測量現場のニーズを捉え、60年間愛され続けるノート
誕生
1959年発売、コクヨの測量野帳。当時、コクヨ社内では、法人向けブランド『コクヨプロ』がスタートし、測量野帳はあくまで専門的な商品の1つとして、展開されたのだ。測量野帳発売のちょうど10年前にあたる1949年に、日本では測量法が制定された。そもそも測量士とは、建物や道路を建設する前に、土地を計測する職業である。土地の距離、高低差、角度を捉え、地形図を作成するため、ノートにも作図のしやすさが求められる。変化する時代を先読みし、当時のコクヨの社員たちは、測量業務に携わる方達にアプローチし、使い方・困りごとなどの二ーズを綿密に汲み取り、形にしていったことが想像できる。例えば、測量士が着ている作業着の胸ポケットの大きさにぴったりと収まるようなサイズ感で作られているのだ。60年以上経っても、仕様変更することなく愛され続けている測量野帳。それは、ひとえに現場に足を運び、現場の声に耳を傾け、観察する、コクヨの丁寧なものづくりへの姿勢がそこにはあったのだろう。測量野帳は、よく知られたコクヨの「Campusノート」よりも前から販売されつづけている。
つづく仲間
D&DEPARTMENTでよく目にするコクヨの製品と言えば、1960年代~1990年にかけて製造されていたコントラクト向けのUSEDの椅子や収納棚。まさに、測量野帳が発売された頃、紙製品メーカーとしてやってきたコクヨがスチール製品業界へ参入したのだ。第一弾は1960年に発売されたファイリングキャビネット。その後、スチールデスク、事務用回転椅子など、次々と発表していき、現在のオフィス家具事業につながっている。
▲KOKUYOロビーベンチ・ブルー(USED)▲KOKUYOラウンジチェア(USED)
そんな、日本中の誰もが耳にしたり、製品を使ったことがあるほど、手広い事業のコクヨだが、1905年(明治38年)、当時26才の黒田善太郎によって、大阪市西区南堀江に和式帳簿の表紙店として始まった。「表紙店」とは、当時一般的に使用されていた和式帳簿の表紙製造だけを問屋から請け負う仕事。製品の印象を左右する重要なパーツの表紙だが、価格は、帳簿全体のわずか5%。割の合わない商売だと言えた。
▲黒田表紙店初期の和帳
▲大正時代に発売された和帳
しかし創業者は、「人の役に立つことをしていれば、必ず受け入れられる」という信念をもって事業に打ち込み、「表紙は黒田の表紙でなければダメだ」と言われるに至って、徐々に表紙だけの製造の請け負いから帳簿と表紙の一貫生産へと、一歩ずつ事業を広げていった。現在では、「良品廉価」「買う身になって作りましょう」というモノづくりの精神をかかげている。
特徴
測量野帳には、コクヨのものづくり精神が反映された特徴がある。それは、発売から60年が経った現在まで、ほとんど仕様を変更していないこと。これにより、測量現場での使用だけでなく、通称「ヤチョラー」と呼ばれる、測量野帳の愛好家たちにとっても、仕様が変わらない安心感を提供しつづけている。また、心置きなくつかえる価格設定。厚く固い表紙に、適度なサイズ感、ゴールドの箔押しのある高級感など、手帳に似た雰囲気のある野帳だが、一度にたくさん製造することで、この価格を叶えており、コクヨの精神と企業努力が詰まった「良品廉価」を体現している。
製造
測量野帳は、過酷な現場でも耐えうるよう「糸かがり綴じ」で製本。これは、辞書や教科書など長く繰り返し使う書籍などで用いられる綴じ方で、本の背表紙を糸で縫って綴じ、接着剤で固めて製本する。また、厚表紙へは、布調クロスを巻くことで折れ・擦れ・などにも強い仕様になっている。
▲布織クロスはあらかじめ測量野帳のサイズにカット
▲水色のマーカーは検品時の目印
▲貼り合わせたものをプレスをかけて固定。その後再び検品へ
お気に入りのポイント
緑のざらっとした光沢のある質感に、金で箔押しされた活版文字で「SKETCH BOOK」。スマホ以上に薄いのに、厚みと硬さのある表紙はなんとも言えぬバランス感。表紙をひらけば、ホリゾンブルーの細やかで繊細な3mmの方眼紙。スマートで上品なのに、頼り甲斐もあるような、まさにすべてを兼ね揃えたノートだと思います。D&DEPARTMENTオリジナルでは、「d」マークがしるされています。ついつい集めたくなるような、収集癖も刺激するお茶目な一面も相まって、60年間愛され続けているのも納得です。(金藏未優/東京店ショップスタッフ)
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