「一緒にオリジナルビールを作りませんか」。
東京の檜原村で林業を営む、東京チェンソーズから、ご連絡をいただいたのは2024年2月のこと。東京チェンソーズは、3年前から一緒にオリジナルの家具をつくってきた大切な仲間。でも正直なところ、最初は「林業」と「ビール」が、全く結びつきませんでした。お話をうかがうと、実はこれまでに何度か森の素材をビール材料として提供したことがあるのだそう。しかも、そのどれもがなかなかクセになる味わいなんだとか。
私たちD&DEPARTMENT TOKYOのスタッフも、もっと多くの人に、そして気軽に、「山のしごと」や東京チェンソーズを知ってもらえるきっかけがあるといいのに、と思っていたので、東京店初となるオリジナルビールづくりに取り組むことになりました。
東京チェンソーズとD&DEPARTMENTの取り組み
ビールの話に入る前に、あらためて東京チェンソーズさんをご紹介しましょう。
彼らは、東京・八王子市のさらに西にある人口2000人ほどの檜原(ひのはら)村にある林業の会社。檜原村は面積の93%が森で、そのうちの6割ほどが、戦後、国の方針で植えられたスギ、ヒノキ、サワラなどの人工林。現在は、樹齢70年、直径30cm、長さ4mほどある木が1本3000円ほどで取引され、檜原村の林業は国の補助金などによってなんとか成り立っているのが現実です。
東京チェンソーズは、この現実に日々向き合いながら、森林管理や整備のほか、街へ出向き、丸太や枝などの森のカケラを使ったワークショップ「森デリバリー」をはじめ、幅広いジャンルの活動を通して、いかに「森の価値を最大化していくか」を日々考え、活動されています。
私たちD&DEPARTMENTは、2021年から檜原村の木材を使ったD&DEPARTMENTのオリジナル商品「CORNER SHELF」と「BALCONY TABLE」の開発を皮切りに、東京チェンソーズの「山のしごと」を紹介する企画展やインスタラジオの配信、実際に檜原村を訪れるツアーを開催してきました。彼らの「山のしごと」を通して、森と私たちの暮らしや街のつながりについて考えるきっかけづくりに取り組んでいます。
いよいよ始まる、オリジナルビールづくり
冒頭の「一緒にオリジナルビールを作りませんか」のお声がけのとき、ご紹介いただいたのが、ブルワリーの「アンドビール」。
東京・高円寺と山梨・勝沼の2拠点でクラフトビールの醸造所を営んでおり、「〇〇とビール(&ビール)」 をコンセプトに、国内外のさまざまな場所をまわって、そこで出会った人やもの・経験から、様々な副原料を使ったクラフトビールをつくられています。
主にビールづくりを担当されているのは安藤祐理子さん(写真左)。日本酒やワインは材料の収穫時期などにより、どうしても醸造できるタイミングが決まってきますが、ビールは毎日作ることができます。「人生をかけて試し続けたい!」と、高円寺と勝沼を行き来しながら、新しいビールづくりに日々挑戦しています。
どんなビールにする?
さあ、いよいよ打ち合わせ。東京チェンソーズの鹿毛さんと、アンドビールの安藤さんに相談する中で、キーとなる素材として、ヒノキの根っこを使ってみたら面白いのではないかと提案をいただきました。
実は、東京チェンソーズの取り組みの一つに「1本まるごと販売」があります。1本の木を伐採するとき、市場に流通するのは建築材料などに使える真っ直ぐで節の少ない幹のみ。枝や先っぽの部分は山に捨てられてしまいます。そこで彼らは、「1本1本植えて長い時間をかけ、丹念に育て上げた木をできれば全部活かしたい」と、根っこや葉っぱ、枝などの素材を見つめ直す試みとして「1本まるごと販売」を始めました。販売はもちろん、毎週配信しているメールマガジン「まるごとニュースレター」では、「森のヘンテコ素材」の魅力を紹介しています。
1本の木の価値を高めようと、素材の魅力を存分に知り尽くしている東京チェンソーズならではの、根っこという提案。他の部材と比べ、特に根っこは水や養分を吸い上げ、1~2トンもある木の重さを支える重要な部分です。なかなか目にする機会はありませんが、とても力強く、エネルギーの塊のような美しい木目を持っています。
そんな根っこのチップと、一般的なヒノキのビールに使われる幹のチップをつかって、2種類のビールをつくっていただき、試飲をしてみることに。
根っこと幹では、香りが全然違うことに驚きます。幹も、芳醇な森の良い香りがしますが、根っこはまるで柑橘のような、清々しい香り。これまでのヒノキビールにはない、新しい風味に仕上がりそうと、迷わずに根っこを使うことに決めました。そして、この柑橘感と相性の良いセゾンスタイルのビールに決定。「素材の香りを活かし、誰でもごくごく飲めるようなフルーティーなビールにしたい!」と、安藤さんにお願いしました。
味の方向性が決まり、いざ醸造へ
2024年8月、東京店スタッフも勝沼にあるアンドビールの工場へ。安藤さんから、あらためてクラフトビールについて、材料や工程を丁寧に教えていただきました。モルトの配合や、ホップを入れるタイミングで味が大きく変わるなど、知らないことばかり。
醸造するときにどうしても出る絞った麦のカスは、近くの農家さんの畑へ持っていくそう。ちなみに、今回500リットルの醸造量で、約170キログラムの麦のカスが‥‥‥! 東京では「捨てる」しか選択肢がないものが、山梨の美味しいブドウやモモの肥料へと生まれ変わります。
そして、いよいよヒノキの根っこのチップを投入!
工場にたちこめる、ヒノキの良い香り。期待が膨らみます。
そしていよいよ完成した「TOKYO HINOKI ROOTS SAISON」。
東京の森と、面白い取り組みをしている人々がつくったオリジナルビールです。根っこという、普段は捨てられてしまう、でも魅力が存分に詰まった素材を使った、これまでにはない、新しい風味に仕上がっています。ビールを通して、林業、そして森と街のつながりを感じて頂ければと思います。
東京店スタッフおすすめのポイント
根っこの柑橘っぽさを全面に活かした、フルーティーな風味に仕上がりました。
お刺身や焼き魚などの和食にも、トマトやチーズを使ったイタリアンにも、どんな食事にも合うと思います。良い意味で苦味やヒノキの癖が強くないので、毎日飲んでも飲み飽きない美味しさ。ビールが苦手な人もするすると飲みやすく、ギフトとしてもオススメです!
瓶のラベルデザインは根っこの力強い年輪を表現しています。「東京」というスタイリッシュさと、その中にある「森」の雰囲気がかけあわさった、格好良いデザインになりました。個人的に、飲み終わったら花瓶などとして長く使って欲しいなと思います。
〈 販売店舗 〉
「TOKYO HINOKI ROOTS SAISON」は、以下の店舗でお楽しみいただけます。
・アンドビール(高円寺)☆
・d47食堂(渋谷)☆
・d47 design travel store(渋谷)
・D&DEPARTMENT TOKYO(奥沢)
・D&DESIGN(馬喰町)
・d news aichi agui(愛知)
・D&DEPARTMENT KYOTO / d食堂京都(京都)
・D&DEPARTMENT TOYAMA / DINING(富山)☆
・D&DEPARTMENT MIE by VISON(三重)
☆マークの店舗では、生樽で提供します。
※数量限定のため、在庫・販売状況は各店舗へお問い合わせください。