鉄砲とともに伝わった種子鋏〈後編〉

現在開催中のNIPPON VISION MARKET「鹿児島 種子島の鋏と庖丁」の企画へ向け、1泊2日で種子島へ行ってきました。1日目と2日目を前編、後編に分けてお届けいたします。

〈後編/2日目〉種子島に残るもうひとつの製作所「池浪刃物製作所」。前編でご紹介した梅木本種子鋏製作所の梅木さんは古くから伝わる技法を受け継ぎ、1本1本手打ちでつくることにこだわりました。池浪刃物製作所の池浪さんは伝統の種子鋏を守り続ける為に新しい製法技術を取り入れ、工程を効率化することで量産を可能にしました。鋏づくりは火の元で作業を行う上、時間と体力の消耗は生産量にとても見合ったものではありません。その為に価格が高騰化してしまう問題がありましたが、池浪刃物製作所は革新的な方法によって希少になりつつある種子鋏を全国に広め、その販路を築きました。「あくまで家庭用のものだから」と価格を上げることをせず、使い手にも寄り添った姿勢を崩しません。


種子島に住んでいる人々にとって種子鋏はどんな存在なのか。1日目に訪ねた鉄砲館の方に西之表市役所の経済観光課を紹介いただき、お話を伺いました。「種子島の住民からすると種子鋏はどこの家庭にでも1本は必ず置いてあるような当たり前のもの。昔から刃物は縁起ものとされ、人々の暮らしの中で重宝されてきた。切れ味の良さや、使うほどに刃が研がれ、味わいを増していく様子から“幾多の困難をも切り拓く”という謂れがある。」当たり前な存在だけど、どこか特別で、大切に扱っていきたいという思いだそうです。実際、種子島では子どもの入学祝いや結婚祝い、節目の記念品などの贈り物として選ばれる事も多いそうです。市役所の正面入り口すぐのショーケースにも展示されていました。


視察中のお昼はカフェ「CONNECT(コネクト)」を利用。今年5月にオープンしたばかりで、種子島の特産や魅力を発信していく場として、種子鋏と庖丁の展示も常設しています。島の情報誌を発行し、展開しているので、現地に行ってからでもこちらで種子島リサーチできそうです。


今回の訪問で感じた種子鋏の魅力は予想以上のもので、もっと多くの人に知ってもらいたいというのが率直な感想です。しかし実際のところ、気になることもあり、、後継者の問題です。鉄砲館の学芸員さんも、市役所の経済観光課の方もこれからの課題だと話されていました。伝統の技術を伝え、受け継いでいくには現実的な課題がまだまだ残るようです。わたしたちに出来ることは限られていますが、今現在もひとつひとつ手打ちでつくられる種子鋏の魅力や、全国へ伝えていきたいという製作所の思いをご紹介できたらと思います。「長く続いてきたものを絶やさない」ということは簡単なことではありませんが、種子島の人々があたりまえに家庭で使っていた鋏や庖丁の良さに目を向けてみていただけると嬉しいです。

◎8月29日(木)から9月24日(火)までの27日間、鹿児島店にてNIPPON VISION MARKET 「鹿児島 種子島の鋏と庖丁」を開催しております。日常の道具として永く大切に付き合っていきたい鋏と庖丁です。実際に手に取って頂けますので、ぜひ手に馴染むものを見つけてください。