温泉街で生まれ、師匠から弟子へ
代々受け継がれてきた独特な魅力をもつ中丿沢こけし
こけしは東北地方で生まれた木の人形。実はいろいろな顔つき、特徴のあるこけしは、地方ごとに12の系統に分類され、師匠から弟子へと代々受け継がれてきています。なかでも、中ノ沢こけしは、長い間「土湯系こけし」に含まれていましたが、「たこ坊主型」を代表する独特な表情や模様から「中ノ沢系こけし」として独立し、ひとつの系統となりました。
中ノ沢こけしは、猪苗代町の中ノ沢温泉周辺でお土産物として生まれました。 130年ほど前に温泉や鉄道がひかれたことで、たくさんの観光客が中ノ沢を訪れることとなりました。そこで、観光客へのお土産をつくるために、もともと食器などをつくる木地師がいた地域であったために、木の人形であるこけしが誕生。遠刈田(宮城県)出身の職人からこけしづくりの技術が伝えられ、今に至ります。
中ノ沢こけしの最大の特徴は、独特な表情。最初は、少し怖さも感じられるかもしれませんが、その独特さに魅了され惹きつけられます。描彩には赤、緑、紫、黄、墨で描かれますが、目のまわりはうっすら赤く、ギョロッと大きな目、ちょろんとした髪の毛や、青い模様の頭をもつこけしも。胴体にはろくろ模様や華やかな花などが鮮やかな色使いで描かれています。その独創的なこけしになったきっかけが、岩本善吉という人物。46歳の頃に栃木県から中ノ沢に流れつき、木地師であった善吉はその土地と人々を気に入りこけしをつくり続けました。善吉は芸人でもあり陽気で明るい人物、その性格や感性から生まれた特徴が今でも根付いています。
今回は展示に合わせて、現在の中ノ沢こけし工人(9名)のご紹介と、こけしの販売会を行います。中ノ沢の地域について、その地で生まれた背景、こけしの作られ方や、描かれ方などを見ていただき、また、各工人のこけしの違いもあわせて楽しんでいただければと思います。使用する道具でさえ工人自ら鍛冶場で作られています。その工房の様子は圧巻です。ぜひその様子を少しでも感じていただければと思います。