第14回 良い食品博覧会にてd47食堂内で開催された「食の語り部」講座のレポートです。 第1回目は長野県で納豆をつくる村田商店の村田滋さんに、「美味しい納豆づくりを支える、素材と発酵の力」をテーマにお話しいただきました。
こちらが村田商店 村田さん。自らを「納豆屋の旦那」と呼び、とても楽しそうに納豆のことを語ってくれました。
そもそも納豆はどのようにつくられるのかというと、
水に一晩浸けて煮る。そして納豆菌をかけ、室で温める。と、伝統食品である糸引き納豆は昔から作り方、作るのに要する時間はほとんど変わっていません。
では大量生産するメーカーと、村田商店のように目の届く範囲で作られているところと何が違ってくるのかというと、パッケージだったり、細かな点を手作業するか機械にまかせるか、というところ。
まず、なんとなく知ってはいたものの、改めて驚いたのは、納豆菌の強さ。自然界のどの菌より強いという納豆菌を蒸したてのほかほかの豆にすぐさま撒いていきます。どの菌よりも早く納豆菌がつけば、他の菌に負けることなく納豆菌が活躍します。日々納豆のそばにいる村田さんは「たたけば納豆菌がでるほど!」というほど納豆菌が身についているよう。酒蔵の麹室に入るのはご自身で遠慮されるほどだとか。これらの蒸す、撒くなどの工程も細やかに人の手が入っていきます。
そして村田商店の納豆の特長はパッケージに「経木」を使うこと。もちろん機械で包むことはなく、ひとつひとつ丁寧に手作業で包んでいきます。
経木は木材を紙のように薄く削ったもので、長く食品を包むのに使われてきたパッケージの元祖とも言えるもの。村田商店では長野県産の赤松を使用しています。
創業した当時は経木が当たり前に使われていましたが、時代が移り変わりと共に、発泡スチロール容器の導入もしました。しかし、経木はただの包装ではなく、発酵容器でもあります。納豆製造の過程で大事な発酵が行われる場所、その容器こそ、大量生産ではない、手作業ができる村田商店では経木を使うべきではないか、と3代目村田さんの時に経木を使用することを再開しました。
村田さん曰く、発砲スチロール容器より、経木のほうがなんとなく「香り」が良いそう。納豆が育つ場所と思うと、たしかに発泡スチロールより経木のほうが大豆の居心地が良さそうな気がしてきます。
さらに納豆の原料は「大豆・納豆菌」ととてもシンプル。だからこそ、大豆にこだわるべきと考える村田さん。村田商店の納豆は長野県産を使用しています(大豆の花は紫色!)。菌は国内で3社ある菌問屋から購入しているものを使用。菌自体に、大手メーカーとの違いはないので、なにより「菌が活躍する場所を整えてあげること」を大事にし、村田商店の独自の納豆を作り上げていきます。
最後は納豆の食べ比べ。
まずは産地違い。長野県産上田地方の大豆とカナダ産の納豆用小粒大豆。産地、品種、鮮度によって違うことを感じてほしいということで一口。
さらに発酵3日目と10日目の納豆。粘り・豆の艶・糸の引き・匂いの違いの違いを味わいます。3日目のものは少し味気ないような。その理由は、納豆菌が煮豆の糖分を食べて「旨味」に変化する過程だからだそう。10日目のものを食べると、味にまとまりを感じ、煮豆とは違う味深さを感じました。
きちんと豆の味が広がり、タレだけの味じゃない、水っぽくない大豆本来の美味しさを感じれる村田商店の納豆。普段からよく口にするからこそ、違いがしっかりと伝わる味、そしてテンポ良く軽妙に納豆を語る村田さんの話に引き込まれ、あっという間の一時間でした。最後に美味しくいただくコツを教えてもらいました。
「お醤油はまぜながら少しずつかけるといいですよ!そうすると、お醤油をかけ過ぎることなく、空気を孕んで美味しくなります。」
満面の笑みで答えてくれる村田さん、本当に納豆が食べたくなりました!
原料にこだわりを持ち、原料がきちんと働ける場所を整える使命を請け負う納豆屋「村田商店」。シンプルだからこそ、ひとつひとつが際立ちますが、豆・パッケージ・大豆畑、なにを聞いてもきちんと選んだ理由があり、しっかり答えてくれる村田さん。そのことに安心を覚え、村田さんのつくるものは確かな食品なんだ、と感じる会でした。