴は408本、一つ一つまわっての作業。

ずっと関わり続けないといけない

島崎さんのお話の中で何度も出たのは「森に一度関わったなら、ずっと関わり続けないといけない」という言葉でした。

「同じ高さの木が並んでいる林ではなく、さまざまな種類の木が混ざっている森である必要もあります」 循環する森の環境を守り、次の世代につなぐには何十年という単位が必要です。

継続的な森との関係は、研究と必ずセットになるそう。そして、その研究を元にビジネスとしても成立させる。携わる人々が循環し続けるためにも、適正な価格で売れる工夫が必要です。

そんな森の価値づくりや、情報発信を担っているのが、井原さんが活動する「MAPLE BASE」。森から移動して施設を見学です。

採取された樹液をメープルシロップにする加工場と、実際にメープル料理が味わえるカフェがあります。

ツアーでのランチメニューは、メープルシロップをかけて食べるパンケーキ、樹液の入ったカボチャスープ、メープルシロップを使ったドレッシング等。新たなメニュー開発の話も出ていました。

そして、ツアーの中では「薬木」としての役割も勉強。枝の香りを嗅いだり、木皮が薬に使われていることを教わったり、、、

実際舐めてみると、、、苦い~~

ブラックライトを照らすと見える薬木の成分も。森の木々たちは木材の他にも様々な活用方法があることを実感。森も、木も、本当に面白い。

人工的に植えた区域は「林班」として、全てが管理されているそう。一方で、自生している林は「雑」と表記される。「雑木林」というこで扱いも雑になるが、本来はそこに、その土地の歴史とともに自然が育んできた「宝」がある。メープルシロップもその一つ。それらの活用方法は井原さんや島崎さんなど、皆さんの取り組みで広がっています。

森や木々のことに本当に詳しい皆様。何を聞いても答えてもらえる皆さんに会いたくて、何度もツアーに参加されているという方の気持ち、とっても分かります! 森を歩いていると湧き上がる疑問を何でも打ち返してくれる、知識も経験もキャラクターも最強のチーム。

樹液のお土産もいただいて帰路に。
帰り道に考えるのは「私たちは、どうやったら森と関わり続けられるのか」ということ。

日本酒のように仕込み時期が限られるメープルを四季の楽しみにする。そんな小さなつながりも、関わり続けることの一つになるように感じました。

冬になると、この煙突からモクモクと煙が立ち、澄んだ空気と一緒に甘い香りがするMAPLE BASEが「秩父らしい景色」のひとつになる。私たちもその活動を応援する意味と、役割をまた改めて考えるきっかけになりました。

井原さんの突き進んでいく姿は、周りを楽しく巻き込む源だと思います。継続的にd TOURで私たちらしい繋がり方を提案できればと思います。井原さん、ありがとうございました!

*このツアーは2019年2月に開催された様子です。2019年10月の台風19号の影響で、現在、TAP&SAPまでの道路が寸断されて水が通らず、こちらの記事でご紹介した店舗もいつ再開できる状況かわからない状況です。d47をはじめ、D&DEPARTMENTの各店舗でTAP&SAPの販売を行います。