デンマークを代表する家具デザイナーであるハンス J.ウェグナーが手がけた名作椅子「CH24」通称 Yチェア。
1949年にデザインが生まれ、翌年から生産が始まったロングライフデザインな椅子です。
この椅子についてはさまざまな表現でその姿の美しさ・機能の良さが語られ、言葉どおり世界中から愛されている椅子です。背面から見ると通称の元になったであろうY字にのびたパーツが特徴的。曲げ木の背もたれは肘掛の役割もあり、ちょっと肘をかけるのにちょうどいい。かといって肘部が前方まで伸びているわけでもないので、立ち座りの動線の邪魔にならない長さが絶妙です。座るたびに体型になじんでいく座面は編み目も美しく、ユニークでもあります。
D&DEPARTMENT が扱う家具の中で大切なポイントのひとつに「リペアできるか」があります。長く使って欲しいから、日々生活で使う中で消耗する部分もあるだろう、そこを手入れ・修理できなくては「ロングライフデザイン」とは言いづらい。椅子はフレーム・構造自体はとても丈夫なもの。特に消耗していくのは体重を受け入れてくれる座面で、生地が破れたりへたりを感じてきます。座面パーツを交換できるものも取り扱っている中、Yチェアもやはり座面のリペアが可能。
今回はお客様のYチェアをお預かりし、座面の張り替えを依頼しました。
お客様のYチェアは知人から継いで所有されているそうで、使用年数は通算30年ほど。ペーパーコード張り替えは10年~15年くらいが寿命らしく、このYチェアはコードが切れて限界を迎えていました。
木部は経年がしっかりと現れていてなんともかっこいい雰囲気。これは作ろうとして作れる表情ではないので、本当にいい歳をとったYチェアだと思いました。
Yチェアの正規代理店であるカール ハンセン&サン ジャパン 修理窓口に張り替えを依頼、混み合う時期もあるそうですが今回は3週間ほどでできあがりました。事前に「こういう直しをしていきます」と確認をとりながら慎重に進めてくれるのも安心感がありました。
Yチェアの座面はペーパーコードという紙製のひもを編んで作られています。原料はスウェーデンの針葉樹で、幅4.5cmほどの紙の帯をよってできた3本の紙紐をさらによってできた紐を使います。ひとつの座面に対し一本の紐にしながら(途中途中で結んでつなげていく)編んでいくのですが、この張り替えも本国デンマークで研修をして学んだ職人が行なっていきます。天然素材ゆえ、太さが異なるので椅子ごとに使用した本数も異なります。
張り替えから戻ってきたYチェア、コードがぴちっと並んだ座面は清々しさも感じられます。
張り替えたばかりだと座面のテンションもしっかりとあり、店頭展示品と比べても座り心地に張りを感じます。きっとこれからお客様の座る形に合わせてなじんでいくのでしょう。
通常、木部は経年の風合いをそのままにするためクリーニングはせずに返却します。今回は、座面以外は現状のままで!というお客様のご要望もあり、私たちの方でも特別クリーニングせずに返却しています。このYチェアは現行品とは異なりワックス仕上げのようでしたが、メンテナンスとしてそのままオイルを塗ることもできるそうです。また張り替えに必要な強度を保つため、木部接合部の固定チェックも行ってくれます。
Yチェアは組み立てをひとり、座面張りをひとりと、職人が一貫して行います。今回の椅子ができあがったのがおよそ30年前、その椅子をお客様が使い長年かけて育てあげ、また別の職人によって生まれ変わる工程を垣間見ることができたまたとない機会でした。
東京店ではカール ハンセン&サン ジャパンによる勉強会に参加したスタッフがおり、これがまた歴史ありパーツ説明、メンテナンス実演ありで大変面白い勉強会だったのですが、日々の手入れやフィニッシュそれぞれによる木部メンテナンスの仕方などご案内いたします。ご自宅のYチェアの座面が気になりだしたらぜひご相談ください。
参考文献:坂本茂・西川栄明著 Yチェアの秘密