10月の研究テーマ「いりこ」

dたべる研究所、10月のテーマは「いりこ」です。出汁をとっても、そのまま食べても、捨てるところがなく、何よりおいしい。わたしたちにいりこのおいしさを教えてくれたのは、香川県観音寺市のやまくにさんでした。

やまくにさんとの出会い

いちばん最初のきっかけは、渋谷ヒカリエにある?d47 museumで、47都道府県の「食」のギフトセットを紹介する展示。店先で販売をしていた山下公一さんに、d47食堂で料理長を務めていた加藤めぐみ(現dたべる研究所 料理長)が話しかけると、いりこの良さや産地の現状、やまくにの仕事についてお話くださいました。実際にやまくにさんのいりこを使ってみると、まろやかで雑味のない品のよい出汁が取れる。加藤は、そのおいしさに感動し、出汁のうまみをそのまま味わえる「いりこうどん」を作りました。


香川定食(写真:山崎悠次)

※ 写真は、渋谷ヒカリエのd47食堂で現在提供している「香川定食」。中央にあるのが、やまくにさんのいりこで出汁をとったいりこうどん。

やまくにさんのいりこへの愛や熱意に心動かされ、その後、D&DEPARTMENTのほぼ全店舗で製品の取り扱いが始まりました。各店でワークショップを行って頂いたり、スタッフが工房やご自宅にも伺わせて頂いたり、それぞれに親交を深めていきました。

やまくにさんのいりこがおいしい理由

製造現場を訪れたスタッフは「おいしい理由がわかった」と口を揃えます。やまくにさんのある観音寺は西讃と呼ばれる香川県の西端にあります。瀬戸内海に面しており、遠浅で海流が緩やかなため、骨や身の柔らかい片口いわしが育ち、上質ないりこの産地として知られています。今年6月『d design travel KAGAWA』の取材で、いりこ漁に同行させてもらったスタッフは、その静かな海面を前に、まろやかな出汁の味わいにつながる何かを感じたといいます。

観音寺市から船で10分ほど、伊吹島の沖合を目指します。片口いわしは不飽和脂肪酸を多く含むため、製造から流通、保存に至るすべての工程が適切に行われないと脂肪の酸化が急速に進み、品質が低下します。生臭みが出やすいので、水揚げしてから茹でて乾燥するまでの時間が勝負です。

いりこの産地として歴史がある観音寺では、浜沿いに網元の加工場が並び、漁場と加工場が近いため、鮮度を維持したまま加工ができます。漁師さんたちは、鮮度を落とさないよう、いりこを獲ってから港へ戻るまで猛スピードで船を走らせます。

口の開いたいりこは、生きたまま茹でられた証拠です。やまくにさんのいりこが、いかに新鮮なのかわかります。酸化防止剤として、BHAやビタミンEを添加する生産者さんも多いですが、こうした好条件と漁師さんたちとの連携により、添加物を使わない、安心で美味しいいりこを提供できるのです。

ひとつひとつ、手作業で。

そして、ここからがやまくにさんの真骨頂。漁獲された状況やいりこ自体の状態によって、質には当然ばらつきが出ます。乾燥させたいりこをひとつひとつ手作業で選別して、別々の製品にしています。

下から3番目にあるのが、最上級とされる「銀付きいりこ」です。脂が少なく身が締まっており形もしっかりして、うろこがきれいな銀色に輝いています。頭からそのまま食べても非常に柔らかく、出汁をとると旨味が豊かでも品が良い。雑味やえぐみ、生臭さを感じさせません。

ミズクラゲの群れに入り込んだ片口いわしの群れを、一網ですくい取れたときに、クラゲがクッションとなり、網ずれのない非常にキレイな状態の「銀付いりこ」になります。漁期は7月のわずか2週間だけ。漁獲量も全体の0.5%程度と、大変希少ないりこです。

生で食べるとおいしい脂の乗ったいりこは、その旨味を活かして別の製品にしています。頭と内臓、汚れを手作業で取り除き、じっくりと焙煎した「パリパリ焙煎いりこ」は、おやつとして食べてもおいしいですが、出汁を引かずにそのまま煮物に入れるだけで、しっかりとした旨味を出してくれます。命がけで海に出る漁師の想いやいりこ本来のおいしさを知っているからこそ、無駄にせず活かし切る。そうした姿勢が、ひとつひとつの製品に反映されています。

かあちゃん教わった、いりこの楽しみ方

これまで何人ものスタッフが香川県を訪れましたが、そのたびに山下さんのご自宅にお招き頂いて、いりこのかあちゃんこと万紀子さんに、たくさんのいりこ料理を振舞ってもらいました。「まんばのけんちゃん」など、地域で作り継がれて郷土料理の作り方も、丁寧に教えてもらいました。dたべる研究所でお出ししているのは、かあちゃんに教わった料理が多くあります。

料理教室「やまくにさんに習ういりこ」を開催

先日、店主であり娘の山下加奈代さんを講師にお迎えして、料理教室を開催しました。いりこの状態によって味に違いのある出汁を飲み比べながら、良質ないりこの見分け方や基本的ないりこ出汁の取り方をご紹介。ご自宅で試してもらえるよう、実際に手を動かしていりこを学びます。?当日はご家族総出でお越し頂いて、かあちゃんと一緒に料理をしました。

この日ご紹介した「いりこごはん」は、、パリパリ焙煎いりこを砕いてお米と一緒に炊いたもの。そのまま食べてもよいですし、オムライスにしてもおいしいです。ほかにも、生姜たっぷりで甘酸っぱく炒り付けた「佃煮」や、いりこ出汁を使った洋風と中華風スープの作り方など、和食だけではないいりこ料理をお伝えしました。イタリアン出身の料理人である高田みおはパンにもよく合うといいます。

dたべる研究所の原点としての「いりこ」

やまくにさんに教わったのは、いりこのおいしさだけではありません。おいしいものにはきちんとした理由がある。そして、大切にしたい食文化を繋いでいくために、その土地のことを知り、その土地の暮らしのなかで育まれた食べ方を学び、その知恵を伝えていく場を作る必要がある。やまくにさんに習いながら、dたべる研究所も活動を続けていきたいと思っていますす。いりこづくしのランチは、10月31日(木)まで。この機会にぜひ、やまくにさんのいりこの素敵さに出会いにきてください。

【 店舗情報 】

営業時間 11:30~19:00
定休日 水曜日
電話 03-5752-0120
アクセス 東京都世田谷区奥沢8-3-2 D&DEPARTMENT内 1階

[ ランチ ] 11:30~15:00
平日 2,000円
土日祝 2,500円
※コーヒーまたは紅茶付き

[ カフェ ]15:00~19:00(L.O.フード 18:00/ドリンク 18:30)