SyuRo「角缶」工場見学レポート

2019年に開催したもののまわりギャラリー「SyuRo角缶のもののまわり」の取材で、埼玉県八潮市にある「中村製缶所」の工場見学に行って来ました。

角缶を製造しているのは、東京都台東区にあるSyuRo。代表の宇南山加子(うなやま・ますこ)さんは、職人の技術を生かした日用品をデザインし、数々のオリジナル商品を企画しています。D&DEPARTMENTでは、海苔缶をベースにした「角缶」と、茶筒をベースにした「丸缶」を定番商品として販売しています。

どちらもブリキの素地を生かした凛とした佇まいで、一見同じ人が作っているのかなと思ってしまいますが、実は必要な技術や製造方法が異なり、それぞれの職人さんが手がけているもの。インテリアとしても素敵な収納道具が欲しいと、SyuRoが企画をしたものです。

角缶を作っているのは、SyuRo角缶職人の石川浩之(いしかわ・ひろゆき)さん。2008年に、先代の缶職人・中村敏樹(なかむら・としき)さんと制作していたのですが、高齢のため体調を崩されて工場に立てなくなり、2016年に一時生産中止に。それからSyuRoは角缶職人の募集をし、2017年には石川さんが缶職人としてSyuRoに入社し、復活を遂げました。

会期中に開催した「もののまわりトーク-下町のものづくりの産業を知る-」では、実際に継いだ時のことを詳しくお話頂きましたが、こちらのブログでは実際に中村さんと石川さんがどのような作業をしているのかをご紹介します。(イベントレポートはこちら

 

【角缶製造工程】

 1.裁断する

まずは1枚の大きな板状のブリキを、裁断機で裁断していきます。角缶の身は3枚、蓋は1枚のブリキで構成されているので、制作する缶のパーツの寸法により切断幅をセッティングし、テンポよく足で踏み込みます。

工場内にある定規は寸表記のもののみで、先代の中村さんが残したメモも、全て寸表記でした。中村さんと直接お会いすることがないままの後継だったので、まずは工場に残された道具やメモをひたすら研究。寸表記であると気がつくのにも時間がかかったそうです!

例えば100個の角缶(大)を作るというスケジュールの場合、各工程は100個分に必要な数を一気に行います。100回連続で同じ動きを繰り返す中で、「自分の身体も機械のように同じ動きを保ち続けるのが重要」。最初のうちはブリキの裁断面で手が血だらけになったそうで、手を切らないように慣れるまでに時間がかかったそうです。

 

 2.折る

バッタン、バッタン、と鳴る音が由来の『バッタ』という機械で、SyuRo缶の特徴ともいえる折り加工で箱の形状にしていきます。鋭利なフチが手に当たってしまわないように、辺を2回折り込みます。

 

 

 3.刻印する

缶の底に「SyuRo」のロゴを、一つ一つ『けとばし』という機械で刻印していきます。今回の展示では、この『けとばし』をお借りして展示しています!

『けとばし』は、足でペダルを踏み込むことで圧を加える機械。機械と聞くと電動のものをイメージしますが、あくまでも人間の力を拡張するための道具なんだなと改めて原点に気付かされました。角缶づくりは、いくつもの精密なプレス作業で成り立ち、そのあらゆる作業は足を使って行われます。 『けとばし』は工場内に20台近くあり、簡単な原理の応用でここまでのことが出来るのかと驚くばかりです。まさに先人の知恵、ですね。1つの工程を、片足で立ち続ける場面もしばしば…。スタッフも工程を体験させて頂きましたが、ふらふらして連続で機械を動かすのがとても大変でした!

 

 4.曲げる

丸みを帯びた角を作るための型がセッティングされた手動の機械で、箱の形に両辺を持ち上げます。木製の型は、先代の中村さんのお手製。曲げたい角度で機械の動作が止まるようにストッパーが設置してあったりと、規格ごと、工程ごとに1mm単位での細かいセッティングが行われていることが分かります。身体を自由自在に動かすのはもちろん、型を作るという地道な仕事がとても重要なんですね。

 

 5.組む

熱を加えて溶接したり接着剤を使用せずに缶を作る技術の真骨頂は、複雑な設計図にあるようでした。角を無駄なく折り込みながら、絶対に外れないように組み込む「ハゼ組み」をするために、裁断機のような機能を持たせた『けとばし』で無駄な部分を切り落とし、また別の『けとばし』でハゼ折りをする。V字型の溝を作るイメージです。

ハゼ折り部分をカチッと組み、またしても『けとばし』でプレス。底面にホッチキスのような跡が出来て、これで確実に外れないようなります。

続いて同じ工程でフタを作っていくのですが、フタは1枚のパーツで作られていました。身とフタが完成したところで、合わせたときに気持ちよく開け閉めが出来るかチェック。どこかの工程で、力の入り方や角度が微妙にずれたりすることで、缶の使い心地に大きな差が出てくるそう。2年たった今でも、少しの力の入れ具合の違いで納得がいかない出来になることもあるそうで、確かにスタッフの作った角缶たちはどこかぎこちない開け閉めでした(笑)。

 

D&DEPARTMENTで長らく販売してきた「角缶」ですが、改めて工場見学に行ってみての感想は、正直「まだまだ角缶の魅力を知りきれてなかった!」というものでした。実際に工場の雰囲気や作っている方の日常に触れ、早く店頭でこの魅力を伝えたいなと楽しみな気持ちで工場を後にしました。

 

よく見ると一つ一つ違う、角缶たち。石川さんにとってこの缶は何点の出来なんだろうとか、工場は暑かったかな、寒かったかななど思いながら、今後もついつい手が伸びてしまいそうです。

 

文具を入れたり、趣味の道具を入れたり、大切なものをしまっておいたり。サイズを選んで、幅広い収納が出来ます。SyuRoの宇南山さんは、名刺のストックや釣り道具を入れているとのこと!ギフトの“箱”として、中にお菓子を入れて贈ってみたりしても喜んでもらえそうですね。

また、手で触れれば触れるほど油が馴染んでいくので、「使う」ことがお手入れそのものになります。日々何気なく使う道具としての「角缶」を、ぜひお手にとってみてください。