400年以上の長い歴史をもつ「薩摩焼」。焼き物づくりの文化がなかった薩摩の地に、朝鮮の先端技術がもたらされ、長い年月、伝統と技術を守り独自の発展を遂げてきました。
薩摩焼は、「白薩摩」「黒薩摩」の2種類があり、これこそが他の焼物にはない特徴です。
表面に「貫入」とよばれる美しく繊細なヒビが入ったやわらかい白地の器肌に、透かし彫り・浮き彫りなどの緻密な細工や金彩・色絵で細かく華やかな模様を施す、献上品としての器である「白薩摩」。
鉄分を多く含む鹿児島の火山地帯ならではの黒褐色の土や釉薬を用いた、酒器や湯呑み・茶碗など民衆の日用雑器として親しまれてきた「黒薩摩」。
朝鮮の陶工たちは鹿児島の各地で窯を築き、立地条件や特長を生かして、用途に合わせた様々な表情の器を製作しました。それぞれに対照的な魅力があり、職人の技術の高さや上質な手仕事ゆえの美しさを感じることができます。
白薩摩|沈壽官窯
白薩摩の代名詞でもある沈壽官窯。白薩摩に用いられる白土は、鹿児島ではわずかな場所でしか採ることのできない大変貴重なもので、装飾品や置物として高く評価され、その昔は藩主のみが使うことを許された焼き物です。精巧かつ正確な透かし彫りや浮き彫り・優美な絵付けの全てを、当時から変わらず職人の手でつくり続けています。
黒薩摩|龍門司焼企業組合
深みのある黒と青が美しい「黒釉青流し」、鮮やかな色の「三彩釉」、見た目や触り心地の珍しい「鮫肌釉」や「蛇蝎(だかつ)釉」など「黒」の技術をさらに発展させ黒薩摩の伝統を守り続ける龍門司焼企業組合。個性豊かな釉薬が数多く存在するのは、粘土・釉薬の原料となる土・石・シラス・泥・籾殻などの全てを、陶工自ら窯から約3km以内にある周辺の山野から採取し調合することで、唯一無二の器をつくりだしているからです。特に黒薩摩は、地元の素材のみでつくりだした“薩摩”の焼き物だといえます。
白薩摩・黒薩摩とも、誕生から400年経った現在でも、焼成方法は伝統的な登り窯。火山灰の降灰に気を遣りつつ、自然の火の力を借りて焼き上げるのは容易いことではなく、窯焚きに使用する木の材質や作陶工程など、各窯が工夫を凝らし、それぞれに違いがみられます。
鹿児島店で2回目となる本企画展では、長い歴史を経てもなお、火に挑み続け、技術を守り受け継ぐ沈壽官窯と龍門司焼企業組合の2つの窯それぞれの美しさや力強さを、たくさんの作品や道具・写真などの展示から深く掘り下げます。
加えて、長い歴史の中で培われてきた白薩摩の技術を生かした新しいシリーズも展示いたします。
一つ目は、白薩摩の手仕事の温かみを感じられる「ふだん使いの“薩摩の白もん”」。
二つ目は、韓国の陶芸家キム・ヘジョン氏がデザインした、白薩摩の清らかな輝きをもちながら現代の暮らしに合う「CHIN JUKAN POTTERY」。
薩摩焼の文化・歴史を未来につなげるため、伝統を守りながら、さらなる広がりを見せるものづくりを、実際に見て、触れて、感じる機会になれば幸いです。