先日、dたべる研究所で「大豆から豆腐をつくる」勉強会を行いました。
講師は、d47食堂で長らくお世話になっている、香川県の久保隆則さん。国産大豆など厳選した素材を使って、おいしく安心な豆腐をつくり続けていらっしゃいます。「味は人なり」といいますが、このひとのつくったお豆腐なら毎日たべたいと思わせてくれる、温かくてまっすぐなお人柄です。
今回は、豆腐の基本ともいわれる、おぼろ豆腐のつくり方を教わりました。基本的な材料は、大豆とにがりのみ。ひと晩、水に浸しておいた大豆を使います。
水から引き上げる目安は、ぷっくりと膨らんだ大豆を指でつぶしてみて、少し芯が残っているくらい。久保さんから「水の温度と浸水時間を、足して30にするといいんです」と教わり、今回は15℃の水で15時間浸しておいた大豆を使いました。
これをすりつぶします。
昔は石臼で挽く家庭が多く、大豆に余計な熱を加えないことがおいしくつくるコツだそうですが、フードプロセッサーを使っても、すり鉢で奮闘してもよいそうです。
すりつぶした大豆を「呉」といい、それを味噌汁に溶かした「呉汁」は、収穫した大豆が出回る晩秋の頃から冬にかけて、全国各地でたべられてきた郷土料理です。
あまり粉々にしすぎないほうがよいそうです。少しつぶが残るくらいで止めました。
すりつぶした大豆を鍋に移し、火にかけます。鍋底にくっつかないよう、木べらなどで混ぜていくのですが、思っていたよりも、もったりと重いのですね。久保さんの工房では、大きな釜を使っていますが、これも手作業でかき混ぜるそうです。
久保さんが最も大切にしていらっしゃるのが、素材です。大豆は、数十年前から長野県と富山県の篤農家さんがつくっていらっしゃる、ナカセンナリという品種にこだわり、使い続けておられます。
現在日本で流通する大豆のうち、75%は輸入品ですが、残留農薬やポストハーベストの影響を不安視した久保さんは、はやくから国産大豆に切り替えました。にがりは、1982年の創業以来、天日塩をつくり続けていらっしゃる、土佐あまみ屋の天然にがりを使われています。
もうひとつだけ、久保さんの豆腐づくりに欠かせないものがあります。それは、米ぬかです。
豆乳は一定の温度に達すると、大豆に含まれるサポニンという成分により泡が立ちます。泡が立つとうまく煮えないうえ、絞り出せる豆乳の量が減ってしまい、気泡だらけの豆腐は食感が悪く、日持ちしないなど、気泡との戦いは、豆腐屋さんにとって死活問題でした。そこで、多くのつくり手が消泡剤を頼るようになります。
久保さんは、たべものにはたべられるものだけ使いたいと、古い文献にもあたりながら、ほかの手を探しました。椿の葉、廃油、ラード、石灰など、その土地の条件によって、各地でさまざまな消泡剤が使われてきたことを知ります。なかでもしっくり来たのが、米ぬかだったそうです。
そんなお話を伺っていると、鍋の豆乳が温まり、泡が立って来ました。パラパラと米ぬかを入れると、お米のあまい香りがふんわりと広がります。
何度か繰り返すうちに、泡は収まりました。これを温かいうちにさらしで漉します。
あまり温度が低くならないうちに作業を終えないといけません。再び弱火にかけ、65~75℃くらいの温度を保っていることを確認します。
タイミングを逃さないよう、にがりを少しずつ入れていきます。
ドキドキしながらその変化を見つめていると、久保さんが「じゃあ、この辺で」と蓋を閉じました。これでお豆腐になるの?と、あまりにシンプルな行程に不安を覚えながら、待つこと5分ほど。
「にがりがちょっと薄かったかなー、うまく固まらなかった」と、少し照れたように手渡してくださったおぼろ豆腐は、絶品でした。
できたてを頂く機会などめったにないので、いままでたべてきたお豆腐とは別物に感じました。いつでもどこでも手に入る身近な存在ですが、大豆からつくる行程を初めて見て、こんなにシンプルにつくれることすら知りませんでした。
さらに、おからのおいしさには、度肝を抜かれました。
さらしの中に残ったおからは、絞り切れなかった豆乳を含んでいるので、しっとりとして、濃厚な大豆の味がします。食材を無駄にしてはいけないと、頭では理解していたのですが、正直なところ、おからを好きになれずにいたのです。これは、なんとかしてたべたい!と自然に思える、おから体験でした。
副産物ではありますが、主役級においしかった。久保さんのお宅では、これをサラダやコロッケにしているそうです。
実際に豆腐をつくってみると、豆腐になるのと同じ量のおからが残ることがわかります。かつて、貴重なたんぱく源だった大豆をたっぷり使う豆腐は、特別な日のご馳走だったそうですが、その理由が腑に落ちました。そんなことを気づかせてくれるのも、こうした勉強会ならでは、かもしれません。
それから、豆乳から豆腐をつくる方法も教わりました。
にがりをティースプーン1杯加えて混ぜるだけ。今回は蒸し器を使いましたが、ご家庭にない場合は、フライパンでも、電子レンジでも大丈夫です。10分ほど熱を入れて様子を見ました。
大豆のうまみたっぷりのお豆腐ができあがりました。これもまた、おいしかった。
大豆からつくるのはハードルが高いかなと思う方も、豆乳とにがりを用意して混ぜるだけでよいので、こちらはすぐにでも試せそうです。
香川にお帰りになる飛行機の時間ぎりぎりまで、多くを教えてくれました。
dたべる研究所では、9月に「豆腐」をテーマに全国の郷土料理を研究していきます。同月、改めて久保さんをお招きして「大豆から豆腐をつくる」料理教室を開催します。どなたでもご参加頂けますので、ぜひご検討ください。
▼ 料理教室「大豆から豆腐をつくる」
日程:2019/9/13(金)
時間:11:30~14:00
場所:dたべる研究所(D&DEPARTMENT TOKYO内 1階)
参加費:¥ 5,000(税込)※ スペシャルおひるごはん、おうちでつくれる豆腐キット付。
定員:12名
詳細はこちら。ご参加の申込みも受付けています。
https://media.d-department.com/?dd_event=dd_event_11505
▼ 久保食品
住所:香川県綾歌郡宇多津町浜三番丁25-19
TEL:0120-76-1028
FAX:0877-49-6336
http://www.kubosannotofu.co.jp/index.html
http://yoisyoku.org/member/2012/02/000119.html