スタッフの商品日記 113 トリプル オゥ・ネックレス・スフィアプラス 60

立体刺繍という独自の技術を用いたアクセサリー

 
特徴
刺繍で糸を重ねていくことで球体を作る、立体刺繍という独自の技術を用いて製作する「トリプル・オゥ」のアクセサリー。スフィアプラス 60は、お手入れが簡単な植物由来のキュプラの糸を使ったネックレス。キュプラを重ねて作った糸玉と糸玉の間に、ゴールドやシルバーのラメ糸を挟むことで、糸玉がくっきりと浮かび上がり華やかな印象に。フックを糸玉の間の好きな位置に留めることで装着時の長さを調整でき、見た目の印象を変えて楽しむことも。本体は糸でできているため、アクセサリーが苦手な方や、金属アレルギーの方でも気軽に着用できるアイテム。

 

誕生
1877年、群馬県桐生市に創業した株式会社笠盛。和服から洋服、装飾品に至るまで、さまざまなブランドの刺繍を手掛け、明治時代から140年以上に渡り、桐生の織物産業を支えてきた。

創業当初は機屋から始まり、時代の流れとともに刺繍業へ生業を変えていった。最初は、靴下のワンポイントを刺繍するところから始まる。そこから、和服の刺繍なども手掛けるようになり、徐々に世界的なファッションブランドからの依頼を受けるほどにまで技術を高めていく。現在も世界中のファッションブランドを始め、和装や歴史的な装飾品の補修など、さまざまな刺繍を任されている。そんな笠盛が「立体の刺繍でアクセサリーを作ろう」と思いつく。「立体の刺繍」というそれまでなかった技術をゼロから作り出さなければならず、長年の職人たちからは口々に「難しい」と言われていた。しかし、「できない、だけど作りたい」「技術革新を諦めたくない」という想いを強く持ち、刺繍方法の試作を幾度も繰り返し、糸を重ねて球体を表現する「立体刺繍」という新たな刺繍の表現技法を実現させた。そして2010年にアクセサリーブランド「TRIPLE O」が誕生し、ネックレスやピアスをはじめ、魅力的なアクセサリーを生み出している。

 

つづく産業
群馬県桐生市は、「西の西陣、東の桐生」とも謳われる、歴史ある織物産地。渡良瀬川と桐生川という2つの川に囲まれ水路が発達したことで、機屋や染物屋などの織物業が栄え、「桐生織」を始めとした多くの製品を生み出し、織物とともに発展してきた。
春や秋には霧に囲まれることも多く、「霧が生まれる」から「桐生(きりゅう)」と名付けられたという説も。ほどよい湿気は、糸切れを防ぎ、織物産地としての桐生を支えてきたひとつでもある。織物が町の産業となってから、およそ1300年。撚糸、刺繍、機織り、さまざまな職人が分業制で織物の歴史を紡いでいる。

 

製造
アイディアが出ると、スケッチでデザインしたものを紙や生地でシミュレーションし、紙の上で生まれた発想を、パソコンでミシンの動きをプログラムしていく。カーブする部分は針をどう動かすか、切れやすい素材をどのように扱うか、アクセサリーとしての強度を持たせる刺繍の仕方はあるかなど、様々なことをミシンや素材の特徴に合わせて、少しずつ調整していく。また、一度仕様が決まり、生産がスタートしたアイテムであっても、常にプログラムを見直しながら改良している。試作の末、デザインや素材選びに戻ることも。何度も試作しながら、それぞれの素材やデザインに一番合ったプログラムを作り上げるほど、プログラム作成は実際に刺繍をし始める前の大切な工程だと捉えている。

プログラムを完成すると、アクセサリーを刺繍するミシン工程へ。「多頭機」と呼ばれる1台に10の刺繍機がついた大きなミシンは、ひとつのプログラムで同時に10個同じものが刺繍できる。また、「立体刺繍」のアクセサリーは、「水溶性の不織布」という水に溶ける特殊な布に刺繍する。刺繍し終えたものをお湯で溶かすことにより、最終的に刺繍の奥まで糸のみの立体アクセサリーができあがる。土台となる布が溶けてもほどけずに形を留めておけるかまでを考慮して、プログラムを作っている。

水溶性の布は、水に溶けるくらいとにかく水分に弱く、天気によっては空気中の湿気にまで影響される。雨の日や梅雨の時期などは、何度も貼り直さなければうまくいかない。ミシン担当は、この布を扱う難しさと日々向き合っている。布だけでなく、糸の素材や太さによってもその都度ミシンの調整が必要。

刺繍が完成すると、水溶性の不織布を溶かす「洗い」の工程へ。溶けた不織布の糊っぽさが残らないように、ひとつひとつ素手で確認しながら手洗いする。これまでの経験から培ってきた「レシピ」と呼ばれる社外秘のルールに基づいて、商品によって洗い方を変えて、丁寧に仕上げていく。

洗い終えた後は、脱水と乾燥の工程へ。カビの原因にもなるのでしっかりと乾燥させる。天井からぶら下げて干すこともあるが、多くの場合は「バキューム」と呼ばれる、空いた穴から掃除機のように空気を吸ってくれるテーブルの上に置いて乾燥させる。

本来は布をアイロンがけする際にシワなくピタッとさせるためのものだが、そこにアクセサリーを置くことで通常よりも早く乾くことに気付き、今ではアクセサリーの乾燥に活躍しているとのこと。

最後は、仕上げ作業。検品も兼ねて、職人たちが手作業でひとつずつ丁寧に確認していく。通常の刺繍には裏表があり、縫い終わりの糸は裏に出すが、アクセサリーには裏がない。ミシンの刺繍では必ず残ってしまう5mm程度の縫い終わりを、手作業で縫い込むことで、どこで糸が終わっているかもわからない、どこから見ても美しいアクセサリーになる。また、何らかの要因で糸がはみ出していれば針で玉の中に入れ込み、形が崩れてしまっていたら整える。細かい作業だが、この最後の仕上げがトリプル・オゥのアクセサリーの繊細さにつながっている。

 

素材
どんな物であっても、最終的には素材しか残らない。だからこそ笠盛は、素材を選んだり、ゼロから作るところからこだわりを持っている。素材の風合いを感じてもらえるよう、デザインもできるだけシンプルに。糸という素材の表現力は計り知れなく、染め方次第でカラーバリエーションはいくらでも広がる。さらに、原材料の組み合わせや撚りの強さによって、表現だけでなくつけ心地まで変わってくる。こだわり続けることができるのは、織物産地、桐生だからこそ。地元の職人さんとともに、心から納得できる素材を作り出すことができる。笠盛がこだわる「素材」は、桐生という織物産地と、身につける人への想いの上に成り立つ最高の産物として生まれている。

 

お手入れについて
汗や汚れが気になる場合、手洗いが可能です。中性洗剤を溶かしたぬるま湯に浸け置きし、洗剤液から取り出して優しくなでながら洗剤をなじませます。水を入れ替えて何度かよくすすぎ、金具付近を入念に優しくタオルドライをしてください。糸球の中心まで乾くように陰干しをし、完全に乾いたらお手入れ完了。立体感が損なわれてしまうため、アイロンの使用は避けてください。直射日光や密閉容器での保管は避けてください。また、引っ掛けて糸が切れてしまった際などは、修理が可能です。

 

お気に入りのポイント
私は、ネックレスを身につけると、なんとなく肌がむず痒くなってしまい、デザインが気に入って購入したものの結局は外してしまうことが多く、苦手な存在だと感じていました。しかし、トリプル・オゥの糸でつくられたネックレスは、他の金属やビーズなどでつくられたものとは異なり、素材特有の冷たさや、軽いからか今まで感じていたむず痒さがなく、肌にやさしく触れているような着け心地なので、ストレスなく着用できます。このようなストレスのないアクセサリーに出会ったことがなく、初めて着用した際、驚きました。また、フックを糸玉の間の好きな位置に留めることができるため、その時の服装に合わせて短くしたり、長くしたりなど調整できることもお気に入りのポイントです。(商品部 / 富田朱音)

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