鹿児島県の伝統工芸品”薩摩焼”。
当時薩摩藩藩主の島津義弘が朝鮮人の陶工師を連れ帰り、戦国時代から長く続く焼物です。その代表的な窯元として知られる「沈壽官窯」へ見学にいってきました。
沈家は現在15代になり、およそ400年もの間、”薩摩焼”の伝統を守り続けてきました。敷地内にある登り窯は圧巻の存在感で、丁寧にメンテナンスしながら150年経った今も使い続けています。薩摩焼は大きく分けて「白薩摩」と「黒薩摩」があり、黒薩摩は鉄分の多い陶土を使用し釉薬も色味のついたものを使用します。白薩摩は対照的で、鉄分の含まない陶土を使用し透明の釉薬を使って表面にひびをあしらい、その上から装飾したものです。
火山灰の降る鹿児島の地で、自然の火の力を借りながら白薩摩を焼き上げるのは容易いことではなく、現在では白薩摩はガス窯で焼かれ、この登り窯では黒薩摩のみを焼いています。また、1300度まで温度をあげるために油分の多い松の木を使用して窯焚きをしています。
職人さんの作業風景を見学すると、ろくろ・絵付け・透かし彫り等、作業ごとに部屋が区分けされていて、それぞれの部屋で各担当が作業をしています。
これが沈壽官窯の興味深い製作工程で、全ての工程を分業制で行い、各担当は基本的にその工程を専属で行います。これは「薩摩焼」をつくらせた島津藩の名残で、技術の盗難を防ぎ流出させないようにするためであったと言われています。何人もの職人さんの手によって1つの器や作品ができているというのは驚きでした。これらの作業風景は窓越しに回廊でき、細かく繊細な職人技はつい見入ってしまいます。
手作業で透かし彫りをされている工程を、近くで見せていただきました。手作業で彫られているということが信じられないほど精密で美しいものでした。
このように彫られた土を1300度という高温で焼くのですが、これだけ繊細なため割れてしまうこともあり、かなりリスクが高いものなのだそう。それでも「火に対する挑み」を止めない。昔からの伝統を継承しつつ、緻密なデザインにも挑み続けています。仕上がりも本当に美しいですが、制作背景を知るとより一層感動します。
ご紹介した透かし彫り・そして絵付けを取り入れ、それら薩摩焼を世界に発信してきたのが12代沈壽官。当時京都から学んだという絵付けにもこだわりがあり、アウトラインから描くことで塗る色との間に若干の余白がうまれて立体的に見えます。
「沈壽官窯」のある日置市東市来町、”薩摩焼の里”ともいわれる「美山地区」は10軒以上もの窯元が集中する県下最大の産地です。それだけ焼物に適した環境が揃っていますが、絵付けをする際に必要な筆・絵の具を作る職人、大切な器や作品を焼くために必要な窯のメンテナンスをする職人など、焼物産業を支える新たな人材を育て伝統を継承していくためには、たくさんの課題もあります。
15代続く歴史ある窯は順風満帆に続いてきたわけではなく、世界で勝てる技術を取り入れ挑戦し続ける姿勢・各分野における職人の方々のこだわりと確かに継承されてきた技術が、今とこれからの”薩摩焼”へと繋がっています。鹿児島は自分の生まれ育った場所でありながら、”薩摩焼”や沈壽官窯の歴史・制作工程・今立ちはだかる問題など知らないことも多く、学びの多い1日となりました。
鹿児島店では、その土地らしさを感じるロングライフデザインを選定した「鹿児島セレクト」として、沈壽官窯の商品をご紹介しています。現地で見て触れて感じたことを店頭でお話しさせていただきたいと思いますので、お気軽にスタッフへお声がけください。
百聞は一見にしかず。ぜひ「沈壽官窯」へ足を運んでみてください。
沈壽官窯 ▶︎ホームページ ▶︎ Instagram|@chinjikan_kiln